上コロッケ「君の衣をすべて剥いであげるよ。アツアツホクホクの君の中身を感じたいんだ。いいだろ?」 下コロッケ「だ、だめだ!そんなことされたら、俺は、俺はコロッケじゃ…」 上コロッケ「そうだね、君はマッシュポテトになる。それでも、君は君だ。真っ白なありのままの君を愛してる」
2013-10-07 22:07:39『愛している』とはなんて便利な言葉だろう。コロッケは心の中で冷笑を浮かべ、もう一人のコロッケに手を伸ばした。今まで何個のコロッケの衣を剥ぎマッシュポテトに変えてきたのか、覚えていない。彼はたった一つだけのコロッケになりたかった。唯一のコロッケでいることが、自らの証しと信じていた
2013-10-07 23:06:38彼の伸ばした手が、熱々の衣に触れる。ぱさり、ぱさりと、衣が数個零れおちた。それだけだった。コロッケの手はそこで止まっていた。もう一人のコロッケの衣を剥くことがどうしてもできない。コロッケにとって衣を剥がれるとは、カタツムリがナメクジになることと等しい。全く別の存在になる。
2013-10-07 23:13:28彼とは、彼とは同じコロッケでありたかったのだ。「やっと気付いたか」カサカサと衣を震わせながら、下に敷かれたコロッケは笑った。上に乗る彼の表情は、添えられたキャベツよりもしおしおとしている。「おいおい、泣くなよ。しけったコロッケなんで美味くないだろ」
2013-10-07 23:17:51下のコロッケがポンポンと頭を撫でると、上のコロッケの衣が数個剥がれおちる。同時に、ささくれ立った心の衣も剥がれおちた。「僕は、僕は…」小刻みに震える彼の肩を抱き寄せ、何も言わずに背をさすった。「気づけばいいんだ。お前が衣ばかりの海老フライみたいに、どれだけ芯のないやつだったか」
2013-10-07 23:23:52「そして、芯のないお前でも、好きだよ。『愛してる』を利用してたお前は信じられないかもしれないが」上に乗ったコロッケから、涙のかわりにガサガサ衣が零れた。「僕も、僕も、今度こそ本当に愛してる」2人は手を繋ぎあう。かき揚げの具材のように、二度と離れることのないように
2013-10-07 23:28:16「ねぇ、ママ、今日の夕飯は何?」かわいらしい少女の声が聴こえた。「今日はコロッケですよ。あら、おかしいわね?ミミちゃん、悪戯しちゃだめじゃない」「えぇ。何もしてないよ!!」 食卓に乗せられた皿の上。そこには、衣を剥がれたコロッケたちと、寄り添う二つのコロッケがあった。【完】
2013-10-07 23:31:04