艦これ小噺まとめ

T_Miyabi⚙ @T_Miyabi

前に、からかい半分で、時雨にレイテ沖の事を聞いたことがある。時雨の顔を見て、俺はすぐに後悔したが、それでも彼女は話してくれた。欠陥品と揶揄され続けた友人の、待ちに待った、最初で最期の大一番だったと。それを話せるのは自分だけだからと、話し終えた時雨は笑っていた。 #艦これ小噺

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「何それ？司令官それでも軍人？目の前で助けを求められて、ほっとけるわけないじゃない！」キス島への上陸は危険すぎる。許可できない。そう言うと、雷は烈火の如く怒り抗議した。電に制止を求めたが、彼女は上目遣いで睨んでくるだけだった。この顔になると、電は姉よりも頑固だ。 #艦これ小噺

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俺は雷電姉妹に、二つの条件を課した。島風と雪風を付けること。雪風が危険を告げたら、島風の手を掴み、振り返らずに真っ直ぐ逃げること。最近キス島で確認された新しいフラグシップ……長い黒髪の戦艦のことは、最後まで告げなかった。 #艦これ小噺

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火が嫌いだという陸奥を除いて、我が港の食事は当番制だ。あの赤城も、作る側に回ればなかなか様になる。大所帯の食支度もてきぱきと……加賀、どうしたつまみ食いか。 「ねぇおにぎり作ってよ。丸くないやつ。綺麗に三角に握ってみて。三角じゃないとダメだから」 喧嘩はやめなさい。 #艦これ小噺

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なぜ雪風の手を払ってしまったのだろう。いや、後悔はしない。ただ、あのスラバヤ沖は奇跡だったと、雷は思った。救出者を抱き、せめてこれだけはと、不格好に逃げ回る。攻撃機は鴉のように迫っては離れていく。水平線には空母ヲ級の感慨の無い目が見える。もう、西も東もわからない。 #艦これ小噺

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あの雪風が狼狽している。いつのまにか居なくなった雷の無謀さと、追ってくる敵の数を測るには、それだけで充分だった。妹の方を雪風に任せ、島風は来た道を引き返した。いつもは全力で走ると怒られる。でも、今日は誰も怒らない。間に合う？間に合うに決まってる。だって私は速いから！ #艦これ小噺

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司令部の廊下は歩行厳守である。直近だけでも最上、阿武隈、北上が廊下でぶつかってケガをしているためであり、血の気の多い天龍龍田や空母連中がケガをしたらと思うと提督は不安で夜戦も元気がない。愛宕は「ちゃんと周りを見てないからよ」と呆れていうが、これは相手にされていない。 #艦これ小噺

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薄々はわかっていた。自分は追い立てられている。それでも。目が霞み、反射で動いているだけの身体でも間違えない。吹雪が憧れ、もう一度会いたいと泣いた、美しい黒髪。時雨が話してくれた、威容を誇る大きな主砲。張り付く喉を振り絞り、雷はその黒い影に叫んだ。 「助けて、扶そ」 #艦これ小噺

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自慢の新型タービンが音を上げ始めた頃、島風の両目は雷の姿を捉えた。でも様子が変。そばにいるのはどう見ても、戦艦ル級フラグシップ。あの長門や赤城でも手を焼く危険な相手。なぜ撃たない？ あれは誰？ でもそんなことは関係ない。島風にとっては遅すぎる！ #艦これ小噺

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……遂にその時が来た。直々に、そして久々に下された「レイテ沖にて敵基地を急襲せよ」の命。妹は顔を輝かせた。曰く、伊勢にも日向にも、鎮守府の年寄りにも思い知らせてやると。でも、私にはわかる。嗚呼、超弩級の誇り、なんてちっぽけなの。私にも、この青い空が掴めたら……！ #艦これ小噺

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救出対象まであとわずか。狙いを定めては遅すぎる。彼女はさらに加速した。ーー最大速力40ノット。メートルにして時速70kmを超すその島風は、周囲を囲む護衛を一足飛びにし、勢いを全く殺すことなく、頭二つほど違う体格の敵旗艦の後頭部めがけ、連装砲を叩きつけた。 #艦これ小噺

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鎮守府の物資不足は深刻だ。金剛の紅茶も底を尽き十日が経った。金剛は衰弱し一時は命も危ぶまれたが、北上が釣ってきた雑魚を赤城の油で揚げて英国から取り寄せた軽食だと伝え与えたところ、瞬く間に回復し旗艦に復帰した。一方、同じものを食べた比叡は後日穏やかに息を引き取った。 #艦これ小噺

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我輩は利根である。こっちは猫の多摩。薄暗いじめじめした所でニャーニャー鳴いているのが好きなのは多摩であるが、我輩はここで初めて人間という生き物を見た。後で聞くとそれは提督という人間の中で最も獰悪な生き物だったそうだ。時々駆逐艦を喰うという話である。龍田が言ってた。 #艦これ小噺

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戦艦陸奥は憂鬱だった。この鎮守府で行われるささやかな花火大会である。陸奥は火が苦手だ。あの光と音が夜を覆う度、身を裂かれるような恐怖を感じる。しかし年少組の夏の楽しみを、自分の我儘では潰せない。陸奥は嵐を望んだ。雨乞いが通じた日、今度は龍禳が布団から出てこなかった。 #艦これ小噺

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転生し人の身を得て、これでもう一度やり直せると思った。あの忌まわしい光にも屈せず、連合軍旗艦として、この国と民を守るため。戦艦長門は、そう思っていた。いや、今でも思っているが。 「陸奥……痛み止はあるか。毎月のこととはいえ、やはり……慣れん」 「あらぁ、あらあら♪」 #艦これ小噺

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軽巡天龍。遠征隊旗艦として駆逐艦を指揮する古株。提督の信頼は厚く、伊勢の放言にも付き合うし、だらしない陸奥にも苦言を躊躇わない。でも提督のふかす煙管が苦手。カレーは甘口。以上。青葉、資料まとめ終わりました。……何かしら、この寒気。あ、ああ、そんな！提督、窓に！窓に！ #艦これ小噺

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今日も鎮守府は物資不足だ。北上の素人釣りも頼みな有様だが、珍しく北上から通信が入った。 「大物がかかったよ。迷子の船。保護していい？」 「船名はどこかに書いてないか？」 「外語だからわかんないや。えっと、せあ……せぺるど……いち？」 「大井を送る。その場で雷撃処分」 #艦これ小噺

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司令部には若干の夜食がある。ある日食堂に降りると、子供の様に泣いて両腕を振り回す龍驤と、その頭を抑えて謝る陸奥がいた。曰く、むづがウヂのアイズだべはっだぁ、と。仲裁すると、陸奥の好きなもの一回分、と和解の条件を挙げたので、目配せの後、龍驤を抱えて部屋に持ち帰った。 #艦これ小噺

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島風の奇襲を許したル級のダメージは軽微だったが、その姿は海底に消えた。混乱する護衛を放置し、島風は動かない雷に駆け寄った。……深海から、おぞましい手が延びている。雷を掴もうとするその手を追い払うと、島風は雷の体を抱え上げた。自慢の新型タービンが、抗議の異音を発した。 #艦これ小噺

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連装砲たちに支えられて雷を背負った島風に、ル級が立ち塞がった。……首が、歪だ。生まれ変わる前なら、艦橋ごとへし折っていただろうか。殺気はない。ただ、他の深海棲艦より、少しだけ目が哀しかった。 「貴方、誰なの」島風は問う。「この子、友達だから。返して」気配が変わった。 #艦これ小噺

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駆逐艦は勘が命。戦艦ル級の主砲が音を立てて開いた時、島風は既に動いていた。このデカブツを振り切って南に抜ければ、雪風と合流できる。駆け出した島風の背後で爆音が連なった。殺気が、音を越えて迫ってくる。出撃前に蒼龍が結んでくれたお気に入りのリボンが、真ん中から千切れた。 #艦これ小噺

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夜行性の川内も、日曜の朝は律儀に起きてくる。どうやら駆逐艦たちと子供向け番組を見るのが楽しみのようだ。司令部の宿舎でも珍妙なポーズをしていたのは知っていたが、先日は夜戦ライダーセンダイと称して赤城に喧嘩を売り、見事なアームロックを極められ修理ドック行きとなった。 #艦これ小噺

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提督に、初めて本気で殴られた。いやもっと酷いことはされたけど、そっちはまぁ、いいや。艦隊が五人で帰ってきた日、執務室から出てこない提督に少しでも元気になって欲しくて。ドアの前で言ったんだ。ゲームだしまた会えるよって。そしたらドアが開いて。那珂、どっかおかしいのかな。 #艦これ小噺

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北国帰りの駆逐艦に、横須賀の暑さは堪えたらしい。訓練中に突然倒れた響は、入渠ドックに運ばれるや空きバケツに嘔吐した。響は青白い顔で脱落を詫びると、他の三人が気がかりだから様子を見て欲しいと告げた。曰く、僕は弱くて我慢ができないから、生き残ってしまったんだ、と。 #艦これ小噺

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長門は激怒した。必ず、かの怪誕不経たる潜水艦などを鎮守府に配備させてはならぬと決意した。長門には戦略がわからぬ。長門は、連合艦隊の旗艦である。誇りを背負い、正々堂々と戦って生きてきた。けれども、提督の興味が他の艦に向くことに対しては、人一倍に敏感であった。 #艦これ小噺