愁百首

憂卅一文字 @sanjo_deletus

春は霞にたなびかれ、夏は空蝉なきくらし、秋は時雨に袖を貸し、冬は霜にぞ責めらるる。憂世のならひかくてこそ、恨みを刻む敷島の、半ばに果つる由もあれ。述懐の百首を奉り、人々漱ぐ川をば穢し申し候程に、去るがめでたき、さ示し候。かまへて「憂」の文字用ゐるべからず。 #愁百首

憂卅一文字 @sanjo_deletus

【一】人目には春立てりともふる年の光もいかが身にあくるやは #愁百首

憂卅一文字 @sanjo_deletus

【二】春風に袖に常なる涙川とけてぞいとど思ひなかるる #愁百首

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【三】吉野山霞かかりて久しき身いかがは里にふれるしら雪 #愁百首

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【四】鳥にのみむつましき身も世にふれば涙のいかが凍りとくべき #愁百首

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【五】年かけてなきこそわたれ梅の花咲くを待たぬと今し知れれば #愁百首

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【六】雪かかる身にはそへてむかひなしな涙のほかは枝もさゆめり #愁百首

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【七】嘆きをば心ざしにも消ちあへずみといひながら花もなかりき #愁百首

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【八】いたづらに頭しら雪つもるべしはつかも光ゆかりなき身は #愁百首

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【九】桜花我をばよそに霞にも散りは同じく芽こそはるらめ #愁百首

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【十】遅きとき世は分けつらしむべは花このみはならでいつにかは経む #愁百首

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【十一】声それもいたづらなれや世にしては谷より出でぬ命をも知れ #愁百首

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【十二】うつせみの世にうち出だすはつ花の波にわびあへずなるとやは見ぬ #愁百首

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【十三】住みわびぬいかで朽ちにしみの香をば風のたよりに今はともがな #愁百首

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【十四】山吹に降る春雨も年ごとにひまはあるらし涙ならずて #愁百首

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【十五】山吹をし植うるほどの心ちにて人をあやなく世に放つらむ #愁百首

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【十六】うつろへばほかの影なす身を何かよしのの川とそこの持つべき #愁百首

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【十七】世の中にいでの山吹散らば散れあらむものかは花の盛りも #愁百首

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【十八】人目なき春の山べの暮るるたび思ふどちやは何ぞうましか #愁百首

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【十九】春立てど弓張月もおぼろにているとも見えぬ我が身なるかな #愁百首

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【二十】嘆きよりなきもとめあへず果ていかにおろかの人ぞ命持つなる #愁百首

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【二十一】なくならむ春のもとより見えぬ山あだにも花をとめてな寄りそ #愁百首

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【二十二】かへりせばおぼつかなきを春霞昔たちてやうれしからまし #愁百首

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【二十三】ふたたびもみたびも来べき命にてかこつ声をばいかが絶やさむ #愁百首

憂卅一文字 @sanjo_deletus

【二十四】あながちにとどむる人とはかなくも散る花ごとの心かなしき #愁百首