シュレーディンガーのラトちゃん
ソ連のお城には開かずの間があり、ロシアさんから入ったらダメだと言われている。ある日、日頃の溜まったストレスからうっかりラトちゃんがその部屋に入ってしまう。その部屋の奥にはさらに小さな扉があり、美しい装飾の入った扉に触れると「誰かそこにいるんですか」という声が聞こえてきたのであった
2013-09-22 14:27:56驚いてラトちゃんが声を出してしまうと、扉の先の人物は「僕には友達がいません。良ければ友達になってくれませんか」と言ってきた。ラトちゃんは自分にも友達と呼べる人間がいないということを思い、その声に返事をするのであった。「僕にも友達がいません。僕たちはこれから友達です」、と。
2013-09-22 14:31:03それからロシアさんたちの目を盗んでその部屋の中に入るラトちゃんの、扉の先の住人との“友達”生活が始まった。“友達”は、ラトちゃんととても話がよく合った。性格も似ているようで、ラトちゃんは“友達”と居るのがとても心地よかった。“友達”と居ると鬱屈した環境から抜け出たような気がした。
2013-09-22 14:45:56ラトちゃんは“友達”との交流の中、まだ見ぬ友人の姿を見たいと思い、荘厳な扉を開けようと試みた。が、鍵が掛かっているのか開けることは出来なかった。“友達”に「そちらの鍵を開けてくれませんか」と言ってみたら、「こちらにも鍵がありません。壊れているのかもしれませんね」という回答であった
2013-09-22 15:01:29ラトちゃんは“友達”と会ってみたかったが、開かないのでは仕方ないとも思い、それ以降二人の間でその話題が上ることはなかった。しかし、顔を見たことがなくてもラトちゃんは今まで出会った人の中で最高の友情を感じていた。ラトちゃんは友達が出来て、本当に幸福だった。本当に、本当に、幸福だった
2013-09-22 15:10:32ある日、ラトちゃんはいつものように“友達”に会いに行こうと開かずの間に向かっていると、自分の行く先にロシアさんがいることに気がついた。ロシアさんにばれないように自分も目的の場所にロシアさんの後ろから付いていくと、何とロシアさんは“友達”のいる開かずの間の中に入って行ったのだ。
2013-09-22 15:15:33どうして、ロシアさんが…?戸惑いを感じるラトちゃんであったが、あることに気がついた。「“友達”の存在がロシアさんにバレてしまう…!」今までの交流の中でラトちゃんはロシアさんのことを一番よく話した。そのことに“友達”は「酷いですね、彼。僕が会うことが出来たら、何か言ってやるのに」
2013-09-22 15:23:22と言っていた。“友達”はロシアさんのことを知らないのだ。どうして“友達”があそこの扉の中にいるのかラトちゃんにはわからなかったが、あの凶悪なロシアさんのことだ。無断で住み着いているのがバレてしまったら酷い目に遭ってしまうに違いない。ラトちゃんは勇気を出して、開かずの間の扉を開けた
2013-09-22 15:27:04ロシアさんはあの荘厳な扉の前にいた。彼の右手と左耳を扉に付けていた。表情はよく見えなかったが、何か話しているようだ。自分が入ったことに気がついていないようで、構わず話続けている。ラトちゃんは神経を集中して耳をすませた。「君はどう思う?」ロシアさんの声だ。 「皆を信じた方がいいよ」
2013-09-22 15:35:39――ロシアさんの、声だった。独り言でも言っているのかと思い、ラトちゃんはロシアさんの口許を見た。「皆を??信じられないよ」ロシアさんから発せられたものだ。「そんなことないよ。皆助けてくれるよ」その声は、扉の向こうから聞こえてきた。でも確かにロシアさんの声なのであった。混乱した。
2013-09-22 15:41:13ロシアさんが、扉の向こうにいるロシアさんの声の人と話している。ラトちゃんは混乱を隠しきれなかった。話に夢中のロシアさんに気づかれないように、ラトちゃんはそっと部屋から出た。自室への帰路の中、ラトちゃんの頭の中には様々な疑問が浮かんでは消えた。考えることが出来なかったのだ。
2013-09-22 15:46:58自室に着き、ベッドに倒れ込むように入るラトちゃん。そこでラトちゃんはようやく「“友達”がロシアさんにバレなくてよかった」と呟くのであった。そのままラトちゃんは泥のように朝まで眠りについた。
2013-09-22 15:50:51