ジロ＠花の目覚め・海の目覚め

すなお＠創作 @rullino_s

メモ帳は気に入って貰えたらしい。記念に写真を、と女性のバックパックから取り出された立派なカメラに「えぇ、何か照れます…」と尻込みしつつ、折角なので撮ってもらうことにした。写真なんていつぶりだ？一応作っている笑顔が多分ぎこちない。 @_kumoyuki_ #空想の街 #街商 #露光

雲行き＠空想の街 @_kumoyuki_

カメラマン、と言ってはみたものの、いつも扱う被写体はモノ言わぬ工業製品ばかり。人を撮ることが少ないので緊張してしまう。ニヤリと笑った街商さんに向けてシャッターを切る。カシャン、と手元で響いた音を聞いて確信する。きっと良い写真だ。 #空想の街 #街商 #露光@rullino_s

すなお＠創作 @rullino_s

シャッターを切った瞬間カメラマンの女性がふ、と表情を緩めたので、ああ良いのが撮れたんだなと思った。写真貰えんのかな…と思ったが恥ずかしくて言い出せず、「そうだ、これ持ってきな。海呼鳴っていうこの街の伝統菓子だよ」と包みを渡した。 @_kumoyuki_ #空想の街 #街商 #露光

雲行き＠空想の街 @_kumoyuki_

「あ！ありがとうございます」 街の伝統菓子と言って渡されたそれは包みの上からもふわりと良い香りがする。「メモ帳もお写真もありがとうございました！また何か欲しくなったら伺いますね」 #空想の街 #街商 #露光 @rullino_s

すなお＠創作 @rullino_s

くるりと身を翻して立ち去る女性客を見送って、あ、と思った。あっちは昼間に会った女将のやっている #オトトイ食堂 のある方だ。酒の一杯も引っ掛けたくなる寒さだ、きっと今夜は盛況なんだろうな。腹も減ったことだし、ぼちぼち店仕舞いをして自分も向かうことにした。 #空想の街 #街商

すなお＠創作 @rullino_s

店の存在は知っていたが南区で夜を過ごすことが少なくて、今まで訪れる機会がなかった。「邪魔しますよ」と扉を開けると、やはり食堂は客で賑わっていた。濡れた身体が暖かさと料理のにおいに包まれてほっとする。空席はあるだろうか。 @asimox330 #空想の街 #ｵﾄﾄｲ食堂 #街商

莢豆（藤房） @asimox330

@rullino_s あっ、昼の！お世話になったねぇ、さ、さ、入って入って！ #空想の街 #ｵﾄﾄｲ食堂 #街商 昼のお礼だよぉ、ご飯にお酒、好きなの頼んでね！

すなお＠創作 @rullino_s

周りの会話をぼんやり聞きながら、地酒の熱燗と、何か温かい汁物を、と頼んだ。程よく雑然とした雰囲気が心地良い。身体が温まってきたのでようやく上着を脱いだ。 @asimox330 #空想の街 #ｵﾄﾄｲ食堂 #街商

莢豆（藤房） @asimox330

@rullino_s はい、しら酒の熱燗に山菜蕎麦とおまけの天ぷらだよ。あっちの席のと一緒にあげたから熱々、気をつけて #空想の街 #ｵﾄﾄｲ食堂 #街商 あたしも一つもらうね、辛口が好きならスパイス入りもあるのよ

すなお＠創作 @rullino_s

「辛いのはやめときます。酒の味がよくわかんなくなるんで」と断わって、天ぷらを摘まんでお猪口を口に運ぶ。うん、旨い！ 料理も酒も。生きてて良かったと思う瞬間だ。山菜蕎麦もぺろりと平らげてしまった。「あー、ごちそうさんでした」 @asimox330 #空想の街 #ｵﾄﾄｲ食堂 #街商

莢豆（藤房） @asimox330

@rullino_s 体張った商いの人はご飯の食べ方が本当美味しそうだよ、気持ちよくていいねぇ #空想の街 #ｵﾄﾄｲ食堂 #街商 〆に五目のおにぎり、いかが？お土産につつんであげようか、おうちの方にいいでしょ

すなお＠創作 @rullino_s

「あ、そりゃいいですね」 生憎独り定住する家もなくふらふらしている身だが、五目のおにぎりは朝食にちょうどいいので包んでもらうことにした。おかわりした酒代はサービスしてくれるというので有難く甘え、腹も心も満たされて店を出た。 @asimox330 #空想の街 #ｵﾄﾄｲ食堂 #街商

莢豆（藤房） @asimox330

@rullino_s 夜道でいい気持ちで寝ちゃ風邪引くよぅ。気をつけてお帰り、ね #空想の街 #ｵﾄﾄｲ食堂 #街商

空想の街公式アカウント @humptyhumtpy

おはようございます。ゆひ…こほん、雪です。ゆうべは随分冷えましたね。足元滑りますので通勤通学の際はお気をつけください。てぶくろはいてね。雪焼け対策もわすれずに。いってらっしゃい。（情報窓口　佐々木類）　#空想の街

すなお＠創作 @rullino_s

夜は路上の片隅に停めたリアカーの傍らで寝袋にくるまって眠る。ほぼホームレスだ。一旦寝ついたら身動ぎもせず熟睡するタチなので、何年か前の冬の朝に通行人に「凍死体が転がっている」と通報されたことがあった。実際死ぬ程寒くはないがふかふかぬくぬくという訳にもいかない。 #空想の街 #街商

すなお＠創作 @rullino_s

朝、寝袋から這い出して空を見上げると、「…雪だ…」今度こそ空魚の鱗でもない、雪がはらはらと降っていた。積もったら厄介だな。というかそれ以前に、「やっぱさみー…」リアカーの持ち手に腰掛けてオトトイ食堂の女将さんに貰った握り飯を頬張りつつ、自分の服装を検分する。 #空想の街 #街商

すなお＠創作 @rullino_s

冬用コートは何年着倒しているのか忘れたが、ボタンを付け直したり綻びを繕ったりという細かな補修が繰り返されつつも全体的に薄汚れてくたびれており、ファーはガビガビになっている。ここらで新調も悪くないか。今日は中央区に向かうとしよう。腕のいい #仕立屋 がいる筈だ。 #空想の街 #街商

すなお＠創作 @rullino_s

南区には良い風呂屋がある。何せ放浪の身なので風呂は重要で、泊まらずとも入浴だけできる宿を含めて街中の風呂屋情報が頭の中の地図に書き込まれている。冬の朝のひとっ風呂ってのはまた格別だ。中央区へ向かう前に立ち寄って、まだ誰も客のいない浴槽に浸かって疲れを落とした。 #空想の街 #街商

すなお＠創作 @rullino_s

風呂上がりに牛乳を飲み干してのれんをくぐると、相変わらず雪は降り続いていた。案の定積もっている。滑らないように足元を見ながらリアカーに歩み寄ると、ふと視界に鮮やかな色がよぎった。白い雪にミスマッチな元気な黄色の菜の花――そうか、『花の目覚め』が始まってるのか。 #空想の街 #街商

すなお＠創作 @rullino_s

雪が降ると坂が特に怖い。何せでかいリアカーを引いているので足を滑らせようものなら大惨事（人も物も。坂の下にいる人も間違いなく巻き込む）だ。かたつむりになった気分でのろのろと線路を越え中央区に入るまでにちらほらと花を見かけた。見上げた時計塔は雪をかぶっている。 #空想の街 #街商

春木のん🪄ふしぎなアンソロ @Haruki_Non

「ジロさーん！」 あけよは、大きな時計の前でジロさんを探しました。 「ジーローさーん！」 「あ、明代。あのリヤカーを引いてる人じゃないかな？」 ママが指差した方に、あけよは走って行きました。 「手袋くださーい！」 @rullino_s #街商 #明代と海 #空想の街

すなお＠創作 @rullino_s

名前を呼ばれた、と思って振り向いたら、小さな女の子がまっしぐらに駆け寄ってくるところだった。雪だるまでも作るのか手袋が欲しいらしい。「ちょっと待ってな」しゃがみこんで頭を撫でてから、大きさの違う手袋をいくつか引っ張り出した。 @Haruki_Non #街商 #明代と海 #空想の街

春木のん🪄ふしぎなアンソロ @Haruki_Non

ジロさんは、大きな手であけよの頭を撫でてくれました。それから、いっぱい手袋を出してくれたよ！ あけよの手にぴったりな手袋、どれかな？ 「明代、走ったらまた転ぶから気をつけて」 「あけよ、お花さんが付いたコレ欲しい！」 @rullino_s #街商 #明代と海 #空想の街

すなお＠創作 @rullino_s

お、あけよちゃんっていうのか。迷いなく選ばれた手袋は、裏地は羊毛の毛織、外側はもこもことした毛糸で白地に赤い花があしらわれた物だった。指先の赤くなった手にはめてやるとサイズもちょうどいい。無邪気な笑顔につられて頬がゆるんだ。 @Haruki_Non #街商 #明代と海 #空想の街