Another STORY OF INASAKU side:usagin

全 米 が 泣 い た スピンオフその3です。本編読んでね。 → STORY OF INASAKU (http://togetter.com/li/561038)
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うさぎん @sionmeakasi

@resultmoon 稲を刈り取る手を止めて、腰を上げた。清々しい秋空だ。やはり手作業ではしんどい。まあ自分で決めたことだし、私自身この田んぼと結婚してもいいくらいに思っている。

2013-09-10 20:20:58
うさぎん @sionmeakasi

@resultmoon 私はかえちゃんが育てていた田んぼを譲り受け、仕事をしつつ休日に稲作をしている。お金はあまりないからほとんど手作業になってしまうけれど。周りの農家さん達がたまに手伝ってくれる。ありがたいことだ。今でこそ、稲が育っているけれど、

2013-09-10 20:25:10
うさぎん @sionmeakasi

@resultmoon 真希ちゃんに聴いたところ、この田んぼは死んでいたという。だが、私が田んぼを訪れたとき、確かに生きていた。しっかりと緑の葉は日の光を浴び、大きくなっていた。――あれから、半年が経つ。

2013-09-10 20:51:01
うさぎん @sionmeakasi

@resultmoon かえちゃんと椎名の関係は修復されたらしく、他のみんなも変わらない生活を送っている。私のように少し変化があった人もいるけど。先程刈った稲を手にとって、穂を撫でる。とても元気に育っている。精米して、炊いたらおいしいのだろう。かえちゃんが大切に育ててきた

2013-09-10 20:59:03
うさぎん @sionmeakasi

@resultmoon 田んぼはとてもいいお米をつくってくれる。彼女は本当にお米が――否、椎名が好きだったんだな、と思う。愛情がたくさん注がれていて……ああ、いけない。これ以上考えると泣いてしまう。全部元通りになった今、私がなく必要はない。

2013-09-10 21:01:58
うさぎん @sionmeakasi

@resultmoon それでも感傷的になった気分は戻らず、稲を握りしめる手に水滴が落ちた。もう高校生の時みたいにはなれない、戻れない。そのことがとても辛い。ぼとぼと零れる水滴。私は拭うこともせず、ただただ稲を握ったまま立ち尽くしていた。その時だ。

2013-09-10 21:05:39
うさぎん @sionmeakasi

@resultmoon 微かな声が耳に届いた。驚いて辺りを見回すが誰もいない。だが声は聞こえる。不気味だ。ふいに下、と言われ私は地面を見る。「まさか……稲?」

2013-09-10 21:09:26
うさぎん @sionmeakasi

@resultmoon 「こいつ……脳に直接……!?」とかやる余裕もなかった。普通に反応を返してしまった。当たり前のように涙は止まり、私は服の袖で目元を擦った。

2013-09-10 21:12:24
うさぎん @sionmeakasi

@resultmoon 私が呆然と地面、いや稲を見つめるとまた声がした。『そうだ……わたしは稲だ』知ってた。驚くこともなく私はただ声を聞く。『……何が、悲しい……』そう尋ねられ、私は戸惑った。稲に話してなんとかなるものではない。

2013-09-10 21:18:09
うさぎん @sionmeakasi

@resultmoon しかし、気持ちが落ち込んでいたせいか私はその場にしゃがみ、稲に向かって話し掛けていた。「……大人って辛いね」自分でも馬鹿だと思う。一瞬の気の迷いだ。

2013-09-10 21:22:53
うさぎん @sionmeakasi

@resultmoon 『……何が、そんなに辛い……』何が? 何が辛いのだろう。少し考える。思い浮かぶのは常メンのみんな。「多分……バラバラになっていくのが嫌なのかなあ」そうだ。みんなまだ仲はいいけれど、以前のようにはいかない。

2013-09-10 21:32:39
うさぎん @sionmeakasi

@resultmoon そしてそのことにうじうじ悩んでいる私が嫌だ。誰よりも整理がついていないのは私かもしれない。『……ならば、やめるか?』「何を」『人を』

2013-09-10 21:36:53
うさぎん @sionmeakasi

@resultmoon 耳を疑った。人をやめるかと、稲は私に問うた。まじまじと稲を見つめる。するとゆらりと空気が揺れた。かと思うと、緑の着物に長い茶髪の人が現れた。ぼんやりと霞んで見える。「ゆ、幽霊?」

2013-09-10 21:42:46
うさぎん @sionmeakasi

@resultmoon そいつは私を無表情に見下ろした。『……わたしはこれらの化身、のようなもの』そんなは稲を振り返り、そう言った。そんな馬鹿な、と言いたいところだがかえちゃんが愛情をこめて育ててきた田んぼだ、有り得ないこともない。

2013-09-10 21:49:49
うさぎん @sionmeakasi

@resultmoon 私が無言でそいつを睨みつけるように見ていると、そいつは私の頬に手をそえた。少し顔が近づく。『……人をやめて、わたしと生きるか?』プロポーズされました。脈絡なさすぎる。

2013-09-10 21:59:02
うさぎん @sionmeakasi

@resultmoon 「嫌」さすがにそんな気はない。素気なく答えるとそいつはあっさりと離れる。『……つまらん……わたしに力を注ぎ続けているくせに……』ひどく不満そうだ。力とはかえちゃんが注いでいた愛情のことだろう。本当にかえちゃんは椎名が……。

2013-09-10 22:05:02
うさぎん @sionmeakasi

@resultmoon 「その力、注いでいたの私じゃない」『……ほう?』みんな気持ちに整理をつけて進もうとしてる。だから、かえちゃんは私に田んぼを託してくれた。私はそれを受け継いだ。なら私も進まなきゃ。

2013-09-10 22:10:03
うさぎん @sionmeakasi

@resultmoon 私は笑った。「ありがとう。整理ついた」そいつはゆうるりと微笑んだ。着物の袖で口元を覆って、優雅に。『……力は途中からお前であろう……』そう言って姿を消した。……今のどういう意味だ。

2013-09-10 22:18:35
うさぎん @sionmeakasi

@resultmoon まあいいや。意味のわからない一日だった。空は綺麗な夕焼けになっている。残りの刈り入れは明日にまわそう。私は立ち上がり、携帯をポケットから出す。電話帳から番号を出し、かける。

2013-09-10 22:25:05
うさぎん @sionmeakasi

@resultmoon 「――もしもし、真希ちゃん? ねえ明日会える? あ、そこにかえちゃんもいるの、そう。じゃあ伝えといて。うん、よろしく。バイバーイ」携帯を閉じて伸びをする。さて、家に帰ろうかな、と。(終)

2013-09-10 22:27:28