機関車デイビッド:DAVID THE TANK ENGINE

Cance-Noir(2D) @CanceNoir

----[童話] <機関車デイビッド>

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デイビッドは英国鉄道でもっとも速い機関車でした。マンチェスターからロンドンまでの速駆け記録を持っています。お客さんからも仲間の機関車達からも人気者でした。ある日、英仏鉄道計画が持ち上がり、フランスのお役人がデイビッドに言いました。1

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「英仏鉄道で使う汽車は汽車競争で決めるよ。我々フランス鉄道は君に期待している。どうか我々を失望させないでくれたまえ」デイビッドはとても名誉に思い、そして同時にフランスのお役人を失望させたらどうしようと怖くなりました 2

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英仏鉄道汽車選定会の会場に現れた汽車は、スイス製のピカピカに輝く立派な最新式の電気汽車でした。「あなたがデイビッド！お目にかかれて光栄です。私はファビアン。悔いのない競争をしましょう！」スイスの汽車は爽やかに手を差し出します。3

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英国鉄道の仲間達や、鉄道技師、車掌達も皆ファビアンの周りに集まって眩しそうにファビアンを見つめました。デイビッドは居心地悪く、また自分のすすけた体を恥ずかしいと感じ、そしてショーと小さな蒸気を上げながら控え室に立ち去りました 4

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「なんだいなんだい！皆して新しいスイスの汽車に夢中でさ！今までていつも僕のスピードが最高って言ってたくせに！あいつらなんか友達じゃないよ！」デイビッドはふと思いました。僕が最高じゃなくなっても友達でいてくれる汽車はいるんだろうか？ 5

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英仏鉄道汽車選定会が号砲と共に始まりました。デイビッド機関車は必死に石炭をくべますが、最新の電気機関車であるファビアンは涼しい顔でデイビッドを引き離していきます。「このままだと皆に忘れられてしまう。そんなのはいやだ！」デイビッドは隠し持っていたニトログリセリンを釜にくべました 6

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ドドーン！大音量と共にデイビッド機関車の釜が炸裂し、デイビッドは脱線して気絶しました。「なんだなんだ？」心配して鉄道技師達が集まってきました。「あっ！こりぁニトロ使ったな！」皆は顔をしかめてデイビッドを牽引して帰りました 7

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デイビッドは汽車工廠の中で目覚めました。修理は完了し今は保護用のカバーで覆われています。カバー越しに技師さん達や他の機関車の声が聞こえてきました。「まさかあんな事をするなんて...」「今までも使っていたのかな？」デイビッドは声をあげようとしてやめました。8

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今までは多くの仲間に囲まれていたのに今は一人です。「皆が好きだったのは僕ではなく、僕の速さだったんだ」「それを無くした今、愛してくれる友達はいなくなったんだ」デイビッドはひとりぼっちが寂しくてカバーの中で泣きました 9

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次の日からデイビッドは仲間の機関車達を避けるようになりました。皆は体を心配して声をかけてくれますが、デイビッドには彼らが心の中であざ笑っているのように見えたのです。今日も仕事を終えデイビッドは操車場裏の池に一人できました。「森はいいな。すり寄っても来ないし、逃げたりもしない」10

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♪ ...Ja, wer auch nur eine Seele Sein nennt auf dem Erdenrund! ♪ 歌声と共に横にやってきたのは電気汽車のファビアンでした。「やぁ、ここにいたんだね。皆、君の事を心配しているよ」10

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「歌はいいよね。歌を唄っている時って余計な事を考えなくていいだろう？世界が単純になるよね」 よりによってこんな時にこんな奴と！デイビッドは横を向き池の畔に座りました。ファビアンも座りました 11

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「君は仲間達から嫌われていると感じているの？鏡先輩」「KAGAMI?」「あぁ失礼！君の型式名(Family Name)を日本語で表記すると鏡と同じスペルなんだ。僕の設計技師は日本人でね。言葉を教わったんだよ。だから僕は有名人の君を憧れを込めて「鏡先輩」と呼んでいたんだ」12

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(なんだこいつ？変な奴だ。自慢しているようにも見えない。いやいやじいちゃんが言っていた。本当の大物は1.5周回ってマン島のジャガイモに見えるって。こいつがそうかな？）デイビッドが自問している間、ファビアンは満面の笑みで草笛を吹きながら湖面を見つめていました。 13

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「聞いてみたらいいんじゃない？」「何を？」「友達にさ、僕を嫌いかって」（あぁ、やっぱりこいつはマン島のジャガイモだった！）「そんな事聞かれて素直に答えるわけなんじゃないか！汽車の気持ちは複雑なんだよ！」ファビアンは真顔で聞く。「そうだねぇ！僕も自分の気持ち分からないもの！」14

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「君は最新の電気汽車なのに馬鹿なんだな！」デイビッドは笑いました。考えてみたら汽車競争の前から緊張で笑った事がありませんでした。笑うのは久しぶりです。「そうだねぇ、そして僕と違って鏡先輩は賢すぎるんだよ。賢すぎて人の気持ちが先回りして見えてしまう。だから怖いのかな？」15

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「僕が賢いんじゃないよ。普通の汽車は他の汽車の仕草や言葉で気持ちに気付くんだよ」「でも、結局それも君から見た他の汽車の気持ちだろう？当の本人すら気付いていない気持ちだよ？」（馬鹿の言葉は単純すぎて言い返しにくいな..）デイビッドは苦笑しました。(でもそんな気もしてきたぞ)16

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デイビッドは不思議でした。なんでこのスイスの汽車にはなんでも話せるんだろうって。友達でもないし、第一こいつのせいで僕は居場所がなくなったのに。一緒に働いている仲間でもない。（そうか、こいつには綺麗事抜きで勝ちたかったからかも）（こいつは友達ではない。だから僕に期待していない）17

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「なんで友達がいなくなると思うんだい？」スイスの汽車は聞きました。「僕がズルをしたからだよ」「ズルをしたらなぜ嫌われるんだい？」「友達の期待を裏切ったからさ」「友達は君に何を期待していたんだろう？」「勝利さ」「では君は友達が望む勝利を与える為にズルをしたんだね」「あぁ」 18

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「でも、その勝利を与えたのに友達は君を嫌うの？」「ズルしたからさ」（迷路だな！）「なるほどねぇ」スイスの汽車はまた草笛を作りながら首をかしげていました。「友達は君から勝利をプレゼントして欲しかった。でも、与えてみると条件がついていたんだね」（あぁ、まったく信じられない話さ！）19

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「...僕は....僕は、友達の信頼を裏切ったんだよ」デイビッドの口から出たのは心の中の怒りと反対の言葉でした。「フランスのお役人は勝利こそが欲しかったと思う。でも友達は、そうだ。友達は僕を信頼してくれていたんだ。でも、僕は友達よりもお役人のご機嫌を選んでしまった..」20

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「そうか、君は友達の信頼を裏切った自分が許せないんだね。だから友達も自分を許さないだろうって思うんだ。確かにそうだねぇ。友達の機関車達から信頼されるまで、君がどれだけ石炭を燃やし、どれだけのレールを走ったか、僕も汽車のはしくれとして分かるつもりだよ。」21

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♪Wem der große Wurf gelungen, Mische seinen Jubel ein! Und wer's nie gekonnt, der stehle Weinend sich aus diesem Bund!♪　ファビアンはまた歌い出しました 22

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「なんて歌だい？」デイビッドは聞きました「シラーという昔の詩人の歌だよ。気取った修飾的な言い回しだと後の評論家には随分不評でね。でもこの部分は好きなんだよ」「独語は分からないんだ。意味を教えてくれるかい？」"大いなる事に成功したひとはその喜びを共に歌おう" 23