【艦これ】即興妄想設定SS【自分用メモ】

なんか発作的に思いついてTLに放流した艦これ妄想設定SS。主に自分用にまとめ。機会があったら膨らませて長編にしたい気はしないでもない。
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浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

冷たい水の感触で、加古は目を覚ました。ひどく頭が痛い。視界は真っ暗で、全身が鉛のように重かった。――ここはどこだろう。自分はいったい、どうして――。瞼をこじ開けようとするけれど、身体は上手く言うことを聞いてくれない。寝不足で叩き起こされた朝よりもよっぽど酷い目覚めだ。 #艦これ

2013-12-02 02:53:34
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

ぴちょん、と頬を再び水滴が打った。その瞬間、何かが弾けたように、不意に記憶が閉じた瞼の裏に蘇った。 ――南方海域での深海棲艦との戦い。大破した自分を曳航する古鷹と青葉。そこへ放たれた一発の魚雷が自分の背後に迫り、 ――加古! 古鷹の悲痛な声を最後に、記憶は途切れている。 #艦これ

2013-12-02 02:56:49
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

ああ――そうか。自分は沈んだのだ。母港へ帰投する途中で、潜水艦の雷撃を受けて。また、皆の目の前で。かつて、船だった頃と同じように。 だとすれば、ここは死後の世界というやつだろうか? ――古鷹。青葉。衣笠。ごめん。またドジっちまったよ。古鷹、怒ってるかなあ……。 #艦これ

2013-12-02 03:01:01
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

行きはよいよい、帰りは怖い。昔の記憶ゆえに、嫌というほど解っていたはずなのに、また同じような沈みかたをしてしまった。これでは、古鷹に怒られても仕方がなかった。真っ先に大破して、皆に迷惑をかけた挙げ句がこれだ。自嘲気味に笑おうとすると――不意に、頭に鋭い痛みが走る。 #艦これ

2013-12-02 03:02:53
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

死後の世界でも、痛覚はあるのだろうか。理不尽な話だなあ、と加古はぼんやり思い、それからゆっくりと重い瞼をこじ開けた。 ――そこは、仄暗い洞窟の中だった。 湿った岩肌から滴る雫が、足元の水面に小さな波紋を落としている。加古はその岩壁に、鎖で手足を拘束され繋がれていた。 #艦これ

2013-12-02 03:04:56
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

――ここは、死後の世界じゃない? 自分は生きているのか? じゃあ、ここは――。 はっと目を見開いて、加古は視線を彷徨わせ、身体を動かそうとした。だが、鎖に繋がれた手足は自由にならず、軋むような痛みが全身に走り、加古は奥歯を食いしばって呻いた。 #艦これ

2013-12-02 03:07:27
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

自分の繋がれているのは、海岸線の洞窟らしい。足元は地面ではなく海水が満ちている。――味方に救出されたのなら、こんなところに拘束されているはずがなかった。だとすれば――。 加古の推測を裏付けるように、鎖の音を聞きつけたのか、闇の中から水面の上を滑るように、何かの影が現れる。#艦これ

2013-12-02 03:10:24
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

「……深海、棲艦……」 現れたのは、見間違えるはずもない。深海棲艦の駆逐イ級だった。イ級は加古が目覚めているのを認識したのか、その場で回頭し、再び闇の奧へと消えていく。 どうやら、あれは見張りらしい。自分は深海棲艦に鹵獲されたのか。考え得る限りおよそ最悪の状況だった。 #艦これ

2013-12-02 03:12:50
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

改めて自分の身体を見やる。服はあちこちボロボロでほとんど半裸に近く、艤装の一切は外されたのかどこにも見当たらなかった。艦娘も艤装が無ければ、普通の人間の少女と変わらない。この状況で両手両足を拘束する鎖を外す手段は、加古には思いつかなかった。 #艦これ

2013-12-02 03:14:58
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

自分はいったいどうなるのだろう? 無駄な体力を消耗しないように身体の力を抜いて、加古は考える。大破状態とはいえ艤装を奪われ、拘束された。深海棲艦は、鹵獲した艦娘をどう扱うのだろう。――嫌な想像しか思い浮かばず、加古はゆるゆると首を振る。 #艦これ

2013-12-02 03:16:46
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

そこへ、足元の水面が小さな波を立てる。顔を上げると、駆逐イ級ではない、別の影が新たに闇の奧から姿を現した。――泊地棲鬼だった。 泊地棲鬼は加古を一瞥し、傍らの駆逐イ級に顎をしゃくる。イ級は闇の奧に消え、あとには拘束された加古と、それを見つめる泊地棲鬼が残された。 #艦これ

2013-12-02 03:20:09
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

「……アタシを、どうする気だよ」 答えなど無いだろうと思いながらも、加古は泊地棲鬼に問いかける。泊地棲鬼はやはり答えず、優雅な足取りで水面を歩き、加古にその手を伸ばした。人間の姿をしていながら、あまりに人間らしからぬ赤い瞳と不気味なほど白い手に、生理的嫌悪がわき上がる。 #艦これ

2013-12-02 03:22:39
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

「やめろっ、触るなよ……!」 加古は首を振って抵抗するが、泊地棲鬼の氷のように冷たい手は構わずその頬をすっと撫でる。全身を悪寒が走り抜け、加古はのけぞった。 ――くそっ。艤装さえあれば、20.3cm砲をぶっ放して、こんな鎖だって引きちぎって逃げられるのに――。 #艦これ

2013-12-02 03:25:21
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

『……ヨクキタ……カンゲイスル』 「――――」 目の前の泊地棲鬼が何を言ったのか、咄嗟に理解することができず、加古は目を見開いた。だがそのときには泊地棲鬼は既に加古から視線を離し、踵を返して闇の中に去っていこうとしていた。 「おい……! 待った、どういう意味だよ……!」 #艦これ

2013-12-02 03:27:36
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

加古の叫びに、泊地棲鬼は一度振り返り、その非人間的な顔に一度、薄ら寒い笑みのような引き釣れを浮かべた。その表情は、どこまでも怪物じみた深海棲艦にしては、あまりに人間的な表情で、加古は戦慄する。――なんだ、今のは。 困惑する加古に背を向け、泊地棲鬼はそのまま姿を消した。 #艦これ

2013-12-02 03:29:35
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

後に残された加古は、再び拘束を外せないかともがいてみる。が、やはり厳重な手足の枷は鎖の音を立てるだけで、身体の痛みが増すばかりだった。見張りらしい駆逐イ級の青い目に睨まれ、加古は唇を噛んでうなだれ、再び思考に没頭する。 #艦これ

2013-12-02 03:31:37
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

細かいことを考えるのは苦手だが、今は考えなければ生き残れそうにない。とにかく、生きているならなんとかここを脱出して、母港に戻らなければ。せめて艤装を取り戻せれば、大破状態でも何とか航行は出来るはずだ。人間の身体で泳いで帰るというのは、あまりに非現実的である。 #艦これ

2013-12-02 03:32:52
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

そのためには、この枷を何とかしなければならない。だが、普通の人間に過ぎない今の自分には、拘束を脱する力など――。 ――――。 何かが思考に引っかかって、加古は息を飲んだ。何だ。何が今、自分の頭に引っかかった? それは何かのヒントではないのか? #艦これ

2013-12-02 03:34:24
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

加古は必死に頭を回転させる。そもそも自分は何故掴まった。敵の雷撃で轟沈したからだ。艤装が完全に機能を停止し、その重みで海中に引きずり込まれた。そして今、自分は艤装を取り外され、深海棲艦の住処らしき場所で拘束されている――。 艤装を、取り外されて。普通の人間の状態で。 #艦これ

2013-12-02 03:35:58
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

「――そうだ」 加古は呟く。そうだ、それがおかしいのだ。兵器としての艦娘の本体は艤装であり、人間は単なる操縦者に過ぎない。艤装に適合さえすれば、操縦者は誰でもいいのだ。今の加古は何の力もない普通の人間である。 そんな普通の人間を、どうして深海棲艦が拘束している? #艦これ

2013-12-02 03:38:17
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

深海棲艦が兵器としての艦娘に目を付けて鹵獲したなら、用があるのは艤装だけのはずだ。ただの操縦者に過ぎない自分はとっくに殺されて捨てられていてもおかしくない。それなのに、自分は丁重に救出され拘束されている。それはいったい、どういうことだ? #艦これ

2013-12-02 03:41:51
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

深海棲艦が艦娘というシステムを理解していない? いや、自分の前にも轟沈した艦娘は何人もいる。自分が鹵獲されたなら、それ以前にも鹵獲された艦娘がいたと考えるべきだ。向こうは艦娘のことを理解していると考える方が自然である。なら、今の加古が無力な人間であることも解っているはず。#艦これ

2013-12-02 03:43:17
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

人質? 捕虜? まさか、深海棲艦がそんな人間的なことをするだろうか? せいぜい考えられるのは、艦娘や鎮守府への情報を引き出すことか。だが、一隻の重巡に過ぎない加古が知っていることなど大した情報ではない。そのことを深海棲艦に伝えれば見逃して貰えるか? ――そう甘くはないか。#艦これ

2013-12-02 03:45:42
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

拷問されるのか、脳を弄られるのか。いずれにしても自分が生かされているのは何らかの情報を引き出すためとしか考えられない。それなら、鎮守府の情報を奪われる前に舌を噛んで自決すべきなのではないか。 目を閉じる。瞼に戦友の顔が浮かんだ。古鷹、青葉、衣笠――第六戦隊の仲間たち。#艦これ

2013-12-02 03:47:47
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

古鷹、ごめん。アタシ、最後まで古鷹に迷惑掛けっぱなしだった。 青葉。古鷹のこと、よろしく頼むよ。青葉にしか頼めないからさ。 衣笠。古鷹も青葉も、面倒な性格してるけど、なんとか支えてやってくれないかな。アタシはもう無理っぽいからさ――。 #艦これ

2013-12-02 03:50:36