イ)昨日、宮崎駿の「風立ちぬ」を見てきた。正直に言ってdifficultだった。「魔女の宅急便」とか「紅の豚」のように単純にスカッとするわけではないし、「となりのトトロ」のように温かい気持ちに包まれる、というわけでもない。「難解」というわけではないが、一筋縄にはいかない。
2013-09-05 16:43:36ロ)たぶん娯楽映画ばかり見ている僕にはしっくりこなかっただけだと思う。ハッピーエンドかバッドエンドかなんとも判断しがたいし、飛行機作りに青春を捧げる二郎の情熱と、悲しい恋物語、どっちがメインかよくわからない。演出としては飛行機作りがメインのハッピーエンドということになると思う。
2013-09-05 16:44:07ハ)だが、よく考えると得心のいかない、というより見る側が考えなくてはいけないようなエンディングである。飛行機さえ出来れば、「婚約者の死」という大事件は夢に現れた婚約者の笑顔を見るだけで水に流せるのか、そんなわけはないだろう。
2013-09-05 16:44:27ホ)「風立ちぬ」といえば、儚くも美しい、生と愛とを描いた純文学のイメージだ。清浄だがものさびしいサナトリウムで送られる、残り少ない夫婦の共同生活。「お前、家に帰りたいのだろう?」「ええ、なんだか帰りたくなっちゃった」というやりとりは、悲しさに満ち、読者の胸を抉る。
2013-09-05 16:45:01へ)予告篇を見たとき、悲しい恋の物語とプロジェクトXばりの男の夢の物語がどうリンクするのかとものすごく楽しみにしていたのだが、やはり燃え燃えの男気成分と、やさしく儚い抒情的成分ではどうしようもなく一致しない部分があったように思う。
2013-09-05 16:45:16ト)もちろんその不一致のせいで作品全体を破綻させないないところが、宮崎駿のすごさなのだろう。加えて、堀辰雄の「風立ちぬ」は紛れもなく「死」とそれを越えて輝く美しい生がテーマだ。だが、宮崎の「風立ちぬ」は力強く「生きる」ことに映画の眼目がある。
2013-09-05 16:45:33チ)関東大震災,戦争の描写が強いインパクトで描かれるのは,力強く生きる主人公たちを描くためだろう。だがそのせいで盛りだくさんの内容になりすぎ,何がテーマなのか追いづらかったし,「精一杯生きること」「力強く生きること」「美しい飛行機を作ること」のつながりも必ずしも明白ではなかった。
2013-09-05 16:46:59リ)個人的な好みを言えば、男汁MAXの燃える飛行機映画にするか、美しい恋物語か、どっちかに軸足を置くなら後者だ。その方向なら儚くも一日一日を大切に生きる夫婦生活を丹念に描く、ということになるだろうが、実際には飛行機映画にちょっと大目の要素でラブロマンスが入ったという印象である。
2013-09-05 16:47:14ヌ)そのせいで、男の夢が女房よりも大事になって「私たちは一日一日を大切に生きているんです」と言いながら、病気の女房がいるのに夜中まで帰宅しない主人公が、なんとなく嫌なヤツに見えてしまう。
2013-09-05 16:47:54ヲ)堀の小説はそういう「小事」のほうを一生懸命に取り出そうとする繊細さだけで成り立っている節すらある。対照的に宮崎の映画では、人間の繊細な部分にスポットライトを当てながらも、それでも「飛行機作り」という大きな夢が高らかに謳われる。
2013-09-05 16:48:50ワ)だから、「生きる」というときに生き方の「意味」がピンと来なかった。細々とでも一時の幸せを大切に生きることの美しさと、夢を追い求めて多少の犠牲には目をつぶって突き進むように生きる「力強さ」、どちらが宮崎の描きたいものだったのだろうか。
2013-09-05 16:49:13カ))要は「生きねば」というキャッチコピーが直接に響いてくるような映画ではなかった、というのが僕の感想である。むしろいろいろなことを考えさせられるように作られた映画で、その意味で監督は今までの作品とは違うんだ」と言ったのかもしれない。
2013-09-05 16:49:39ヨ)「風立ちぬ」はdifficultと言ったのは、テーマが多岐にわたり、上映時間中にそれらを全部追いかけていちいち感じている余裕はない、それくらい盛りだくさんの内容だった、という意味である。(了)
2013-09-05 16:50:28ヨ)「風立ちぬ」はdifficultと言ったのは、テーマが多岐にわたり、上映時間中にそれらを全部追いかけていちいち感じている余裕はない、それくらい盛りだくさんの内容だった、という意味である。(了)
2013-09-05 16:50:28