あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。 おじいさんは山へ柴刈りへ、おばあさんは川へ洗濯へ行く体力すらありませんでした。二人とも後期高齢者だったのです。
2013-06-20 12:09:11おばあさんが河で洗濯をしていた若い頃を夢想していると、 川上から大きな桃が流れてくるではありませんか。 「桃が!桃が流れてくる!」 現実と想像の境が分からないおばあさんは、驚きのあまりベッドの上でのた打ち回るのでした。
2013-06-20 12:13:15その様子を見ていたおじいさんが言いました。 「ばあさんや。薬を飲もうか」 「桃の中から!桃の中から赤ちゃんが!ひぃい!」 「これはひどい。わしの手には負えん」 おじいさんは苦虫を噛み潰したような顔をして、 ナースコールのボタンに手を伸ばします。
2013-06-20 12:17:49「どうされましたか?」 病室に看護師さんが入ってきました。 「ばあさんがこの通りで。はい」おじいさんが申し訳なさそうに言います。 と、おばあさんが急に立ち上がり、叫び始めたのです。 「殺れ桃太郎!鬼どもを皆殺しにしろ!」
2013-06-20 12:21:32血走ったおばあさんの目。長年連れ添ったおじいさんですら戦慄を覚えるのでした。「これがわしの妻だと言うのか」 おばあさんはなおも続けます。 「猿はもう助からん!犬と雉のフォーメーションでいけ!それ!そこだ!」
2013-06-20 12:25:16あまりの様子を見かねて、おじいさんが言いました。 「看護師さん。早く、早くコイツを楽にしてやってください」 その言葉を聞いて、おばあさんが言いました。顔には残酷な笑みを浮かべています。「うむ。とどめをさしな桃太郎。喉元を掻っ切るんだよ…」
2013-06-20 12:29:355分後。静脈にお薬を注射されたおばあさんは、 拘束具に包まれて安らかに眠っています。断片的に聞こえる寝言は、 「金…銀…財宝…うふふ」、「おかげできび団子…馬鹿売れ」、 「犬と雉はサーカスに…」 まさに至福といった表情で、安らかに眠り続けます。 めでたし、めでたし。
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