空想の街・ハンツピィの宴 ５日目

さとうすずすえ @sugar_100g

ハンツピィの宴から帰る途中、ニワトリにあった。オレンジの羽が美しい、大きなニワトリ。最初は、なんだ鏡かー、なんて思ったんだけれど。(あ、美しいにはあえてツッコまないでください)よくよく見ると、わたしとははっきり違っていた。トサカが、大きいのである。#空想の街 #にわにわにわとり

さとうすずすえ @sugar_100g

「おんどりだ！！！」思わず叫んでしまった。目の前にいるおんどりは、驚いて目を丸くしている。鳩が豆鉄砲を食らったような顔だ、いや、正しくはニワトリが豆鉄砲か。#空想の街 #にわにわにわとり

さとうすずすえ @sugar_100g

わたしと同じだと見紛ったオレンジの羽は不思議なグラデーションをしていて、首元にいくほど淡く青みがかっていた。同じオレンジでも、全然違う。わたしのオレンジが日が落ちる色なら、彼は日が昇る色だ。日が昇る一瞬のきらめく世界、暁の、その色だ。#空想の街 #にわにわにわとり

さとうすずすえ @sugar_100g

「こんばんは」「…あ、こ、こんばんは…」あ、いい声。その上、丁寧で優しい口調。姿勢よく立つその姿は、なかなかかっこいい。ああ、こんな声に朝を告げられたい。「もう帰るの？」「あ、はい、宴も終わったし」「そう」おんどりは続ける。#空想の街 #にわにわにわとり

さとうすずすえ @sugar_100g

「君、まだ変化戻らないの？」う、痛いところを。「…ポムの星、七個も食べちゃって…」まだ戻らないんです、と呟くと、おんどりは目をぱちぱちさせ、そのあと、笑った。それはもう、大きな声で。後ろに隠れていたよぞらとたんぽぽも笑い出して、もう収集が付かない。#空想の街 #にわにわにわとり

さとうすずすえ @sugar_100g

おんどりが笑いながら言う。「お前馬鹿じゃねーの！」なんて言ったからびっくり。さっきの優しい口調はどこにいってしまったの。幻滅にも近い気持ちのまま、わたしは叫ぶ。「失礼ね！馬鹿じゃないわ、ニワトリよ！」「うまくねーよ！」くっ、なかなかやるわねおんどり。#空想の街 #にわにわにわとり

さとうすずすえ @sugar_100g

ていうかこの人もまだ変化したままじゃないの、人のこと言えないくせにまあよく笑うこと。そんなことを悔し紛れに考えていたら、おんどりが「じゃあ、ちょっとそこまで付き合え」と、言った。言ったっていうか、言い放った。#空想の街 #にわにわにわとり

さとうすずすえ @sugar_100g

なんで。どこに。やだよ。丁重にお断りしようとした、そのときだった。「たまこ、よぞら行きたい」「ぼくもいきたい」ああもうこの子たちは。がっくりと項垂れても、きゃいきゃいはしゃぐ姿はかわいくて、しょうがないか、なんて思ってしまう。親馬鹿です。#空想の街 #にわにわにわとり

さとうすずすえ @sugar_100g

おんどりは笑って、羽を差し出す。これはどういうこと？「えーと…手を繋ぐのですか、」どぎまぎ。「馬鹿、違ーよ。握手」あ、握手ね…ていうかまた馬鹿って言われた。やっぱこいつ口悪い。くそう。#空想の街 #にわにわにわとり

リュカ @ryuka511

翌日。目を覚ますと少女の姿が無かった。荷物は置いたままだから街へ出たのだろうか。見知らぬ街で迷子にならなければいいが。「探しに言ってみましょうか。」簡単に身仕度を整え神父は街へ出た。 #空想の街 #金柑スプラッシュナイト #彷徨う神父

リュカ @ryuka511

街はまだ祭の余韻を残している。大量のポムの実を食べた人々はまだ元の姿に戻らないようだ。狐の尾を持つ少女も大勢いる。探すのは至難の技だった。街を歩きながら、利発な彼女の事だからちゃんと自分で戻ってくるかもしれないと思い始める。 #空想の街 #金柑スプラッシュナイト #彷徨う神父

リュカ @ryuka511

もしかしたら私の方が迷子として探されてしまうかも、と苦笑する。どうしたものかと考えていると低い位置から声がした。視線を落とすと青い不思議な生き物が話しかけてきている。イクチオステガと言う生き物に変わっている青年のようだ。 #空想の街 #金柑スプラッシュナイト #彷徨う神父

リュカ @ryuka511

事情を話してみたが彼は首を振る。やはり難儀な探しらしい。街では停電に注意するようにとの報せもあり心配になる。彼にそんなに大事な奴なのかと問われ「その子は私にこの世界にただ一人、という存在の強さを教えてくれたんです」と答えた。 #空想の街 #金柑スプラッシュナイト #彷徨う神父

さとうすずすえ @sugar_100g

道中、どこにいくの、という問いにはおんどりは一切答えなかった。ただ至極嬉しそうに歩いていく。よぞらとたんぽぽは、行きたいと言った割には早々に、眠いと言って寝てしまった。今はわたしの腕の中。#空想の街 #にわにわにわとり

さとうすずすえ @sugar_100g

やがて到着したのは、ポムの星がたくさんなった大きな木の下だった。今は午前二時頃。トゲはほぼ消えかかっている。一年に一度の宴を終えたこの木に、何の用があるというのだろう。そう思っていたら、おんどりはおもむろにポムの星を一個手に取った。#空想の街 #にわにわにわとり

さとうすずすえ @sugar_100g

。「それ、毒よ」「知ってる」ならどうして？と言いかけて、口をつぐむ。おんどりは、泣いていた。「ねぇ、…」どうして泣いているの、と言いたいのに、うまく言葉が出てこない。考えあぐねていると、おんどりは歌うように話しはじめた。「おれはね、死ぬんだよ」#空想の街 #にわにわにわとり

さとうすずすえ @sugar_100g

「おれは、人間なんだ」うん、ポムの星でニワトリに変化しているんでしょう？「そう、50年前に」50年、前？このおんどりは何を言っているのだろう、ポムの星の効果は一個で約一時間なのに。おんどりは歌うように続ける、#空想の街 #にわにわにわとり

さとうすずすえ @sugar_100g

「50年前、ハンツピィの宴のあと、おれはここで魔女に行き会った。魔女はおれに尋ねた、『楽しいかい？』って。おれは言ったよ、『楽しいよ、ずっとこうしていたい』ってな」目を細めて、おんどりは更に続ける。#空想の街 #にわにわにわとり

さとうすずすえ @sugar_100g

「魔女はポムの星に、魔法をかけたんだ、えいえんの魔法を。そしておれは、それを食べてしまった」わたしは、息を飲んだ。えいえんの魔法。それはつまり、不老不死の魔法ということ。#空想の街 #にわにわにわとり

さとうすずすえ @sugar_100g

「魔女は言った、『ちゃんと死にたくなったら、また今日この日にこの星をお食べ』って。最初は意味がわからなかった、けどわかった頃には、もう遅かったんだ」ニワトリに変化したまま、年を取らない。ああ、想像するだけで恐ろしい。腕の中の二羽をきゅっと抱き締める。#空想の街 #にわにわにわとり

さとうすずすえ @sugar_100g

「だからおれは、死ぬんだよ」おんどりはもう泣いてはいなかった。でも悲しい顔をしていた。「わりぃな、こんなとこまで連れてきて。…誰かに聞いて欲しかったんだ。偶然、おれと同じニワトリになったお前がいて、だから、知って欲しかったんだ」おんどりは、微笑んだ。#空想の街 #にわにわにわとり

さとうすずすえ @sugar_100g

おんどりはポムの星、いや、もうほとんどトゲはないから、ポムグリフと呼ぶべきか。それを、そっと口に近付けていく。嫌だ、と思った。心から。会って間もない相手にどうしてこんな、燃えるような痛さを感じるのだろう。#空想の街 #にわにわにわとり

さとうすずすえ @sugar_100g

たまご屋として美しい朝焼けの羽根が消えてしまうのを、すごく惜しいと思うから？死ぬ姿を見せられるなんてひどすぎるから？違う。わからないけど、きっと違う。よぞらとたんぽぽを、そっと草原に置く。そう、そんなんじゃなくて、多分これは。「…駄目！」#空想の街 #にわにわにわとり

さとうすずすえ @sugar_100g

ポムグリフを齧ったおんどりを突き飛ばす。手から転がり落ちる、欠けたポムグリフ。わたしは、突き飛ばした拍子に倒れたおんどりを抱きしめていた。「邪魔すんな、馬鹿」おんどりが言う。「ごめん」でも。でもね。「死なないで」#空想の街 #にわにわにわとり

さとうすずすえ @sugar_100g

そう言ったか、言えなかったか。ぞわぞわと身体中に悪寒に似た不快感が走ったと思ったら、羽根が根元抜けていく。ああ。人に戻るのね。そう思った瞬間、意識が飛んだ。#空想の街 #にわにわにわとり