rashi_catwillowのついのべ

らし @rashi_catwillow

#twnovel 午後六時、大慌てで退勤して電車に飛び乗る。途中下車して丘に登り、ライターで手近な積乱雲を炙る。熱でゆっくり夕を焼く。も少し紅く、も少し紅く、と食べ頃を睨んでいるうちいつしか眠りに落ちていて、気がつけば宵の口。肩を落として帰路に就く。スーパーで熟れたトマトを買って帰る。

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#twnovel 降ってばかりで飽きました、と雨が言うので、今日は代わりに私が降ることにした。驟雨の如く降ったつもりが、勢い余って尻もちをついた。シトシトシトと雨が笑った。雨が差した傘の上で私は踊る。紫陽花が不満そうに親指を下げている。水滴のようなありがとうの声は、よく曇った空に溶けた。

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#twnovel 羽毛布団と取引をした。夏が来ても仕舞わない。押入れの闇に閉じ込めない。その代わり、毎晩羽を授けて頂戴。夢の空を飛びたいの。「喜んで」冷房の風が吹き荒ぶ中、私達は抱き合った。二人とも口にはしないが知っている。保証書がある。温かくて、優しくて、空は飛べないガチョウの羽が90%。

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#twnovel 「きゃあ人間！」出会いがしらお化けは叫んだ。「人間何で生まれたり死んじゃったりするんです？何で吐くほど恨んだり、おなか壊すほど愛したりするんです？意味わからない、生きてる人間！こわいよう」 「落ちついて」震えるお化けをそっとハグして私は囁いた。「こわくない、こわくないよ」

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#twnovel 好きなバンドが解散したショックでビッグバンが起こり、新しい宇宙が誕生した。光は闇に恋をして、星に命の種が宿った。生物が最初の歌をうたうのは、まだ数十億年先のこと。あの個性的なハスキーボイスは有と無のあわいで眠り、再び響く日を待っている。一度もライブに行かずじまいだった。

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#twnovel 幼い頃にそらんじていた詩を忘れてしまった。手がかりを求めて彷徨ううち、森の泉に辿り着いた。「あなたが失くしたのは華美な死ですか?それとも静かな死ですか?」「いいえ、失くしたのはただの詩です」正直者と讃えられ、私は全てを与えられた。幼い私が愛した一節は、私の墓碑に刻まれた。

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#twnovel 人魚が泡になるって話は聞いたことがあるけれど、まさか泡が人魚になるなんて。シャンプーの最中とつぜん頭から人魚が生えた私の驚き、想像してみてください。湯船を占領されてお風呂につかることもできません。失恋すれば泡に戻ってくれるんじゃないかと思い、最近は王子様を探す日々です。

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#twnovel 真夜中、太陽はお忍びで地上に降りた。駅前の切れかかった街灯に化けて、昼とは違う街の姿を物珍しく眺めた。ぼろぼろのギターを抱えた青年が、澄んだ声で歌っている。彼女はぼくの太陽。ネオンも消えて周囲はすっかり薄暗いので、この男の太陽はいま沈みかけているのかな？と太陽は思った。

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#twnovel 神さまの設定ミスで、羊はぜんぶ綿あめになった。夜な夜な羊を数えていた不眠症の子どもたちは、一人残らず虫歯になった。ひどい！ふんだりけったりだ！苦情の電話が殺到し、お詫びのしるしに歯磨き粉が配られた。眠れないまま、子どもたちはいなくなった羊を想う。静かな息はミントの香り。

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#twnovel 目が覚めたら妹はきっとまた泣く。だから少年はお話を準備する。毎日グラグラ揺れるのは、モグラの家族がいったりきたりしているから。一家は失くした大切な何かを探している。何かって……なんだろう？少年は考え疲れて船を漕ぐ。地面からモグラの母が顔を出し、見えない毛布で彼を包む。

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いろんな人から愛されたり、嫌悪されている君をみて、ジュースにしたらどんな味がするんだろう？と思っていた。夢の中でやってみた。毒じゃなかった。蜜でもなかった。どこにでもある水だった。 #君・蜜・毒で文を作ると好みがわかる

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電柱を地中化する計画は失敗に終わった。埋めても埋めても生えてくる。大陸という大陸はあまねくコンクリートの森と化した。資金も、資源も、ヒトの根気ももう限界。仕方なく、人類のほうが地中に潜った。ようこそ後輩、と恐竜の化石が笑う。慣れればここもわるかないぜ？ #ヘキライ 「電柱」 #twnovel

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人前で泣くのはおよしなさい。この街では今、人の不幸を盗む犯罪が横行しています。犯罪者たちはそれをアカシアはちみつと偽って、裕福な国に輸出します。盗られて喜ぶ人もいるけど、あなたの不幸はあなただけのもの。扉に固く鍵をかけて守りなさい。いつか美味しいお酒になるまで。 #twnovel

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紙芝居師の男を食べた。男は胃袋で跡形もなく溶けたが、物語の【つづく】だけは、消化できずに体内に残った。死ねないカラダになったおれは、【おわり】が欲しくて今日も空き地を訪れた。紙芝居はもうこない。おれは聞く耳をもたない町の隙間で、終わらないお話をただ呟くしかない。 #twnovel

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#twnovel 魔法が解けて、世界中の宝石はグミに戻った。王冠飾りも婚約指輪も、友達と入れた揃いのピアスも。「いつまでも不滅だと信じてたのに！」がっかりした人たちは天にグミを投げ捨てた。失うことに慣れた人は、無言で甘い粒を食べた。グミは空で星座になり、お腹の中で思い出になった。

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#twnovel 河原で石を磨く人がいた。何してはるんですか？と訊くと、「星、つくってますねん」との返事。それ神様の仕事ちゃいますか、と言うと、彼女は微笑み首を振った。「つくるんは私の仕事。つぶすんが神様の仕事です」あ、流れ星。「はやいわあ」とため息をついて、彼女は作業に戻った。

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卵の中で産まれた鳥は、卵の中で成鳥になり、卵の中で巣立ちを迎えた。翼を広げて力のかぎり羽ばたく。本能の命ずるまま、天の頂きを越えるまで、高く高く。 #twnovel 暗い森の片隅で、古い卵の殻がはじけた。宙に舞い散る白銀の羽毛。羽は瞬く間に消えたので、子リスはそれを雪だと思った。

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#twnovel 雪はしかたなく結晶した。ずっと空にいたかったのに、雲が許してくれなかった。（私はどんな風に降るんだろう。粉雪？綿雪？ぼた雪はやだな）降下の瞬間、隣の子が「どきどきするね」と囁いて手を握ってくれた。墜ちる。黒い風が唸る。雲間に町の灯がきらめき、雪は思った。きれい。

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#twnovel 路地裏に打ち捨てられた猜疑心は、月夜の晩に黒猫になる。「かわいいー！」と叫んだのは、夜に働く厚化粧の娘。（うそつけ）「連れて帰りたーい！」（うそつけ）陽当たりの悪いワンルームで、子猫と娘は抱きあって眠る。「一人じゃないから、今日はさみしくならないよ」（うそつけ）

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#twnovel 子羊が食んだ牧草は、前世でアラブの富豪だった。「やめろ！余は世界一の金持ちだったのだぞ！」と草は叫んだ。「わあ！だからこんなにおいしいんだね！」やがて羊は肉屋に売られ、貧しい家の夕餉になった。おいしいね、と幼子が笑う。夜半、幼子は夢を見た。目が眩むほど金色の夢。

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#twnovel 「ここは何の工場ですか？」「幸せ工場です」「幸せを作ってるんですか？」「いいえ。現在の技術では幸せを人工的に作るのは困難です。代わりにいろんな幸せの模造品を製造販売しています。ひとつ食べてみてください」「おいしい」「そうでしょう」「でもさみしい」「そうでしょう」

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#twnovel そこのあなた、「ふ」いりませんか？「ふ」はあると便利ですよ。お味噌汁に入れたら美味しいうえに、可能にのせたらふ可能になるし、幸せにのせたらふ幸せのできあがり。ほら、使い道はたくさん思いつくでしょう？今なら無料で「ひ」もお付けしますよ。ふふふふふふ。ひひひひひひ。

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#twnovel 若いカエルは首をかしげた。どうして僕たちは生きてるの？なぜ心臓はドクドク鳴るの？太陽が答えた。神様は踊るのが好きだから、生き物の音を集めてイカしたビートにのっているんだよ。ドクン！ドクン！ドクン！ヘイ！始まったと思ったらすぐ終わる、2分30秒くらいの美しい音楽。

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#twnovel 強盗は、ねこ銀行に押し入って叫んだ。「ねこを出せ！この鞄にねこを詰めるんだ！」「ねこはない」「嘘をつけ！」「本当だ。ねこは今、概念化して全国のこたつに潜りこんでいる。誰もキャッシュに戻すことはできない」強盗はうなだれて帰った。自宅のこたつで、触れないねこを想う。

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#twnovel 丘の上で彼はいった。「見て、綺麗な夜景だろう？実は、あれは電灯の光じゃない。この町の住人は夢を見ると発光するんだ。夢の種類で色も変わる。楽しい夢なら黄色、悲しい夢なら赤といったようにね」夏の宵は赤い灯火に彩られていた。私達は肩を寄せ合い、やがて薄紫の光になった。