漆黒のシャルノスSS 「Mくんとモランの一日」 

小学生なMくんとその保護者モラン大佐の一日 小学生なメアリも出るよ! 本作はライアーソフトの『漆黒のシャルノス』の二次創作です。 ネタバレらしきものもあるので、ご注意ください。
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恭一 @kyoichi562

Mくんはロンドンの小学校に通う普通の男の子。ちょっと無愛想で、多少人見知りだけど、保護者であるモランにとっては誰よりも可愛い可愛い自慢の男の子。

2010-09-21 01:19:51
恭一 @kyoichi562

そんなMくんがある日「モラン。今日の放課後は、帰りが少し遅くなる」いつも学校が終わったらまっすぐ帰宅していたMくんの、初めての言葉。いつも通り、今日のおやつと紅茶は何がいいだろうか、と考えていたモランは驚いて「……はい、あるじ」と返すのが精一杯で――

2010-09-21 05:04:06
恭一 @kyoichi562

あの言葉以外、Mくんはいつも通り。違う所など一つも見当たらなくて。それが余計にモランを不安にさせる。だからモランは独断で、紅茶の葉を買いに行く、と自分自身への言い訳を用意して。そして終業のチャイムがなった時、小学校の前で暗示迷彩を纏いMくんを探していたモランが見たものは――

2010-09-21 01:31:03
恭一 @kyoichi562

「ジェイムズ!」ふと、声に反応してモランが見つめた先にいたのは、綺麗な銀色の髪と青色の瞳を持った可愛らしい女の子。その姿はモランの探すあるじではない。だが――「ジェイ、ムズ」それはモランのあるじの名。モランが容易くは呼べない名。それを、あの少女が当然のように呼ぶのを耳にして――

2010-09-21 01:43:31
恭一 @kyoichi562

「待て。仔猫」呆然としていたモランの聴覚に、あるじの声が届く。「仔猫って呼ばないで! ジェイムズより私の方が背高いんだから」《キティ》そう呼ばれた少女とあるじの会話。「……少しだけだ」「少しでも、私の方がお姉さんよ」悔しそうに言い返すあるじの表情を、モランは初めて目にして――

2010-09-21 01:54:09
恭一 @kyoichi562

「ある、じ」自分の知らない表情をするMくんの姿を見て、モランは吐息のように声を漏らす。その瞬間、あるじと目があって「……行くぞ。メアリ・クラリッサ」「え? ま、待ちなさいよジェイムズ!」――なのに、Mくんはモランに背を向けて、メアリと呼ばれた少女と歩き出す。それがモランには――

2010-09-21 02:04:01
恭一 @kyoichi562

拒絶。拒絶。それ以外、あるじの行動に意味を見出せない。なぜ、どうして、疑問の言葉はいくらでも。でも、だけど、否定の言葉をいくらでも――「あるじ……それでも、私は……」明確とも言える拒絶の意思を、モランは自身の意思でねじ伏せて。そして、モランは2人の後を追った。

2010-09-21 02:14:07
恭一 @kyoichi562

「ここは?」2人を追ったモランがたどり着いたのは、大通りから路地裏に入った先にある1軒の家だった。「人の気配なし……空き家か」そう人の気配一切ない。先ほど、家に入って行ったあるじとメアリと呼ばれた少女を除いては。そのはずだった。「これは……」小さな生命の反応をモランは探査して――

2010-09-21 02:29:03
恭一 @kyoichi562

「あるじ……!」胸騒ぎをモランは感じた。そんな機能の有無など気にも止めず、走査した結果に従って2人がいるはずの部屋のドアを開けて「――あるじ!」「へ? だ、誰!?」「……モラン」そこに居たのはあるじとメアリ。そして、あるじに抱かれた真黒な毛並みの一匹の仔犬だった。

2010-09-21 02:44:02
恭一 @kyoichi562

「あるじ……これは一体」驚いた表情の2人へモランは問いかける。「えっと、ジェイムズの知り合い……なの?」驚いた表情のまま、メアリはあるじに質問して「モランだ」一瞬だけ見せた驚きの表情を戻して、Mくんはそう答えた。それは何よりも正しい答えで、何よりもモランにとって嬉しくて――

2010-09-21 03:03:20
恭一 @kyoichi562

「つまり、あるじとメアリ・クラリッサ――あなた達は、この仔犬を隠れて飼っていたのですか?」「はい」「……」「わん!」素直に、申し訳なさそうに頷くメアリと無愛想な表情のままのあるじ、そして元気よく鳴く仔犬の2人と1匹を見て、モランは小さくため息をつく。それは呆れたのではなくて――

2010-09-21 03:10:37
恭一 @kyoichi562

その瞬間、メアリは美しいものを見たように頬を染めて。Mくんは無表情のまま、だけど眩しいものを見るように目を細めて。仔犬くんは相変わらず、でも元気よく「わん!」と吠えて――自分達を暖かい笑みで見つめるモランの笑顔に、2人と1匹は見とれていて――

2010-09-21 03:17:48
恭一 @kyoichi562

「メアリ・クラリッサ。どうして、ここで飼おうとしたのですか?」「……あたしの家で、この子を飼えないから……あたしが、この子を拾った、のに」泣き出しそうな弱々しい声にモランは確信する。この少女の優しさを。そして、なぜあるじが共にいるのかを。「あるじ」だからモランは提案を口にして――

2010-09-21 03:28:22
恭一 @kyoichi562

「本当に……いいの? モランさん」「はい。構いません。メアリ・クラリッサ。それと、私のことはモランとお呼びください」そう答えると、メアリは満点の笑顔で「ありがとうモラン!」「はい。あるじ、よろしいですか?」「構わん」メアリの笑顔を見つめるあるじの瞳に、モランは気づいたけれど――

2010-09-21 03:35:16
恭一 @kyoichi562

「お家が出来て良かったね。仔犬くん」結局、仔犬はMくんの家で飼うことになった。どうやら、あるじも同じことを提案しようとした時に、モランが部屋に入ってきてしまったらしい、というのは後にわかったことだ。ふと、モランは疑問を抱いて「メアリ。仔犬の名前は?」質問を、メアリが答える前に――

2010-09-21 03:46:40
恭一 @kyoichi562

「セバス」そう口にしたあるじを、メアリは不思議そうに「それって、仔犬くんの名前?」「そうだ」「セバス……うん、いいわね!」「わん!」――セバス。その名を喜ぶように仔犬は元気よく吠えて。その光景を「あ、あ、あるじ?」セバスチャン・モランは、顔を真赤にしながら見つめた。 END

2010-09-21 03:56:15
恭一 @kyoichi562

【その後】 そこは暗い部屋。そこにいるの2人と1匹のみ。「あるじ。これ以上の空腹は拡大変容を招きます。ご指示を」「はは」微かな笑い声。それは幼いが、ある感情に満ちていて「提案しよう! ブラックドック! 食事の時間だ!」幼い声で、Mくんは高らかと真黒な仔犬に告げて――

2010-09-21 04:20:10
恭一 @kyoichi562

「……2人とも何してるの?」メアリが見たのは、セバスと名づけた仔犬に待てを教えているモランと餌の入った入れ物を高々と持ち上げているMくんの姿だった。「……モラン」「申し訳ありません。あるじ。どうやら、玄関の鍵を閉め忘れていたようです」「……」そしてMくんは微かに頬を赤くした。

2010-09-21 04:25:08