グッド・タイムズ・アー・ソー・ハード・トゥ・ファインド #4

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「特別な護り?」「アイツにはその手のジツを疑わせる伝承がついて回るんだよ。不死身のオマモリとか。龍の血を浴びたとか。その手のハッタリがさ。色々と。一つ一つがブルシットでも、何かがあるって事」「どう探る」「そう、それ」フィルギアは頷いた。「今週末になれば何かわかるかも」 22

2013-10-05 15:18:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「今週末?待つ必要があると?」「コワイ話を耳にした」フィルギアは低く言った。「女の子たちの中には、先生よりも権力のあるようなのがいてさ。ソサイエティを作ってる……ナカヨシって言うンだけどね……そのナカヨシが、どうもこう、気になる。週末、ウシミツアワー、礼拝堂。儀式の噂」 23

2013-10-05 15:28:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「生徒の他愛ないオカルト趣味に古代のニンジャが関わるか」「他愛ない?見てみなきゃわからない。それに、歴史あるソサイエティらしいよ。それこそ創立以来だとか……代々受け継いで……」「……秘儀を」ニンジャスレイヤーは呟いた。「秘儀を」フィルギアは繰り返した。 24

2013-10-05 15:31:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「まずはディテクティヴ=サンの行方だ」ニンジャスレイヤーは整理した。校長である邪悪なニンジャの殺害は、あくまでトレードだ。「わかってる」フィルギアは薄笑いを浮かべる。「でもアンタ、ニンジャを殺したいだろう?」「……」「まあいいさ。そっちの話に入る?じゃ、戦利品の話をしよう」25

2013-10-05 15:39:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フィルギアは教室の奥、準備室に入ると、軋むロッカーの戸を開けた。微かな呻き声が教室に届く。ニンジャスレイヤーはそちらへ移動した。フィルギアはぐったりと弛緩した警備員を引きずってきた。「力仕事はキツイな」フィルギアがニンジャスレイヤーを見た。「こいつね、戦利品。眠らせてある」26

2013-10-05 15:43:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どういう事だ」「イヒヒヒ……」フィルギアはヘラヘラと笑う。ゾッとするような酷薄さが笑顔の奥底に垣間見えた。「一見、無害な警備員。その実、校長先生の私兵ってわけ。俺に難癖つけて来たんで、キツめに眠ってもらった」「襲って来たと?そいつ一人か」「……ああ。一人だったさ……」 27

2013-10-05 15:49:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

警備員は後ろ手にきつく縛られている。フィルギアは教室の床に彼を投げ倒し、顔を二、三度蹴った。「アバッ」「起きたな。ごめんな。荒っぽくして」フィルギアは呟き、ニンジャスレイヤーに肩をすくめて見せた。「インタビューどうぞ。だけど時間があまりない。俺、先生だからね……」 28

2013-10-05 15:55:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【グッド・タイムズ・アー・ソー・ハード・トゥ・ファインド】#4 後半

2013-10-11 23:03:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キカは顔を上げた。馬を連れて「例の場所」にやってきたのは、ワカヤマである。「あれ?」ワカヤマは少し驚いたようだった。「どうしたの。ネオサイタマの夜景を見に来た?」「その馬がオハナ?」「ああ、そう」ワカヤマは頷いた。黒い毛並みで、足先だけが白い。「靴下みたいだろ」 30

2013-10-11 23:11:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そうね」キカは馬に触れた。オハナもよく訓練されていると見え、おとなしい。「アー……」ワカヤマは言葉を探している。キカは答えた。「もう少し、ここで時間をつぶしたいの」「隠れ場所に?」「そうね」キカは頷く。「良い時間が来るまで」「良い時間。へえ」 31

2013-10-11 23:15:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「良い時間」。今度の週末までで校長がこの学園を不在にするのはこの日に限られる。校長は理事長でもあり、この学園の中に住んで、暮らしている。授業や礼拝の合間の空白時間は僅かで、おかしな動きを他の人々に知られるのも避けたい。ワカヤマは外部の人間だ。内にあって外にある。キカの直感だ。32

2013-10-11 23:26:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ワカヤマ=サンは、ずっと昔からここに居た」「そう」「色んな人、見てきたんだね」「まあね」ワカヤマは答えた。「父さんもずっと馬丁さ。衣食住の安定、大切な事だよ。毎年、お嬢さん達を見送って。みんな、外に出て、カチグミになるんだよな。君も。たいしたもんだよ」 33

2013-10-11 23:41:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「でも、うまくいかない子達もいるよね」キカは言った。「途中で辞めて、途中で、いなくなる」ワカヤマの目を見た。ワカヤマは小さく頷く。「ああ。いなくなる」「……」二人はしばらく無言で互いを見ていた。「つまり君は、その事を気にしてるってわけだな」ワカヤマは静かに尋ねた。 34

2013-10-11 23:55:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キカは否定しなかった。「なにか私に教えてくれること、ある?」「おれが?バカ言っちゃいけない」ワカヤマはキカの隣に座った。「衣食住は大事、好奇心は災のもとって、父さんの口癖さ。たぶん、父さんの父さんが何をしていたかは知らないけど、馬丁なら、やっぱり同じ口癖だよな、きっと」 35

2013-10-12 00:01:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「教えられるのはそこまで」キカは呟いた。ワカヤマは頭を掻いた。「教えられないというか、知らないようにしているんだ。馬や飼葉や蹄鉄と、お嬢さんの誰かがいなくなる事、繋がっていないだろ?お嬢さん達の誰かとおれが、付き合ったり、結婚したりしないのと同じさ。軽口じゃなく、そういう事」36

2013-10-12 00:08:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「すごく大人みたい」キカは率直に言った。ワカヤマは笑った。「君もちょっと変わってるよ。なあ、でも、せっかくだから忠告させてくれよ。衣食住は大事、好奇心は災いのもと……あまり変な事に重点すると、きっと、よくない」「そうね」キカは頷いた。「でも、私には馬も飼葉も蹄鉄も無いし」37

2013-10-12 00:19:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キカは立ち上がり、草を払う。時間だ。「ありがとう。またね。ワカヤマ=サン」「ああ。またいつでも」「またね。オハナ=サン」馬は尻尾を振った。キカは木々の間の路を戻る。ゴーン……ゴーン。礼拝堂の鐘が鳴っている。クラブ活動の生徒の姿は既にない。「良い時間」。彼女は校長室を目指した。38

2013-10-12 00:30:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

あのカンオケには何が入っていたのだろう?あんな時間に、周りを警備員に見張らせて、自らが見届けて。校長はそれを土に埋めさせた。人任せには出来ない事情。それは何だろう。校長は何故そんな事を?そこにはきっと、ニンジャが絡んでいる。キカはそれを知りたかった。確かめたかった。 39

2013-10-12 00:49:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

あの時、事務室の窓を破って校長から逃げたのは、間違いなくニンジャだった。そのときキカは悟った。ニンジャアトモスフィア。更に遡って、そもそもの発端のあの夜、キカを不意に目覚めさせたのは、彼女自身の知覚だった。彼女自身が、彼女をニンジャアトモスフィアに向かわせようとしたのだ。 40

2013-10-12 00:51:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

もう少しだ。キカは思った。校長の謎を辿れば、彼女はニンジャに辿り着くだろう。その時、彼女自身のこの疼きにも、きっと答えが出るだろう……。キカは校長室の扉に手をかけた。当然、開くはずもない。試しただけだ。彼女は廊下を迂回し、上階へ。トイレの窓を開け、下を見下ろす。高い。当然だ。41

2013-10-12 00:58:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

建物は木骨造だ。外壁には梁が渡されている。キカは人がいないことを確かめた後、窓から外へ、するりと抜け出す。梁に足を乗せ、外壁に体重を預ける。三階の高さ。恐ろしい行い!彼女は細かい震えを自覚する。怖いものは怖い。だが彼女は身体の動かし方に集中する。梁を伝い、横へ。横へ。 42

2013-10-12 01:05:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

下、見るな。風、吹くな。誰もここへ来るな。壁に額をつけ、少しずつ横へ。横へ。校長の埋葬行為について、キカは二つの仮説を立てている。あのカンオケの中身について。可能性のひとつは、「退学者」。ナムアミダブツ。だが証拠は何も無い。あてずっぽうだ。少なくとも、まだ。 43

2013-10-12 01:12:21