艦娘には向かない職業

研究室の合間にごそごそ
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ドロドロセレックス @p_cyclase

一人でもそもそと提督室を改装してみた。

2013-08-23 13:24:50
ドロドロセレックス @p_cyclase

黒地に白で松と波のシルエットをあしらい、差し色の赤がイカすモダンアート壁紙は俺のお気に入りだ。ラブホなどとは言わせない。しかし、いかんせん合う家具がない。

2013-08-23 13:26:37
ドロドロセレックス @p_cyclase

赤やピンクの家具はあっても、いかんせん赤のノリが違いすぎる。そこで、床でこの間家具屋でサービスしてもらったスイカでも割れば赤同士で調和するのではないかというのが今回の改装の理由だ。大失敗だった。

2013-08-23 13:28:41
ドロドロセレックス @p_cyclase

「これは駄目だな……」 いつも通り、紅白衣装の秘書でも呼んでごまかすしかあるまい。この壁紙には翔鶴さんがよく似合う…… と、考えていると、ほとんど茶色く枯れた紫陽花が覗く障子窓からピンク色の髪が顔を出した。お前じゃない。

2013-08-23 13:33:09
ドロドロセレックス @p_cyclase

「艦隊のお早いお帰りです! ご主人さま、また模様替えですか」 「漣か。お帰りんこ」 「ただいまんこ!」 「ためらいねーなオマエ」 なぜか胸を張って見せる幼い少女は、これでもうちの鎮守府一番の古株だ。おおかた、遠征から帰って補給へ向かう途中だろう、が。

2013-08-23 13:36:49
ドロドロセレックス @p_cyclase

「それで。エセ金剛さんから伝言なんですけど」 「外人のことエセ金剛みたいに言うなよ。なんだ?」 「これから姉妹でお茶会をするんで、提督ゥもどうでスカぁって」 拙い口真似に、姉妹の面々を思い出す。うちの鎮守府に来た順に、霧島、金剛、……榛名。

2013-08-23 13:44:05
ドロドロセレックス @p_cyclase

「……いい。俺榛名嫌い」 漣から目をそらすようにして、彼女が顔を出すのと隣の障子窓にもたれかかる。 「わざわざ誘うあたり、あちらさんも察してんだろ」 「ふうん?」 漣は、なぜか提督室に身を乗り出して、わざわざ内側から俺を振り返って見せた。

2013-08-23 13:48:21
ドロドロセレックス @p_cyclase

俺はちらりとも振り返らずに……という感じで行きたかったのだが、漣がこちらを見ているのを見た以上。視線で振り返ってしまったのだろう。女々しい。 「あいつ怖いもん。マニュアルみたいなことばっか言うし。特に、ここんとこは南方で根詰めてたからさ。……夢に見るんだよ」

2013-08-23 14:00:21
ドロドロセレックス @p_cyclase

「夢ですか」 「夢だよ。ドッグから榛名が出てきて、いつもの調子で俺に話しかける。俺はお上さんから賜ったナントカでその首をちょいと撥ねる」 そこでは漣の表情を見ない。これはこれで女々しい。 「それでも、あいつの首は同じ調子で、提督はお優しいのですね、とか喋り続ける」

2013-08-23 14:05:40
ドロドロセレックス @p_cyclase

一昨日見た夢の光景が蘇ってきて、慌てて首をふり、おどけて見えるよう肩をすくめる。 「あいつはそういう女だよ」 「漣は榛名さんがどういう女かより、ご主人さまが昔どんな女にこっぴどくフラれたかのほうが気になりますね」 「うるせえ」

2013-08-23 14:11:23
ドロドロセレックス @p_cyclase

体重を深く預けると、木の窓枠が軋んで鳴いた。 「どんな女もこんな女も、多かれ少なかれそんなもんだろ。お前だってそうだ。漣」 回りくどい角度で、視線が合う。

2013-08-23 14:16:09
ドロドロセレックス @p_cyclase

「お前はふざけているフリして心にもない言葉ばかり言う。それも、騙す気もない、バレてくださいと言わんばかりの冗談ばかりをな。本当のことを言わずに済めばそれでいいんだ。俺には本心を言う価値なんかないと思ってるし、それどころか、できればそう思ってるのが伝わればいいとさえ思ってる」

2013-08-23 14:19:38
ドロドロセレックス @p_cyclase

視線の先で、幼い少女はにっと邪悪に笑った。 俺が女というものに抱く戦慄そのもののような、愛らしい笑顔だった。 「ご主人さまって、提督向いてませんよね」 向いてない。 その言葉が思ったよりすとんと腹に落ちて、「そうかもな」と呟いて、満腹の猫のように伸びをした。

2013-08-23 14:26:38
ドロドロセレックス @p_cyclase

「じゃ、模様替え屋にでもなっかなあ……。そしてベッドを仕入れて雷とセックスするんだ俺」 「まーたそれですか。いーかげん本人にバラしますよ」 「いっそバラしてくれよ……。あれに好かれてんのホント身がもたない。駄目になる」

2013-08-23 14:41:37
ドロドロセレックス @p_cyclase

軽口を叩きながら、部屋の隅に積んだスイカをひとつ投げてよこす。 漣は一瞬丸い目をしたが、難なく受け止めて「よっこい、しょういち」などと古いギャグを飛ばす。 「お茶会に差し入れてくれ。彼女らは先のE3作戦での武功もあるし」 「スイカを……?」 「スイカを」

2013-08-23 14:45:24
ドロドロセレックス @p_cyclase

「漣、頼まれましたけど」 スイカを軽く投げあげ、抱きなおして、漣が首をかしげる。 「嫌いなんじゃないんですか? 榛名さん」 「嫌いだけどね。楽しくやっててほしいとは思うよ。俺の目の前以外で」 「それはバラします」 「やめれ」

2013-08-23 15:35:17
ドロドロセレックス @p_cyclase

「大丈夫、冗談ですよ。ご主人様がそう思うなら」 ふい、と顔をそむけて、漣は港の側へ踵を返した。金剛姉妹のお茶会とやらは、海を見ながらしゃれ込むのだろうか。だったら、意外とスイカも入用だったかもしれない。 四角く切り取られた波打ち際に少女の姿が消えていく。少女の姿の何か、が。

2013-08-23 15:39:14
ドロドロセレックス @p_cyclase

「比叡も喚んでやらんとな、いつか」 造って、とは言わない。それが最後の一線だった。 あの日、榛名がドックから出てきたとき、一言挨拶をされたときに初めて気が付いた……『造ってしまった』という感覚を、他の娘にまで引きずりたくはない。 榛名のことが嫌いだ。 そこで止めておかなければ。

2013-08-23 15:46:38
ドロドロセレックス @p_cyclase

俺はいつもの仕事……提督室の模様替えに戻る。 「このビニールシートは失敗だよな……いっそタイルにするか? 床」 ご主人さまって、提督向いてませんよね。そんな何気ない言葉を反芻しながら、

2013-08-23 15:49:42