だから私は死ぬことにした。

完全オリジナルっぽい戯言です。覚書で作成。 ネタっちゃぁネタ。
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ノブノビタ @nobu_sun

1942年5月中旬。ハイドリヒに一本の電話がかかってきた。「アプヴェーアのカナリスが死んだ」酷く嬉しそうなヒムラーの声。これは悪い夢だ、と彼は思った。

2010-10-11 13:00:01
ノブノビタ @nobu_sun

プラハからベルリンへ戻り、ハイドリヒはカナリスの葬儀に出席した。どこのか所にも傷痕はなく、眠っているように棺の中で横たわっていた。だから、カナリスの頬に触れたとき、その冷たさに涙がでそうになった。あんなにも温かかったのに、今では氷のように冷たい。

2010-10-11 13:02:03
わるいこ @Eeverius

メモ(ベルンカステルの詩): どうか嘆かないで。世界があなたを許さなくても、私はあなたを許します。どうか嘆かないで。あなたが世界を許さなくても、私はあなたを許します。だから教えてください。あなたはどうしたら、私を許してくれますか?

2010-10-11 13:02:21
ノブノビタ @nobu_sun

カナリスの二人の娘と彼の妻エリカに挨拶をした。二人の娘は泣いていた。もう、死がわからないほどに幼くはない。エリカは少し疲れたような笑みを浮かべた。「イギリスの特殊部隊に、毒を盛られたらしいの・・・」でも、本当のことはわからない。そう、臭わせる言い方だった。

2010-10-11 13:04:42
ノブノビタ @nobu_sun

「ヴィリ・・・」静かになった聖堂。葬儀の客はもういない。エリカと娘たちは泣きつかれ、今は部屋で眠っている。「ヴィリ・・・」棺で眠る人間に、もう一度呼びかけた。返事はない。本当に、死んでしまっているのだ。こんなにも綺麗なのに。

2010-10-11 13:06:14
ノブノビタ @nobu_sun

「よぉ・・・」聞き覚えのある声が、聖堂の入り口から聞こえた。背の高い、カナリスと同じくらいの年の男が立っていた。銀色の短めな髪を後ろになでつけた男は、青い瞳でハイドリヒを睨みつけた。ハンス・オスター。カナリスの副官だった男だ。

2010-10-11 13:07:47
ノブノビタ @nobu_sun

「やぁ・・・ハイドリヒ」この男も泣いたのだな。ハイドリヒはそう感じた。オスターの声は依然聞いたものよりも枯れていたし、目が赤く充血していた。オスターはハイドリヒに近づき、その青白い頬を殴りつけた。ハイドリヒは、何故自分が殴りつけられたのかわからなかった。

2010-10-11 13:10:33
ノブノビタ @nobu_sun

「提督からだ」そう言って、叩きつけられた一通の手紙。オスターは泣いていた。「殺されたの・・・だろ?」ハイドリヒがそう返すと、オスターの顔が、歪んだ。「違う」静かな聖堂に響き渡る。「提督は、自分で毒を飲んだ」

2010-10-11 13:16:52
ノブノビタ @nobu_sun

「オスター、オスター。ああ、どうか泣かないでくれ。私は後悔していないよ。遅かれ早かれ、きっとこうなる。彼が死ぬくらいならば、私は自分の命を進んで渡そうと思う。それが、私が唯一彼にしてやれることだから。オスター、オスター。私が死んだあとは・・・どうか、よろしく頼んだ」

2010-10-11 13:18:53
ノブノビタ @nobu_sun

その後、アプヴェーアはハイドリヒの手に堕ちた。それが、カナリスの願いだった。遺書にそう書かれていた。どの道、ハイドリヒの手に堕ちる運命だったアプヴェーア。ただし、オスターはそのままの地位にとどまった。それも、カナリスの意思だった。

2010-10-11 13:20:26
ノブノビタ @nobu_sun

カナリスが死んでから一週間。ハイドリヒはプラハから戻された。アプヴェーアとRSHAの統合を任された。正直なはなし、もうここには戻りたくはなかった。アプヴェーアのカナリスの執務室。今となってはこの場にとどまることが最も残酷なことのように思えた。

2010-10-11 13:22:06
ノブノビタ @nobu_sun

あの時オスターから叩きつけられた手紙を、カナリスの執務机の上に置いた。3匹の猿の置物がこちらを向いていた。「見ざる、聞かざる、言わざる」諜報の基礎だと言って、カナリスに教えられた。まだ、若かった。指先で、置物の頭をそっと撫でた。色々と教えられたあの日々は、もう二度と戻ってこない。

2010-10-11 13:29:01
ノブノビタ @nobu_sun

意を決して、封筒の口を破った。10枚ほどの手紙と、一通の証明書が入っていた。それは、ハイドリヒの血統が実はアーリア人種ではないものだ、と証明するものだった。下の方に見慣れたカナリスの文字でこう書かれていた。「愛しのライニ。これをきみに返します」と。

2010-10-11 13:31:06
ノブノビタ @nobu_sun

「ライニへ。これを読んでる頃には、私は死んでいるのだろうね。きみに何も言わずに死を選んだことを、私は謝らねばならない。だが、私が死ななければきみは死んでいたよ。理由は、聞かないでくれ。私はすべて知っているが、それを話してしまえば、きみはきっと報復をするだろうし、私はそれを望まない

2010-10-11 13:35:01
ノブノビタ @nobu_sun

私がこのような結末を選んだのには、単にきみに対する忠誠を示したかったからだ。私はきみを愛しているんだ。だけど、私はこんな形でしかきみにそれを伝えるすべを知らない。私には、もう正直誰かを愛せる自信がなかった。今もその自信がない。だが、きみを愛している。

2010-10-11 13:37:00
ノブノビタ @nobu_sun

きみは以前、こういったね?「心がないのなら、それで愛せないのなら、あなたの魂が欲しい」と。私は、そうすることにした。それでしか、示せないような気がした。私はきみを愛している。きみも私のことを愛してくれている。なら、この結末しか、ないのだよ。

2010-10-11 13:41:05
ノブノビタ @nobu_sun

酷いことを言っている、している自覚が、私にはある。きみがどんなふうに感じるかも、わかりきっている。許してくれとは言わない。許さなくていい。だから、忘れてくれ。何もかも。

2010-10-11 13:42:49
ノブノビタ @nobu_sun

私はね、ライニ。きみをきみに返したいんだ。何を言っているのか、わからないかもしれない。私にも、よくわからない。だが、そうすることで、きみは元通りに戻る気がする。私なんかと出会う前のきみに。その頃のきみがどんな人間だったのか、私にはわからないが、きっと今よりはいいはずだ。

2010-10-11 13:44:23
ノブノビタ @nobu_sun

ここまで読んでくれて、ありがとう。どうか、この手紙は燃やしてくれ。こんなものを残しておいたところで、だれの得にもならない。一緒に封をしていた証明書も、燃やすんだ。それはきみを不利な状況に陥れる道具でしかない。それが最後の一枚だ。それさえ亡くなれば、きみは完全になれる。

2010-10-11 13:46:02
ノブノビタ @nobu_sun

どうか、私のアプヴェーアを頼む。私がきみの残してやれる唯一のモノ。それがアプヴェーアだ。アプヴェーアはきみに託す。きみ以外の人間には、託したくない。きみが、この組織をより良いものにしてくれることを、望んでいる。 ただ、それだけが私の望みだ」

2010-10-11 13:47:31
ノブノビタ @nobu_sun

手紙は、そこで終わっていた。カナリスの署名がなされた一枚の写真。「アプヴェーアを頼んだ」その言葉が、酷く重くのしかかる。これは、束縛だ。今まで自分が彼を束縛してきた。その反撃が、今、返された。カナリスは死ぬことで、ハイドリヒの心に刻み込んだ。自分の愛を。

2010-10-11 13:50:17
ノブノビタ @nobu_sun

だから、私は死ぬことにした。 おわり

2010-10-11 13:52:02
ノブノビタ @nobu_sun

だから、私は死ぬことにした。 おわり

2010-10-11 13:52:02