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〔アルミ缶〕は再び問題の「人」に目を向けた。 2秒3秒と睨み付けているうちに、そいつの輪郭が次第にはっきりしてきた。 幸いにも、それは人間ではなかった。 人の姿に擬態した人形であった。p52
2013-12-15 12:50:59やはりボロボロになった金属の破片や機械の部品を人の形に纏め上げることで構築されており、 灰色のドレスをかぶせられ、ご丁寧なことに「皮膚」の露出した部分には、 風化してそうなったのか、わざとそうしているのか くすんだ肌色の彩色が施されてた。p53
2013-12-15 12:55:33それは長い真っ白な髪の奥にある無機質な眼球で〔アルミ缶〕のことをじっと見下ろしていた。 おそらくあれもどこからか持ち込まれたガラクタの一つなのだろう。p54
2013-12-15 12:57:35相手が人間ではないと分かったとたん、 今まで抱いていた恐怖は怒りに変わり、それから悦楽に転じた。 自分は人が怖いのだ。 〔アルミ缶〕は人形を睨み付けた。 生きた人が怖いのだ。 p55
2013-12-15 13:03:18だから人形などちっとも怖くはないぞ。 どんなに不気味で恐ろしい顔をしてこちらを見ていようが恐ろしくはないのだぞ。 なぜならお前は実体を持った本物の人間ではないからだ。 〔アルミ缶〕は人形を見ながらにやにや笑った。 意味もなくニヤニヤ笑った。p56
2013-12-15 13:04:29己の症状を最大限逆手に取った八つ当たり的な愉悦であった。 そうやっておぞましい人形を笑いつつ、同時に生きた人間を過剰に恐れる自分自身をも 笑っていることに〔アルミ缶〕は気がついていた。 p57
2013-12-15 13:26:00「いらっしゃい」 背後から人の声がした。 幻聴であることを期待したが振り返ると今度こそ本物の人が立っていた。 それはジーンズにジャケット姿の痩せた中年の男で、 目元にしわを寄せながらにたにた笑っていた。 p58
2013-12-15 13:26:57「あ」 〔アルミ缶〕はそう言うのがやっとだった。 「いらっしゃい」 中年の男は同じせりふを繰り返しつつ、外界の光源を背に一歩一歩歩み寄ってきた。p59
2013-12-15 13:27:41男の身分についてはいくつかの可能性が頭をよぎったが、自分の立ち居地を考えれば どのようなケースであろうとも忌々しきことこの上なかった。 「何かお探しで?」 男は〔アルミ缶〕の目の前まで来てそう言った。p60
2013-12-15 13:32:21相変わらず人を食ったような笑みを浮かべている。 〔アルミ缶〕には返す言葉がなかった。 反応の仕様もなかった。 頭の中はいやに冷静だったが、とるべき適切な行動が一切思いつかなかった。 〔アルミ缶〕は地蔵のように固まった。p61
2013-12-15 13:33:54非現実的だが、このままずっと押し黙ってやり過ごそうかとも考えた。 「もしかしてその人形が目当てだったのかな?」 男の細められた目が〔アルミ缶〕の背後に流れた。 その位置にはあの鉄くずの人形が立っているはずであった。p62
2013-12-15 13:46:55「え・・・」 「悪いねそれは売り物じゃなくて、ただの飾りです」 男は音も立てずに〔アルミ缶〕の後ろに回りこむと、例の人形の肩をパンパンと叩いた。 「なんせこんな殺風景な部屋なんで、一つくらい遊びも必要だからね」 p63
2013-12-15 13:47:50「・・・・」 〔アルミ缶〕は黙りこくるしかなかった。 話を聞いている限り、中年の男は建物の管理人か持ち主らしいのだが、 無人と思い込んで勝手に入り込んでしまっている手前気軽に応答することもできなかったし、 p64
2013-12-15 13:53:36何より男の考えていることが〔アルミ缶〕にはまるで読めなかった。 通常ならばものも言わず入ってきた〔アルミ缶〕に不審の目を向け 咎めの言葉の一言二言から入ってくるのが筋なのではあるまいかp65
2013-12-15 14:00:12「それで、何をおさがしで?」 男はひょうひょうと体をくねらせながら〔アルミ缶〕を見据えた。 なんともつかみ所のない男だった。 p66
2013-12-15 14:01:07やけに陽気でなれなれしいが、反面自分との間に見えないガラスをはって距離を置き、 深いところでこちらの内面をすべて見抜いているかのような、 油断ならない雰囲気を〔アルミ缶〕は直感的に察していた。p67
2013-12-15 14:07:29「もしかしてカウンセリングかな?」 ここで男は、〔アルミ缶〕が一度気にしたワードを口にした。 建物外部のランタンに記されていた、あの言葉だった。 「カウンセリングなのかな?」p68
2013-12-15 14:08:17「・・・・・」 「どうしよう、カウンセリングは最近あんまりやってなくて」 男は後ろ手で頭を掻いた。 「どうしようかな」 思案顔で半径2メートル程度のスペース内をうろつく男を傍目に ここは本当にカウンセリングルームなのだろうかと〔アルミ缶〕は思い悩んだ。p69
2013-12-15 14:17:29見渡す限り、ここは危なっかしい廃材にまみれたただの廃墟だ。 カウンセリングルームと聞いて思い浮かぶ清潔なイメージとはあまりにもかけ離れている。p70
2013-12-15 14:18:58そのような用途に使われる場所であるとは到底考えられない。 もしかすると男はここの所有者でも何でもなく、 ゴミ屋敷に不法に住み着き虚言を吐き散らす狂人の類なのかもしれない。 逃げたほうがいいのだろうか?p71
2013-12-15 14:26:05