『魔法少女まどか☆マギカ』キュゥマミSS「鍵」

『アルジャーノン』で『夏への扉』なキュゥマミをTwitter上で妄想していたSS。 TV版3~4話の間くらいの話。
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雪見バーガー @H926

感情が芽生えた為に本体との接続を断たれ、徐々に知性を失っていき、最後にはまるでただの猫のようになって、もうどこにもいないマミの姿を探してマミホームのドアというドア、窓という窓の向こうを探すキュゥべえという、『アルジャーノン』で『夏への扉』なキュゥマミをふと妄想してしまって辛い。

2013-04-03 17:33:27

以下、その妄想。

※青字の強調は現在。それ以外は過去回想。

雪見バーガー @H926

「まどか、さやか! 願い事を決めるんだ、早く!」 その言葉を発した次の瞬間、僕は一人ぼっちになっていた。人間が言うような比喩ではない。僕は僕(達)から切り離された。言語を含む膨大な情報と断絶したのだ。だからその次の言葉は永遠に声にならなかった。 (マミを助けて) #キュウマミSS

2013-04-10 15:32:08
雪見バーガー @H926

僕が僕(達)から切り離された理由は解っていた。罹患したのだ。極めて稀な精神疾患、感情に。つい先程まで僕(達)だっただけに、感染を防ぐその判断の正当性は理解できる。でも納得できない。それこそが僕が病気である証拠だった。巴マミの死を理解しているのに、納得できない。 #キュゥマミSS

2013-04-12 13:09:25
雪見バーガー @H926

証明も証拠も必要なく僕には病に侵されている自覚があった。痛覚の存在しない箇所が痛いのだ。痛くて、苦しい。過去にマミが同様の症状を訴えていたことを思い出す。両親や佐倉杏子と離別してから暫くの間、マミはその胸の痛みを理由に僕を抱いた。それで痛みが治まるのだと。 #キュゥマミSS

2013-04-16 16:33:08
雪見バーガー @H926

判断力に問題が生じているのはこの疾患とそれに伴う痛みのせいだろうか。それとも僕が僕(達)から切り離され前提となる情報量が不足しているせいだろうか。どちらにせよ僕は正常でない非合理的な思考をしている。マミの腕の中であれば痛みが治まる、マミに会いたいと思っている。 #キュゥマミSS

2013-04-16 16:51:03
雪見バーガー @H926

マミに会いたい。しかし彼女はもうこどこにも存在していない。亡骸も残っていない。不可能であることは解りきっているのに僕はそれを望んでいる。望む度に理性がその不可能性を提示し、その度に何かがそれを否定しようとする。堂々巡りが内圧を高めていく。…これが、感情。 #キュゥマミSS

2013-04-23 13:08:41

マーチの記憶

雪見バーガー @H926

「解らないまま終わる そんなのは嫌だ」 時折、巴マミはその歌を口ずさんでいた。それは幼年体向けの物語の主題歌で、マミの年齢の嗜好にはそぐわない為、この歌を好む理由を訊ねてみたことがある。彼女の志向する正義の魔法少女のロールに、歌われる彼が合致するからなのかと。 #キュゥマミSS

2013-05-03 17:03:45
雪見バーガー @H926

かもね、と巴マミは微笑んだ。理由が他にあるのは明らかだった。このようなはぐらかしは過去事例から会話の継続を求めている可能性が高い。また、その答えを知ることは思考サンプルの採取、引いては希望と絶望の相転移の制御に役立つと判断できたので、僕は再度マミに問いかけた。 #キュゥマミSS

2013-05-03 17:26:34
雪見バーガー @H926

「それは君の個人的な経験、例えば御両親との思い出に関係していることかい?」 一瞬、マミはその質問に驚いたような表情をした後、やわらかく微笑って否定した。やれやれ、こうなると歌詞の内容の検証がやはり必要か。地球人の文化や芸能上のテキストを読みとくのは苦手なのに。 #キュゥマミSS

2013-05-04 23:09:51
雪見バーガー @H926

僕は思考や意識や行動に余裕のある僕達の力をも借りて歌詞を解読し、その数百通りの解釈の中からマミと関連のありそうなもの、興味を引きそうなものをぶつけてみた。マミは初代の彼の話や、特攻隊であった作者の弟に捧げた歌という話には関心を示したが、どれも正解ではなかった。 #キュゥマミSS

2013-05-04 23:25:08
雪見バーガー @H926

「わけがわからないよ」 僕は首を竦めた。多くの人間がそうであるように、明確な理由とは最初からマミにはなかったのかもしれない。或いは孤独を紛らわそうと、こうやって僕と対話をする中で理由を産み出し構築する――言葉による擬似的な性行為を行うのが目的だったろうか。 #キュゥマミSS

2013-05-04 23:42:46
雪見バーガー @H926

「わけがわからない、ね。それが正解かも」 マミの言葉に僕は仮定の裏付けとこの無為な対話の終わりを感じ取ったが、続く言葉にそれが間違いであることを告げられた。 「わからないから歌うの。キュゥべえも歌ってみればわかるかもね」 言って、マミは僕の方を見て歌い出した。 #キュゥマミSS

2013-05-04 23:54:37
雪見バーガー @H926

そうだ 嬉しいんだ生きる喜び たとえ胸の傷が痛んでも♪ マミは僕の目を見て口ずさむ。黙っていると何度もそれを繰り返すので仕方なく僕も歌い出した。 何の為に生まれて 何をして生きるのか 答えられないなんて そんなのは嫌だ♪ 初めて、僕は歌った。 #キュゥマミSS

2013-05-05 00:06:31
雪見バーガー @H926

今を生きることで 熱いこころ燃える だから君は行くんだ 微笑んで その歌はマーチだった。 理性が自分達の行動の合理性への疑いを抱いたり、逆に感情が行動への無意味な制限をかけたりする際に、歌うことで思考停止し、感情を上向きに持っていく為の、行軍歌だった。 #キュゥマミSS

2013-05-06 20:34:10
雪見バーガー @H926

勿論、マーチを歌ったところで僕が何か影響を受ける筈もない。僕は促されて一緒に歌う振りをしながらマミを観察する。歌う理由が思考停止や感情の高揚にあるならばありふれた人類の行動の一つに過ぎないが、どうもマミの場合はそれを歌詞の箇所によって意識的に切り替えている。 #キュゥマミSS

2013-05-06 21:29:33
雪見バーガー @H926

嗚呼可愛いキュゥべえ優しい君は 行け 皆の夢守る為♪ 歌詞の中で「彼」の名前が歌われる箇所を、マミは勝手に僕の通り名に換えた(そういえばこの通り名も、マミが僕の名乗りを勝手に改変したものだ)。僕も倣って「可愛いマミ」と歌ったらマミは赤くなった。 #キュゥマミSS

2013-05-06 22:52:11
雪見バーガー @H926

「歌詞の一部に君は君の抱える問題を重ね合わせる一方で、箇所によってはそれを頭から消す為に、言い聞かせるように歌っている」 歌い終わって「わかった?」と問いかけるマミに僕は答えた。 「歌詞の受容の仕方に疑問はあるけど、やはり件の彼と自分を重ねてるように見える」 #キュゥマミSS

2013-05-07 13:21:50
雪見バーガー @H926

「かもね」  最初の返答を巴マミは繰り返した。 「キュゥべえがそう言うなら、やっぱりそうなのかもね」  僕を抱き上げ、目線を合わせて微笑む。 「でもね」  わけがわからないよ。そう言葉を発しようとしたけれど、直前に聴こえた声に僕は黙る。 「彼と私は違うわ」 #キュゥマミSS

2013-05-17 18:25:48
雪見バーガー @H926

「彼って、凄くたくさん友達がいるのよ? 家族も3人」  2人と1匹ではないかと思ったが、言葉にはしない。 「だからあれは彼の歌なんだけど、彼を歌った歌ではないの」  わけがわからない。 「私のお父さんは、さっきのキュゥべえみたいに私の名前で歌ってくれたわ」 #キュゥマミSS

2013-06-04 16:40:22
雪見バーガー @H926

「あの歌はね、彼のことを歌った歌ではなくて、彼に向かって歌う歌なのよ。頑張れって、励ます歌。彼の友達や家族、そして彼自身が、彼に」 #キュゥマミSS

2013-06-04 16:51:46
雪見バーガー @H926

つまりそれは、先中で描かれる家族や友達や仲間のたくさんいる「彼」ではなく、愛と勇気だけが友達である孤独な状況の(意味不明な歌詞は孤独の強調だろう)、概念上の「彼」を励ます為の歌であり、更に聞き手や歌い手は彼に任意の誰かや自分を重ね、鼓舞しているということか。 #キュゥマミSS

2013-06-24 14:06:21
雪見バーガー @H926

それはマーチ、行軍歌の役割を類推するに納得できる答えだった。 「マミがマミ自身に歌う応援歌なんだね」 マミは少し微笑んで、もう1つの「彼」の歌を口ずさんだ。「彼は君さ」という歌詞を僕の言葉の肯定と判断する。彼を自分と同一視するのは「僕達」のようだと少し思った。 #キュゥマミSS

2013-06-24 14:25:52
雪見バーガー @H926

「私ね、わからないのが嫌なの」 マミは僕を抱き寄せた。 「キュゥべえに助けられて、1人だけ生き残った意味がわからないのは嫌なの。これからずっと1人で生きていくその意味がわからないのは嫌なの。いつか1人ぼっちで死ぬ時に、生きた意味がわからないのは、嫌なの」 #キュゥマミSS

2013-06-24 14:46:55