座礁艦隊その１

RyoRi （VRVape屋さん） @ryorinovels

<a ground fleet> #座礁艦隊

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ひどく暑い。 #座礁艦隊

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じめじめした日本の暑さが恋しい。湿気がなければいくらかは快適…なんてよく聞くけど、結局慣れ親しんだ環境が一番なのだろう。 ここは砂と岩と色あせた緑と、砂埃と、熱風と…。ともかく、帰りたい。 日本に戻りたい。懐かしの鎮守府に。#座礁艦隊

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初日にして私は早くもホームシックになりかけている。志願しなければよかった。いくら鎮守府の財政が逼迫しているからといって、こんな中東くんだりまで足を伸ばす必要なんてなかった。この国、なんて名前だったっけ。忘れた。アラビア半島の某国に私はいる。 #座礁艦隊

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『トーピード、こちらスペクター。スペクター配置完了。任意に突撃せよ。送れ』 山の上に陣取った監視チームから無線が入る。こちらトーピード。了解。いつでもいいのね？ 『こちらスペクター。初日でいきなりだけど、ま、民間人もいないし。気楽にやろうよ。叢雲ちゃん』 #座礁艦隊

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気楽って。事前準備も不十分に、引っ張ってきた艤装だけで初陣なんていい加減にもほどがあるわあのオッサン。後で酸素魚雷食らわせるわよ。持ってきてないけど。ここは海から離れた地面の上。本来艦娘がいる場所じゃない。 #座礁艦隊

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当然、自慢の魚雷も使えない。魚雷の撃てない駆逐艦なんて肉の無いチンジャオロースじゃないの。水雷担当の妖精さんは全員お留守番。あの子たちの悲痛な表情を忘れることはないだろう。 #座礁艦隊

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『叢雲ちゃん、大丈夫？』 いけない。沈んでた。頭の中に。こちらトーピード。突撃する。あとちゃん付けするな。終わり。 #座礁艦隊

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あらためて地面を蹴たぐる感触に違和感を覚える。人魚じゃあるまいし、平時にはいつも歩行しているはずなのに。それにしても、距離感がかなり近い。高低差のある地形。雑多な木々。岩。遠くまで見渡せない。目的の集落まで一キロを切っているのにまだ見えない。 #座礁艦隊

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何もかもが海原と違う。敵艦に肉薄する駆逐艦の私でさえ近く感じるのだ。重巡洋艦や戦艦がいたらどう思うだろう。そういえばうちの武蔵は 「どこもかしこも狭すぎる」 とよく言ってた。宿舎の三部屋をぶち抜いて一隻で使っているのは正直呆れたが。#座礁艦隊

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土で作られた建物が幾つか見えてきた。テロリストが潜んでいるという廃棄された集落だ。山に囲まれた窪地。集落の右側奥の稜線にスペクターを確認する。初陣ということもあり、あのオッサン…隊長も出張ってきている。名前なんだっけ。まあいいわ。#座礁艦隊

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全砲門、射撃用意。真正面。距離600メートルから接近。撃て。爆音。すぐに着弾、炸裂。散布界が広すぎる。四発のうち一発しか集落に着弾してない。海面を滑走するのとは違う。二足歩行がこんなにぶれるなんて。砲の妖精さんが混乱しているのが伝わる。集落から何人か出てくる。車両も。 #座礁艦隊

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『こちらスペクター。立ち止まって撃つんだ、叢雲ちゃん』 分かってる。足を止め、踏ん張る。前方のテロリストと車載機銃から射撃。500メートルだが半分以上正確に飛来。被弾。次々と火花が散る。だが人間の小火器は輪ゴム鉄砲みたいなもの。私を転倒させることすらできない。#座礁艦隊

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車載の50口径も恐るるに足らない。着衣装甲も破れないが、少々うざったいのであれからやる。連装砲から直接照準。撃て。四発全弾がめいちゅうし、車は爆発四散した。乗員は全員死亡。周りにいた何人かも巻き込まれて倒れる。生き残ったやつらは逃げる、と思いきや、健気にも反撃してきた。#座礁艦隊

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私はゆっくりと前進しながら、手に持った長良型の25mm連装機銃を構える。銃座についた妖精さんが射撃可能の合図。横薙ぎに撃つ。テロリスト達の体がいくつかにちぎれて吹き飛んだ。ちょっと威力が過ぎる。集落敷地内に侵入。 #座礁艦隊

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連装砲を周囲の建物へ向けて撃ちまくる。土でできた家は12.7センチ砲弾一発の炸裂で綺麗に倒壊。ここにはテロリスト以外だれもいない。更地にするつもりでやる。手ごたえがなさ過ぎた。人間を撃ったのは初めてじゃないけど、武装して戦うつもりの奴らでさえこれでは張り合いが #座礁艦隊

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衝撃。視界がひっくり返り、転倒する。左の目と耳が不能。左腕がなくなっており、燃料が噴き出す。左の連装砲が爆発し、ふたたび地面とキス。砂が口に入って、頬に空いた穴からこぼれる。撃たれた方を見る。テロリストが、筒のようなものをこちらに向けている。 #座礁艦隊

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服も敗れた。ありえない。よくも。背を向けて逃げるテロリストへ、連装砲を直射。跡形もなくなる。残りの建物にありったけの砲弾を撃ち込む。大量の土埃が舞う。隠れていたテロリストが山を登って逃げようとしたが、全員予想外の方向から撃ち倒された。スペクターが下っている。 #座礁艦隊

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オッサンが手を振っている。任務が完了したのだろう。そういえば通信機もバラバラになってた。私はその場に座り込んだ。惨めだ。 #座礁艦隊

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この私がドック入りなんて。しかも地上で受けた傷で。悔しい。蛍光色の液体に浸かりながら、ため息を吐く。にしても、このドックえらく狭いわね。それに発電機の音がうるっさい。まったく快適じゃない。私の艤装はどこいったのかしら。 #座礁艦隊

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星が綺麗なのがせめてもの救いか。日本より鮮明な夜空。土嚢に囲まれたテントだらけの粗末な基地だけど、これだけは合格。 「おつかれさん」 オッサンが見舞いに来た。手に何か持っている。 「早速モバイルドックが役に立っちまったなあ。あ、これ晩飯ね」 #座礁艦隊

RyoRi （VRVape屋さん） @ryorinovels

ごめんなさい。初戦で中破してしまったわ。 「最初だしそんなもんさ。任務は成功したし、結果オーライだよ。気にしない」 私をやったのは何？ 「タンデムHEAT弾。しかも最新型の三段式だ。とてつもなく高い弾だからテロリストが持ってるはずは無いんだが、奴ら二発も撃ってたよ」 #座礁艦隊

RyoRi （VRVape屋さん） @ryorinovels

きな臭いわね。 「まあなあ。だが俺たちが気にすることじゃない。俺たちの仕事は、艦娘の陸上戦闘の運用経験を積んで、その有用性を証明することだ。注意すべき武器がひとつ分かったのも、めっけものと言っちゃあなんだが。しかし二発直撃して戦闘を継続できるとはなあ」 #座礁艦隊

RyoRi （VRVape屋さん） @ryorinovels

撃たれた本人を前にしてずいぶんはっきりと物を言うわね。こうしてドックを衝立で囲ってるくせに、アンタは無遠慮に入ってくるし。オッサン、いったいアンタのスタンスはどっちなの？ 「どっちだろうね。自分でも分からんよ。ともかく…」 #座礁艦隊

RyoRi （VRVape屋さん） @ryorinovels

「叢雲ちゃん。独立機動試験小隊へようこそ。貴艦の座礁を歓迎する」 陸軍のでも海軍のでもない敬礼をオッサンはした。 座礁、か。皮肉交じりのその言い方を、なぜか私は好意的に感じた。無事な右手で敬礼を返す。海軍式で。 たった一週間だけど、よろしく。オッサン。 #座礁艦隊