酔庫堂日誌

妄想アパート雨竜荘三階北側、調剤本屋酔庫堂のお話。
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七歩 @naholograph

いいアパートを見つけたので引越しを決めたのはいつの事だったか。お部屋は3階ってことで床が抜けないかが心配だけれど気にしない方向で。少しずつ、商売道具の本を運び入れた。周りの住人さんたちはもう暮らし始めているみたいだけれど、ようやく、ようやく今日から暮らせそう。#妄想アパート #酔

2013-04-01 17:58:50
七歩 @naholograph

大きなカバンを持ってアパートを見上げる。このカバンすっごい重いんだけどこれは手持ちにしないとっていうか荷物なんて言ったら怒られそう。3階の北側の部屋。本は陽の光に弱いから、管理人さんが配慮してくれたのかもしれない。本だらけの部屋の中へと足を踏み入れた。#妄想アパート #酔

2013-04-01 18:04:05
七歩 @naholograph

カバンが暴れだす。「ここか」カバンの中から飛び出したのはうさぎ、のロボ的な何か。「いい部屋ね」満足そうに部屋を見渡す。「ここでなら良い商売ができそうじゃない」この黒いウサギの名前はよいこ。ゼンマイうさぎ一族と名乗っているけれどそれが何かを私は知らない。#妄想アパート #酔

2013-04-01 18:07:44
七歩 @naholograph

ここで私、なほとよいこは調剤本屋を商う。よいこは調剤師、私は司書だ。患者さんにぴったりの本を処方するのが私達のおしごと。こんな怪しい信じるものしか救えない商売、ひっそり営業するのが一番。だから。ここは本当にちょうど良かった。#妄想アパート #酔

2013-04-01 18:15:15
七歩 @naholograph

人が少ないほうが、ううんいないほうがいいわ。よいこがそう言うものだから、この時間を狙って談話室へ向かう4時。#妄想アパート #酔

2013-04-02 16:55:37
七歩 @naholograph

人前に出たがらないよいこがどうして談話室へ行ってみたいなんて言い出したのかはわかってる。本棚があるのだ。「何これ。素敵だわ」うっとりと本棚を見つめる(ように思われる)よいこ。表情のない顔は釘付けだ。「…ここの本処方してもいいのかしら」いやダメだから。#妄想アパート #酔

2013-04-02 16:59:55
七歩 @naholograph

「こんなにすごい薬本がたくさんあるのに?」よいこは本棚の端から端へ向かって本棚を睨みながら一定速度で歩く。本棚を飲む、私はこれをそう呼んでいる。こうやって本棚に入った本を全て記憶しているってことはつまり。使うつもりなのね。「非常時にしか使わないわ」非常時ね。#妄想アパート #酔

2013-04-02 17:06:41
七歩 @naholograph

「ねえ、あたし知ってるの」よいこがニヤリと多分笑った。そして本棚から取り出したのは一冊の本。ああ、とうとうバレた。「引越しで見つけちゃったわけ」勝ち誇ったように掲げ持つのは私の書いた物語だった。こっそり混ぜておいたのだ。読んだの?と聞くと当たり前よって。#妄想アパート #酔

2013-04-03 09:54:37
七歩 @naholograph

よいこは続ける。「あんた司書として重宝してるけど、もうひとつ仕事しない?」何よ。「製薬師、やってよ」聞けば、調剤本屋にはオリジナルの本を提供する店もあるのだって。「自分だけの物語に癒されるって人もいるのよ」ああ良かったそういう店が夢だったの。もう決定みたい。#妄想アパート #酔

2013-04-03 10:01:13
七歩 @naholograph

私が問診をして情報を取る。それをよいこに飲み込ませる。そしてよいこがだした処方を私が整える。その形式は今まで通り変わらないけれど、私には、蔵書を自分で作るという作業が増えたわけだ。って、いいのかなあ、私なんかの本で。けれど、楽しそうなので深く考えない。#妄想アパート #酔

2013-04-03 10:05:53
七歩 @naholograph

引っ越したばかりだからかな。最近は手紙での相談が多い。手紙で相談受けたって効く薬なんか処方できないわってよいこは嫌な顔するけれど、こんな商売だ。必要としている人が必ずしも近くにいるわけじゃない。よいこの処方を元に、私は毎日本を揃えて郵便局に通う。そんな日々。#妄想アパート #酔

2013-04-05 14:10:00
七歩 @naholograph

本を作っている。調剤本屋に置く本の話を書き上げたのはいいけれど、よいこは製本について何も教えてくれない。知ってるくせに。親切なふりをして、「一番上の棚」だって。そこに作り方の本があるわって言いたいみたい。このいじわるブラックウサギめ。「企業みたいで光栄だわ」地獄耳。#妄想アパート

2013-05-16 18:00:56

不思議な卵

七歩 @naholograph

共用冷蔵庫のチョコがなくなっていたので、お次はお客様にいただいた卵を入れた。だけどこれただの卵じゃない。一つ一つ違うみたいなのだけれど、1日で消える幻想生物が入っているんだって。その旨を書いて冷蔵庫へ投入。だって要冷蔵って言うんだもん。よろしければお一つどうぞ。#妄想アパート

2013-04-09 16:09:57
七歩 @naholograph

どうやらその卵、食べることもできるみたいなんですが、何しろ生物の形で卵の中に入っちゃっているのでですね。食用にはあんまりオススメしませんって言ってましたよ。@_urt #妄想アパート

2013-04-09 18:44:55
七歩 @naholograph

幻想生物の卵を部屋の中で眺めてる。どうしようかな。割ってから1日なんだよね。光にかざすとうっすら影が見える。よいこは興味無さそう。そうだよね、自分自身が幻想生物みたいなもんだもんね。#妄想アパート

2013-04-10 21:05:36
七歩 @naholograph

仕事もないので卵を割ろうとコツコツぶつけてみた。すると、中からコツコツと音がする。殻を破ろうとしてるのかしら。手助けするようにもっと強くぶつける。ヒビが入る。私は思い切りよく開けた。#妄想アパート 2つに割れた卵の中には何もいない?

2013-04-12 14:44:43
七歩 @naholograph

違う。音がする。何か言ってる。どこにいるの?と尋ねたならばここだよって。テーブルの上で声はするけれど姿は見えない。お前こそどこだ。そう言われたけれど私はここにいるとしか。その遣り取りを見ていたよいこが言う。「そいつ、みにくいよ」相変わらず失礼な。#妄想アパート

2013-04-12 14:52:24
七歩 @naholograph

「勘違いしてるでしょ。みにくいは名前。そいつ透明生物よ」目を凝らす。見えない、けれど声がしてなんていうか気配はあるの。「おい黒いの。お前何者だ」「失礼ね。みにくいのくせに」「失礼はお前だ」喧嘩はやめてっていうか、どうしてよいこのことは見えるの?#妄想アパート

2013-04-12 14:59:23
七歩 @naholograph

「みにくいは目が悪いの。詳しくは知らないけれど人間の世界にある色の中では黒くらいしか見えないって聞いたわ」それで私のことが見えないみたい。それじゃなんだかつまらないから。私は真っ黒な手袋をした。「僕のご主人はお前か!」指先に感触。そして、多分口づけ。#妄想アパート

2013-04-12 15:02:38
七歩 @naholograph

お茶を三人分用意する。チョコレートを三人分用意する。「そんなやつに優しくしてやる必要ないわ」ってよいこはいうけれど。肩に、頭に、飛び回るみにくいは可愛い。「それにそいつほんっとみにくいもの。顔的に」見えるの?「あたしを誰だと思っているの?」ゼンマイうさぎ族って一体。#妄想アパート

2013-04-12 15:18:29
七歩 @naholograph

みにくいは眠らない。眠れないの?と聞いたなら、だってだってって。そうか1日で消えるのが運命。眠りたくないのかも。「もう、寝るわよ」よいこが言う。「みにくい、あんたそんなに眠そうじゃない」そうなんだ。私はみにくいを撫でた。少し経つとみにくいは喋らなくなった。掌に体温。#妄想アパート

2013-04-13 00:22:42
七歩 @naholograph

みにくいを肩にのせて、一日過ごした。外の世界も見せてあげたくって肩に乗せて散歩する。そんなにしてやることないわってよいこは冷たい素振りだけれど、気にしない。よいこはいつだって意地悪だもの。私とみにくい。二人で桜並木を歩く。肩上10センチ、桜の花びらが宙に留まる。#妄想アパート

2013-04-13 23:48:38
七歩 @naholograph

無関心なよいこをよそに私たちは楽しい時を過ごした。けれど。少しずつみにくいの口数が減っているのに気がついた。そして、私の肩が濡れた。#妄想アパート 「消えたくないなあ」ぽつりと呟くみにくい。もうすぐ、24時間だ。「せっかくあえたのに」別れの時間は確実に近づいていた。

2013-04-13 23:54:28
七歩 @naholograph

「ねえよいこ、これってどうにもならないの?」「ならない」「みにくいは死んじゃうの?」「死なないけれど消える」「消えない方法、ないの?」「ないって言ってるでしょ」何も怒らなくたって。「だからそんなにするなって言ったのに」「え?」「悲しむくらいなら関んなきゃいいのよ」#妄想アパート

2013-04-13 23:59:24