地下鉄の少女#2

キノコ工場に勤める一人の青年。彼は通勤の地下鉄でいつも出会う少女に好奇心を膨らませていた。彼女は青年が乗る地下鉄には必ず乗っており、数個前の駅でいつも降りるのであった。しかしその駅は存在しない駅だった…? twitter小説アカウント @decay_world で公開したファンタジー小説です。この話は#4まで続きます
減衰世界
rikumo 627view 1コメント
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  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-20 14:20:59
     カフェの中でもどかしく時間を過ごすと、やがていつもの出勤時間となった。日はすでに高く昇り、帝都の灰色の空を薄く照らしている。街並みは霧のようなボンヤリとした靄に沈んでいた。 30
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-20 14:30:15
     地下鉄に乗るため階段を降り地下へと潜っていく。彼の最寄り駅コンパス東通りは古い駅だ。駅の内装にセラミックは使われておらず、赤レンガとクリーム色の漆喰で壁が作られている。天井は鉄骨がむき出しでケーブルがいくつも這っていた。 31
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-20 14:36:08
     ゴーッと急行列車が闇を駆け抜けていった。この駅はまるで廃坑だ。ボロボロのマントやスーツを着た労働者が幾人も行き交っている。風化したコンクリートでできたホームは小さく、端から端まで見渡せる。 32
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-20 14:46:10
     カラカはホームをゆっくりと見渡した。少女の姿は無い。最初から乗っているのだろうか、後から乗ってくるのか分からないが、少なくともこの駅で乗ることは無いようだ。ホームの中はびゅうびゅうと風が吹き、緑のシャツ一枚の彼はだいぶ寒い思いをした。 33
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-20 14:51:05
     まるでつきまとい行為のようであったが、仕方がない。自分の好奇心故の行動だ。カラカはそう自分に言い聞かせていた。少女の迷惑にならないようにすればいい。そう思うと、今の薄いシャツとズボンだけの姿が少し恥ずかしい格好に見えた。 34
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-20 14:58:19
     遠くから見るだけにせよ、女性と会うには少しみすぼらしい格好だったかな、と彼は頭をかいた。作業着の他はろくな私服も持ってはいない。同じようなシャツ、地味な色をしたズボンばかりだ。もちろんノーブランドである。 35
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-20 15:07:30
     お見合いするわけでもあるまいし! 彼はそう自分に言い聞かせて、地下鉄を待った。やがて独特なイントネーションで列車の到来がアナウンスされる。ゴーッと大きな空気の音がし、ゆっくりと闇の中から列車が現れた。 36
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-20 15:12:41
     薄暗い、小汚いホームとは対照的に、地下鉄は銀色のピカピカした金属製で窓から眩しいほどの明かりが見える。カラカは他の乗客に押され押しつつ列車の中へ入っていった。小さいホームは混んでいるが、列車に入れば広く余裕があった。 37
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-20 15:19:23
     少女はいるだろうか。彼は列車の中を見渡す。だが、彼は少女の姿を見つけることはできなかった。 38
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-21 21:50:13
     カラカは奇妙に映らない程度にゆっくりと列車の中を見回し続ける。毎日の通勤では少女を見つけるのにはそんなに時間を必要としなかった。それどころか、目を逸らそうとしてもいつの間にか視界の隅に割り込んでくるのだ。 39
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-21 21:54:11
     今日に限って少女の姿が全くと言って見つからない。いや、列車に乗ってすぐに見つかるという話でもない。それは彼にも分かっていた。彼女はいつの間にか列車に乗っていて、彼の興味と視線を釘づけにしたまま、歯車三丁目で下車するのだ。 40
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-21 21:58:55
     カラカは駅で買った朝刊を広げた。彼女が見つからないならば、待つだけだ。しかし今日は新聞の端から覗く光景が……人の流れが気になって新聞の内容も最新のニュースも全く頭に入らなかった。 41
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-21 22:08:14
     この地下鉄の路線に乗る乗客は薄汚れた労働者が大半だった。それもそのはずである、この地下鉄は帝都の端、住宅街と工場地帯を結ぶだけの路線で、繁華街や商店街等には向かうことは無い。華奢な少女などが乗り込めば、周囲から浮いてすぐ分かるだろう。 42
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-21 22:15:07
     駅が次々と闇の中から現れては、同じく闇の中へと消えていく。もうすぐ歯車街だ。しかし、一向に少女の姿を見つけることはできなかった。少女はいつも彼の出勤に合わせて現れて、彼の日常に華を添えていた。 43
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-21 22:22:07
     だがどういうことだろう、彼女の行く先が分かりそうな非番の日に限って、彼女の姿を見つけることができないのだ。通常ならば出勤しているはずの時間であり、同じ列車である。偶然にも彼女もまた休みになったのだろうか。 44
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-21 22:30:21
     彼女には彼女の生活があり、偶然そういうこともあるだろう。彼はそう結論付けて新聞を畳んだ。そして腕を組んで目を閉じる。彼はもう彼女の存在を気にしないことにした。彼女がいようといまいと関係ない。 45
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-21 22:36:39
     カラカの目的は歯車三丁目がどんな町か、それを知るだけなのだ。少女につきまといたいわけではない。そう考えて彼はアナウンスに耳を澄ました。丁度歯車二丁目を過ぎたところである。そろそろ歯車三丁目の駅が近いはずだ……そう思っていた。 46
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-21 22:47:42
     しかし彼の予想は奇妙にも裏切られた。「次は赤螺子一丁目ー! 赤螺子一丁目!」 そう独特のイントネーションで告げられたのだ。赤螺子一丁目は歯車三丁目の次のはずである。これは一体……!  47
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-22 18:14:51
     カラカは思わず立ち上がって地下鉄の窓から外を見た。光に包まれた駅が闇の中から姿を現す。それは見知った歯車三丁目の駅ではなく、綺麗で近代的な赤螺子一丁目の駅だった。列車はスピードを落として奇妙なイントネーションのアナウンスは繰り返される。 48
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-22 18:21:06
    「どういうことだ……見過ごしてしまったのか」 彼は一人呟き、呆然と立ち尽くす。とりあえずこの駅で降りることにした。この先に行っても意味は無い。列車は完全に停車し、レールと車輪が軋みをあげて甲高い金属音を響かせた。 49
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-22 18:26:19
     赤螺子一丁目のホームは記憶にある歯車三丁目のものと違ってかなり新しいものだ。ホームのコンクリートは新しく密度はきめ細かい。壁はセラミックのタイルで補強されており、桃色に塗装されている。看板やベンチなども新しく塗装のはげ等は無い。 50
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-22 18:36:52
     乗り過ごしたとしたならば、返す電車に乗って歯車三丁目で降りよう。彼はそう思って一度駅で降りて歯車三丁目までの切符を買うことにした。だが、運賃表に歯車三丁目の文字は無い……不安が強くなる。結局歯車二丁目の切符を買う。今は朝の時間帯で、次の列車はすぐに現れた。 51
  • 減衰世界 @decay_world 2014-04-22 18:41:48
     列車に乗り、歯車三丁目を目指すことにする。だが、列車のアナウンスが告げたのは……歯車三丁目ではなく歯車二丁目だったのだ。彼はシートに座ったまま衝撃で動けなくなってしまった。自分がいままで目にしていた駅が……無くなっているのだ! 52

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