Kiss or Knife #3

前回はこちら http://togetter.com/li/625900
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劉度 @arther456

◇◇◇◇◇◇◇ ←九十一式徹甲弾

2014-02-08 20:45:54
劉度 @arther456

(これから艦これ二次創作SSを投下します。TLに長文が投下されますので、気に触る方はリムーブ・ミュートなどをして下さい。感想・実況などは #ryudo_ss を使用していただけるとありがたいです。それでは暫くの間、お付き合い下さいませ)

2014-02-08 20:47:10
劉度 @arther456

「提督、先月の海上護衛データがまとまりました。北方C2船団の敵遭遇が30%増加、このルートは敵に見つかっていると考えたほうがいいでしょう」「ん、ご苦労さん」シャロンからデータを受け取る。研修の一環として秘書艦になったシャロンは、戦場とは違い実に有能であった。1

2014-02-08 20:47:37
劉度 @arther456

書類整理やデータ分析はもとより、提督のスケジュール管理や身の回りの世話なども完璧にこなしている。それも提督がほしいと思った瞬間、絶妙なタイミングである。最初は不知火が秘書艦業務の手伝いをしていたが、すぐにシャロン一人で秘書艦の役目をこなせるようになった。2

2014-02-08 20:50:52
劉度 @arther456

ふと、提督がキーボードを叩く手を止め腰を浮かせた。すかさず、立ち上がる前にシャロンがマグカップを差し出す。「提督、コーヒーをお持ちしました」「ん、ありがと」椅子に座ってコーヒーを一口。砂糖とミルクがたっぷり入った、甘党向けのコーヒーだ。3

2014-02-08 20:54:19
劉度 @arther456

「って、よく分かったな」「提督、喉が渇くと唇を撫でる癖があるでしょう?それで先に沸かしておきました」「そんな癖、知らなかったぞ。シャロンは凄いな」「いえ。提督に秘書艦という居場所を与えられた以上、これぐらいは当然です」4

2014-02-08 20:57:36
劉度 @arther456

黙々と提督は仕事を進める。静かな時間だ。艦隊はパトロール中だし、他の艦娘も海上警備か非番のどちらかだ。「あの、提督?」「どうした?」「今日のお仕事なんですけど、いつもより少ないんです。この調子だとお夕飯前には終わります」「そりゃいいな。夕飯は外に食べに行くか」5

2014-02-08 21:01:04
劉度 @arther456

シャロンの顔がぱぁっと明るくなった。「はい、行きましょう!」「酒は飲める?」「嗜む程度には」「うん、それじゃ隼鷹と那智も連れて行こう。むっちゃんにこの前いい店を紹介して貰ったんだ」「……他の子も連れて行くんですか?」「うん。まだ二人ともあの店には連れてってないからね」6

2014-02-08 21:04:37
劉度 @arther456

「……分かりました。お店の予約はしておきますか?」「じゃあよろしく」提督はメモ用紙に電話番号を書きつける。「ここに電話して、4人分の席とっといて」「畏まりました。コーヒー、お代わりはいかがです?」「お願い」空になったマグカップを手に、シャロンは部屋を出ていった。7

2014-02-08 21:08:11
劉度 @arther456

「作戦終了。艦隊、帰投したわ」執務室のドアがノックされる。訪れたのは、バジー諸島のパトロールから帰ってきた矢矧だ。だが部屋の中から返事はない。「提督は外出中です」背中から声。振り返れば、不知火がそこにいた。「驚かせないでよ。提督、どこに行ったの?」9

2014-02-08 21:11:42
劉度 @arther456

「食事です。隼鷹、那智、シャルンホルストの三名と共に、鎮守府近辺の居酒屋に行ったと、電さんから聞きました」「またあのドイツ艦か……」矢矧は眉根を寄せる。すっかりあのドイツ艦にべったりだ。仕事も身の回りの世話もほとんど彼女に任せきりにするのは、どうかと思う。10

2014-02-08 21:15:07
劉度 @arther456

いくら有能とはいえ、やってきてまだ一ヶ月もいない、しかも外国から研修に来ている艦娘が、鎮守府の中枢に近い業務を任されているのだ。自称メインヒロインである彼女にしてみれば、当然面白くない。「ドイツのスパイ、とかだったらどうする?」半分冗談、半分願望で矢矧が呟く。11

2014-02-08 21:17:45
劉度 @arther456

「その可能性はありません。陸軍情報部に身元を探ってもらうように頼みましたが、全くの不明でした」「……調べたの?」「司令のご命令でしたので」最初は提督もシャロンを警戒していたようだ。今ではご覧の有り様だが、とそこまで考えた矢矧が、あることに気付いた。12

2014-02-08 21:21:05
劉度 @arther456

「ちょっと待って。『不明』なの?」「はい。ドイツ海軍で艦娘が建造されたことは確かなようですが、装着車の身元はわかりませんでした」「流石におかしくない?あっちに行ってる諜報部員って、中野学校出てるんでしょう?」艤装の仕様ならともかく、少女一人の身元がわからないのはおかしな話だ。13

2014-02-08 21:24:18
劉度 @arther456

「……そもそも、どうしてシャルンホルストなのかしら?ビスマルクほど有名じゃないし、Uボートみたいに簡単に作れる船でもない。中途半端よ」矢矧の疑問は続く。「それに……こういう事は言いたくないけど、シャルンホルストって船、ゲンが悪すぎるわ。嫌な噂が多すぎる」14

2014-02-08 21:28:00
劉度 @arther456

純白の戦艦シャルンホルスト。優雅な見た目とは裏腹に、まつわる噂は余りに不吉。曰く、建造中に死亡事故が多発。曰く、進水式に参加した少女が意味深な遺言を書き残し自殺。曰く、夜な夜な艦橋から悲鳴が聞こえる。曰く、撃沈後わずか2名の生存者が、直後にストーブの爆発に巻き込まれ即死。15

2014-02-08 21:32:04
劉度 @arther456

「根も葉もない噂です。大方、昔のプラモデル屋が販促のために、面白そうなデタラメを作ったのでしょう」「だけどもし本当だったら?」味方殺しの死神艦が提督に気に入られている。危険な状況だ。「……提督って、恨まれるようなことしてた?」「そうですね」16

2014-02-08 21:35:28
劉度 @arther456

「年末に更迭された海軍大将、提督が潰した輸入食品業者、軍事力で脅して従わせている南西諸島のマフィア。あともちろん深海棲艦も。数え出したらきりがありません」「何やってんの……」矢矧は手で顔を覆う。鎮守府内では分からないが、外では相当恨まれているようだ。17

2014-02-08 21:39:11
劉度 @arther456

「とにかく、もっと詳しく調べてちょうだい。嫌な予感がするの」「善処します」不知火は顔色一つ変えない。「……ねえ、一つ聞きたいんだけど」「何でしょう」「あなた、あの戦艦に提督の側を取られて悔しくないの?」矢矧にとっては前々からの疑問だった。18

2014-02-08 21:42:47
劉度 @arther456

メインヒロインとしては悔しい話だが、提督が不知火に特別な信頼を置いていることは明らかだった。そんな彼女が遠ざけられて、代わりに知らない外国艦が側にいるのに、不知火の様子はいつもと変わらない。「司令のご命令ですから」「いや、命令とかそういうのじゃなくて」19

2014-02-08 21:46:16
劉度 @arther456

「不知火は軍人です。軍人である以上、上官のご命令は絶対です。そこに感情を差し挟む余地はありません。命令でないセクハラやふざけた命令には暴力で答えておりますが、正当なご命令とあらば命を捧げても構いません」高揚も諦観もなく、当たり前のように彼女は言った。20

2014-02-08 21:49:46
劉度 @arther456

「そ、そう……」鋭利に過ぎる、不知火の意志。その片鱗に触れた矢矧は、そう返事することしかできなかった。非常に気まずい沈黙。ごまかすように、矢矧は前髪をいじる。「むーえーうー」そんな二人に横合いから、気の抜けた声が割り込んできた。廊下の向こうから、飛行場姫が歩いてくる。21

2014-02-08 21:53:43
劉度 @arther456

「あら、部屋の中にいたんじゃなかったの?」飛行場姫は深海棲艦だが、色々あってこの鎮守府に居候している。害意はないが、不用意に近づくと関節技を決められるのでやや危険だ。普段は執務室の隅に山積みにされたペンギンのぬいぐるみの中で眠っているのだが、今日は珍しく外にいるようだ。22

2014-02-08 22:01:42