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新連載登山漫画『雪中登山部』アニメ化記念イベントは中止に追い込まれた。 手製爆弾が河原で破裂するさまを撮影したDVDと、その時飛び散った破片を合わせた脅迫状を イベント運営事務所に送りつけたことが功を奏したらしい。 脅迫50
2013-12-19 10:53:24さらにネットカフェよりインターネット掲示板にイベントが開かれるなら爆弾で参加者を 無差別に殺傷する旨の投稿を行い、同様に爆弾が炸裂する際の画像も貼り付け、 主催者側の逃げ道をなくした。 脅迫51
2013-12-19 10:54:15これで万一イベント会場にて参加者がダメージを負った場合、主催者側は世間から安全 管理体制に関して厳しい批判の目を向けられることとなる。 脅迫52
2013-12-19 10:55:03けれども実際のところ、脅迫者は問題のイベントが本当に中止に追い込まれるとは考えていなかった。 あくまで警備員の数を増やし、不審者の索敵に熱を入れる程度で、イベント自体はあくまで 強行されるものと予想していた。 脅迫53
2013-12-19 10:57:56なぜならばイベントを主催する「偽者」の登山漫画の製作陣は、それで金が入るならば 自分のような純真な読者を切捨てつつ臆面もなく卑俗なコンテンツを世に垂れ流す程度の、 品も情けもない強欲な営利集団であるわけだし、 脅迫54
2013-12-19 10:58:30また仮にも企業が少なからぬ予算をかけて行う企画に、いくら不法な手段を用いようがと自分のような 者が何らかの影響を及ぼすことができるとの期待を脅迫者は持ちえることができなかった。 脅迫55
2013-12-19 10:58:56社会の中では自分など取るに足らない何の価値もないちっぽけな存在であるという自覚を 脅迫者は有していた。 むしろ脅迫者の自分自身に対する評価は、己が得意とすると自負する領域を除いては過剰なまでに低かった。 脅迫56
2013-12-19 10:59:43ゆえに凶行に及んだ脅迫者の狙いは、イベントを実際に中止させることよりもどちらかと言えば イベント主催者側を精神的に追い詰め、同時に世間的なイメージも低下させ、もって彼なりの 報復を成立させるところにあった。 脅迫57
2013-12-19 11:00:14だからイベントが中止されることになったとのニュースを聞いた際、想像を超える戦果に対し 脅迫者は爆発するような興奮に打ち震える反面、今更ながらに自分のしでかしたことの重大性を思い知り、別の意味でまた震えた。 もはや後には引き返せないと思った。 脅迫58
2013-12-19 11:00:44無論脅迫状の送致やネット上への反抗予告を行った時点でも、自分の行為は懲役がつくレベルの凶悪な犯罪であるという認識を脅迫者は持てていた。 脅迫59
2013-12-19 11:06:10だから犯行を行う際脅迫者は監視カメラに映っても大丈夫なよう、防止に色つき眼鏡、マスクで顔を隠し、封筒や中身には自分の指紋がつかぬよう徹底した。 脅迫60
2013-12-19 11:06:39脅迫状の投函は自宅から列車で1時間は離れた遠隔地のポストに夜間に行う念の入れようだった。その上でなお足がつく可能性を彼は想定していたし、そうなった場合の覚悟もできていた。それはそれでもう仕方がないのだ。 脅迫61
2013-12-19 11:07:17自分が悪いのではない。自分が愛した「本物」の登山漫画を打ち切り「偽者」を贔屓した雑誌社と 「本物」の価値もわからず盲目的に追従した世間が悪いのだ。 脅迫62
2013-12-19 11:07:54その死骸が眠る土の上で、死骸が残した栄養物を根こそぎ吸い上げながら、喜色満面で たわけたイベントなどに興じる「偽」の漫画の関係者を見逃すことは、脅迫者にはどうにも 我慢ならなかった。 脅迫64
2013-12-19 11:09:03よしこうなればつまらない自分の人生などくれてやろう。一矢報いるための鉄砲玉と化そう。それは殉教であり、ファンの「第一人者」である自分にとっては逃げることのできない使命であるはずだった。 脅迫65
2013-12-19 11:09:36それを行ったところで誰一人得をしない。犯行が露見すれば牢獄に入れられマスコミに吊るし上げられ一番痛い思いをするのは彼自身だ。 でもしかたがないではないか。 脅迫66
2013-12-19 11:10:16自分が悪いのではないあの「偽者」の登山漫画が悪いのだ。あの「偽」の漫画が本来善良な小市民に過ぎなかったはずの自分を凶行に走らせるのだ。 脅迫67
2013-12-19 11:10:51その意味で自分もまた被害者であり、だから仮に逮捕されたところで自分の行いを悔い苦しむ必要はなく、ただただあの「偽」の漫画を恨めばよいだけなのだ。 脅迫68
2013-12-19 11:11:32ここまで腹を括った末の犯行だった。にも拘らずいざ実際にイベントが中止されてみるや、元来臆病にできている彼の心はとたんに乱れた。 脅迫70
2013-12-19 11:12:38世界中の人間が脅迫者の犯した罪に驚き怒り、国家権力とともに彼の狩りに動き出したような気がした。表を歩けばすれ違う人がみな自分のことを監視しているように思えてならず、焦りと恐れのあまり脅迫者は数日間塞ぎこんだ。 脅迫71
2013-12-19 11:16:49行き過ぎたストレスは、脅迫者の脳をそれから逃れることのできる快楽へと誘導する。 しばらくした後、彼はネット上でイベント脅迫事件について報じる新聞社の記事を見つけてはニタニタとほくそえむようになった。 脅迫72
2013-12-19 11:17:30よく考えればそれは彼が人生で始めてこの世に刻み付けることのできた彼の痕跡であった。彼はいまだかつて経験したことのない充足感に酔いしれた。 脅迫73
2013-12-19 11:18:03もういいだろう。 もう後戻りはできないし、どの道こうなる運命だったのだ。あの漫画にのめりこみ始めた段階からどこか只ならぬ予感はあったし、心底好きになった漫画によって己の行く先を規定されるならそれはそれで満足だった。 脅迫74
2013-12-19 11:19:19