「人形師の偏愛」の話。

"愛"をお題として物語をひとつ考える、というのをやったときのネタメモ。
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市瀬 雫 @xxshizu1xx

ある日、主人公は知らない街で目が覚める。来たことも、見たことすらもない街なのに、どこか懐かしさを感じる。町医者によると、主人公は頭部に強い衝撃を受けたらしく、大切な事が記憶から抜け落ちてしまっていた。

2014-03-17 01:17:35
市瀬 雫 @xxshizu1xx

町は平和そのもので、大きな争いもなく活気溢れていたが、なぜか町人達に生気は感じられなかった。 その中、ひとりの不思議な少女に出会う。町人達は誰もが初めて会った気がしない人達だったが、この少女は一際その空気を纏っていた。

2014-03-17 01:20:50
市瀬 雫 @xxshizu1xx

少女曰く、「この町の人は皆、忘れたことすら忘れてしまった。私にももう、時間がない。"あの人"の力で言えない言葉もあるけれど、伝えられる全ての事を、あなたに伝えます。どうか、"あの人"を、救ってあげて。」

2014-03-17 01:23:05
市瀬 雫 @xxshizu1xx

少女はこの町と、町人達について話し始めた。この町が懐かしく感じるのは、かつて町人全員に繋がりがあったからであり、この町自体、主人公には特に見覚えがあるからだということ。この町の人々は、この町から出ることはできないということ。

2014-03-17 01:26:12
市瀬 雫 @xxshizu1xx

この町の人々は皆、何処かに怪我をして、突然町に現れるということ。町に来てから数日で記憶は無くなること。そして、少女は"あの人"を愛していたこと。同時に、少女は主人公も同様に愛していたこと。そして、主人公の本当の名は、少女と"あの人"とで名付けられたということ。

2014-03-17 01:28:35
市瀬 雫 @xxshizu1xx

ここで主人公は記憶を取り戻す。主人公の父は、天才人形師。母は病気がちだが、優しく穏やかな母で、とても幸せな家庭であった。母が病に伏すまでは。

2014-03-17 01:29:44
市瀬 雫 @xxshizu1xx

原因不明の不治の病に伏した母の、日に日にやつれていく姿に、父はどんどん心を病んでいった。愛する妻を亡くすことへの恐怖と、母を亡くした我が子のことを考えると、とても耐えることはできなかった。

2014-03-17 01:31:22
市瀬 雫 @xxshizu1xx

ある日、父の精神は限界に達した。「死が怖いのなら、死のない世界に行けばいい。」そうして生まれたのが、今主人公のいる"人形の町"だった。 余命僅かな妻をその手で殺し、魂をかつての妻に模した人形に込めたのだ。

2014-03-17 01:33:15
市瀬 雫 @xxshizu1xx

その後、妻をひとりにさせるのはどうなのか、せめてもう一人、話し相手を作ってやりたいと考え、妻と仲の良かった親戚を殺し、同様に魂を人形に込めた。父は次々に親戚を殺し、人形に魂を込め、彼らを住まわせる為の大きなドールハウス"人形の町"を作り上げた。

2014-03-17 01:44:57
市瀬 雫 @xxshizu1xx

不思議な少女は元々、主人公の母だった。彼女の愛した"あの人"は、主人公の父だった。主人公は、実の父に撲殺され、魂を人形に込められていたのだった。全てを思い出した主人公は、母だったその少女を見た。姿は変われど、優しい笑みは、主人公の記憶にある母の笑顔そのものだった。

2014-03-17 01:56:26
市瀬 雫 @xxshizu1xx

「思い出したのね…ごめんね。思い出したくもないような、つらい記憶だったよね。それでもあなたには、あなたにだけは、真実を伝えておきたかった。」そういう母に、主人公はこう言った。

2014-03-17 02:00:32
市瀬 雫 @xxshizu1xx

「真実は時に、嘘より残酷だってこと、僕は知ってるよ。それでも真実を知る事ができて、僕は嬉しい。」母は涙ながらに微笑み、僕の頬を撫で、「…ありがとう。これで、心置き無くあなたの名前を呼ぶことができるわ。あなたの本当の名前はーー」

2014-03-17 02:03:17
市瀬 雫 @xxshizu1xx

突然動きを止める母。呼び掛けても、まるで主人公なんか見えていないみたいに、ただひたすら遠くを見ていた。しばらくの後、主人公の頬を撫でていた手を下ろし、母は口を開く。「こんにちは、初めまして。私は○○。あなたはだあれ?」

2014-03-17 02:05:48
市瀬 雫 @xxshizu1xx

目の前にいる少女は、もう母ではなくなっていた。この町に住む、ひとりの少女だった。主人公がいくら名前を呼び掛けても、もう主人公のよく知る母はどこにもいなかった。ただ一つ、笑顔を除いて。

2014-03-17 02:09:12
市瀬 雫 @xxshizu1xx

悲しみに打ちひしがれ、何をするでもなく、数日が経過した。ある日、主人公の前に、一人の男が姿を現した。主人公は目を見開いた。その男の元へ駆け寄った。しかし、男まで数mの所で主人公は足を止め、しばしの間固まり、そして、他の町人と同じように、日常へと戻って行った。

2014-03-17 02:17:16
市瀬 雫 @xxshizu1xx

その男は、父だった。 親戚を殺し尽くし、最後に自分を模した人形を作り、自分の魂を人形に込めた。最愛の妻に再び会う為に。 しかし、少女はもはやただの少女であり、かつて愛した夫のことなど、まるで覚えてなどいなかった。

2014-03-17 02:19:59
市瀬 雫 @xxshizu1xx

「死のない世界」を求めて作り上げたこの町に、死という概念は存在しない。いくら絶望しようとも、死ぬことはできない。そういう世界を作り上げたのは、他でもない自分だ。とうに狂っていた父の精神は、崩壊した。

2014-03-17 02:22:32
市瀬 雫 @xxshizu1xx

今もなお、どこかでひっそりと動き続けている、生も死もない人形の町。もしかすると、街中で見かけた人形は、その内のひとつなのかもしれない。

2014-03-17 02:25:37
市瀬 雫 @xxshizu1xx

登場人物の名前は決めてませんが、記憶喪失の主人公の仮の呼称は「ユウ」でした。youってだけの安直な呼称ですが。 主人公はユウですが、この話を考えるにあたって出されたお題は「愛」でした。母から子への愛、父の妻への偏愛、書かなかったけど、主人公から少女への愛もありました。

2014-03-17 02:32:22
市瀬 雫 @xxshizu1xx

母が主人公に対して「心置き無くあなたの名前を呼べる」と言ったのは、母として、我が子の名前を呼びたかったからです。自己満足の為に子に真実を伝えるのだから、主人公も大変だったんだろうなぁ。

2014-03-17 02:34:52