加賀さん観察日記 Part8

キタユキ @k_t_y_k

ここは横須賀。クソレズの園。厳密には大阪にありますが、今、この地に新たなるクソレズが芽吹かんとしています。普段は開けっ放しの執務室の扉が、今日は固く閉ざされ、床や机に積み上げられて片付けられる気配の無いの本や諸々の書類はきちんと棚に納められています。 #加賀さん観察日記

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物が全て避けられた床には、神代の時代に使われたであろう文字で大きな円が描かれています。榊や鏡、その他小道具は皆定められた方角に置かれ、障害となるような家具は全て廊下に出されています。灯りは蝋燭が十数本のみで、薄暗く、近づいてようやく顔が見えるかどうかです。 #加賀さん観察日記

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「では、契約の手続きに入ります。その前にお二方の意志を確認したいのですが、病める時も健やかなる時もと、祝詞をあげてから三々九度、どちらがお好みですか？」加賀さんは何を言われてるのかわかってないらしく、首を捻っています。どちらもいりません。普通にやれ。 #加賀さん観察日記

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「冗談よ」普段の着衣装甲とは違う、古めかしい神官の装いに着替えた矢矧は、袖を仰々しく振ってから、静かに床に膝をつきました。「あれは契約後に行うものでしょう。本番は、今からよ」空気が引き締まり、密室であるというのに冷たい空気が一人でに渦巻いていきます。 #加賀さん観察日記

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白の襦袢一枚に着替えさせられたので、体の芯が冷えてくるようです。向かいあって正座をする加賀さんはいつも通り、弓道着のような着衣装甲なのですが、右のゆがけはつけておらず、甲に丹で文様を描かれています。呪いなのでしょう。私の左手にも対になるものが描かれています。 #加賀さん観察日記

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まず、加賀さんに杯が差し出されます。加賀さんは少し口をつけたあと、矢矧に後ろから桃の枝で交互に肩を触れられました。その後、こちらに先ほどの杯が差し出されたので、なめる程度に口をつけます。舌先が微弱ながらも塩辛さを感じます。海水なのでしょう。 #加賀さん観察日記

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杯から口を離すと、矢矧に後ろから、今度は松の枝で肩を左右交互に触れられます。そうして矢矧は元いた場所に戻ると、白い和紙と小刀を取り出しました。それから加賀さんに、艦娘だけで通じる言葉で何かを促すと、加賀さんは右手の親指を噛み切りました。オイルが滲み出ています。 #加賀さん観察日記

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加賀さんが親指を紙につけた後、こちらに小刀が渡されました。「左手のほうで」と矢矧は言いますが、どうやら血で印を押せ、ということらしいです。薄く皮膚に刃を当て、横一文字にすっと引くと、血が滲み出してきました。以前より、色が濃くなったような気がします。 #加賀さん観察日記

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紙に指を押し付けると、矢矧がその紙を受け取り、先ほどの桃と松の枝で血判の周りに弧を描いていきます。すると、今まで真っ白だった紙面に光るうねりが一瞬走り、床の文字に似た呪文が、書かれた様子を再現するかのように浮かび上がっていきます。　#加賀さん観察日記

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「タカマガハラニカムヅマリマシマス」独特の節をつけて、矢矧が女の見た目からは想像もつかないほど低い、おどろおどろしい声で読み上げます。その声に応じ、紙の上の文字が光り、踊り、血判を取り囲むように忙しなく変化していきます。「スメムツカミロギカミロミノ」 #加賀さん観察日記

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「ミコトヲモチテ　オオワタツミ　コタダツミ　モロワダツカミヲタタエマツリテ」矢矧の唱える呪文はどうも祓（はらえ）のようです。海神祓でしょうか。次第に血判部分を両手の親指に見立て、文字が両掌を模ったあと、軽快な動きでその手をあわせるような図に変化します。 #加賀さん観察日記

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文字の動きが面白いので眺めていると、（はやくやれ　お前の目の前にいる艦娘と手を合わせるんだよ　今の子はいちいち説明しないとわからないのか）と言いたげにコミカルに図が変化するので、紙から目を離し、加賀さんの方を見ました。加賀さんもまた紙に見入っています。 #加賀さん観察日記

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じっと紙を見つめたまま微動だにしない加賀さんでしたが、紙の上の文字が一列何かを添え書きすると、はたと顔を上げました。そうしてゆっくりと。親指に血の小山を作った掌を差し出してきます。座ったままでは少し距離があるので、こちらが身を乗り出して合わせました。 #加賀さん観察日記

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加賀さんは体が大きいので、手もこちらより小指の関節一つ分は大きい手をしています。手首からあわせるように触れ合うと、骨に電撃を食らったような、鋭い痺れが走りました。腱鞘炎ではないと思いますが、一瞬にして頭まで駆け抜けていき、首の後ろで火花が散ります。 #加賀さん観察日記

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（リノリウムの廊下が窓の光で四角く切り取られている。姦しい少女の声。走りさる影。学校のようだ。見覚えがある。あの角を右に曲がって、渡り廊下を渡って、階段を上がれば教室。高校の時の校舎だ……自分の記憶なのだろうか。他の生徒の顔は靄がかかってわからない） #加賀さん観察日記

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（窓の外では高飛びの練習が行われている。懐かしさで目の奥が熱い。教室の黒板を見やると、6/24と歪んだ丸文字がチョークで刻まれている。いやに引っかかる数字だ。何か大切なことを忘れている気がする……）　#加賀さん観察日記

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（自分は席に座っている。隣には人がいない。その隣にも人がいない。別に学生だった頃に戻っているわけでもない。自分の姿は自分の目にも映っていない。透明に、存在だけで記憶の中にいる。人が入ってくる。担任の教師だ。そうだ。確かこの後……）　#加賀さん観察日記

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<error:0x00000643> <error:0x000003FA> <NO DATA> #加賀さん観察日記

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（風景が変わる。どこかの帰り道だ。この道は知らない。横にいる人間も知らない。でも横にいる人間が、長らく共に過してきた存在というのだけはわかる。でも知らない。覚えてないのか？） 『■■■』 （横の人間に話しかけられる。顔はやはりわからない。女性だ。） #加賀さん観察日記

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『■■■、今日は夕飯何にする？昨日はおでんだったから……』 （女性は鞄を後ろ手に持ち、少し前を歩いている。よく見ると母校の制服だ。気付けば、自分も同じものをきている。忘れていた学生時代の記憶だろうか。でも手に持っている鞄も、靴も、かつて使ってたものではない。） #加賀さん観察日記

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『聞いてる？』 聞いてます。 （意志とは関係なく、言葉が発せられる。勿論、自分の声ではない。恐らく記憶の追体験なのだろう。前を行く女性――恐らく同級生の友人は、長い黒髪を機嫌良く揺らしている） 『ほんと、■■■は何考えてるかわかんないね。ずっと敬語だし』 #加賀さん観察日記

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『ちっちゃい頃から一緒に暮らしてるんだから、そんな他人行儀じゃなくてもいいと思うんだよね』 そうかな。 『そうだよ。私達、血はつながってないけど、ふたりだけの家族』 家族。 『この先ずっと一緒だよ。あ、でも■■■がお嫁にいったら、離れ離れになっちゃうかな』 #加賀さん観察日記

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その時は、●●●も一緒にくればいいと思います。 『ううん、だめだよ。■■■が折角好きになった人なのに、私は邪魔できない』 私は、●●●のこと、好きですよ。 『ありがとう。私も■■■のこと好き。でも、その好きと、これから好きになる人への好きは、違うと思うから』 #加賀さん観察日記

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