Ken Keen Chronos「スターゲイツ」

―歴史(トキ)を疾走(カケ)る仕事がある― タイムトラベル実用化に至った2040年、度重なる時空犯罪に立ち向かう民間時空警察会社キーン・クロノス社員、洋水硯~ヒロミ・ケン~の苦闘を直視するツイッター小説! 「第一話」http://togetter.com/li/653561 「夢幻の新人民革命」http://togetter.com/li/654182
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Ken Keen Chronos @kkc_official

    1 8 6 2 年 米 国 ・ バ ー ジ ニ ア 州

2014-05-01 18:37:38
Ken Keen Chronos @kkc_official

月の光が夜の森を照らす。僅かに差し込む明かりは馬に乗った男たちを微かに映し出す。男たちは皆が暗いネイビーブルーの軍服を着ているので、この暗い空間に丁度いい具合に溶けこむことができた。フクロウが鳴くバージニアの人知れぬ森。ここは新大陸を二つに割った大戦争の最前線・・・。

2014-05-01 18:37:48
Ken Keen Chronos @kkc_official

男たちはおそらく北軍の騎兵隊の斥候なのだろう。たったの五人五頭のみで連なり、声も出さず蹄の音もなるべく抑え、緊迫の眼で静かに回りを見渡しながら路を進む。斥候隊の最後尾を務める男の顔は特に緊迫していた。逆に最前部を務める男の顔はこういう仕事を手慣れているかのように余裕に満ちていた。

2014-05-01 18:37:58
Ken Keen Chronos @kkc_official

怯えた目つきをギョロギョロさせる斥候のケツの面構えは若いというより幼さも感じさせた。口ひげを一人前に生やしているにもかかわらずだ。それなのにその男の両肩には大尉の階級章が不釣合いに付いている。若い大尉が着るは上等そうなフロックコートと合衆国陸軍騎兵の象徴である黒いカウボーイハット

2014-05-01 18:38:08
Ken Keen Chronos @kkc_official

一方、斥候の殿を務めるのはほうれい線と無精髭が目立つ古参の伍長で、彼の着る簡素かつ土埃に汚れた詰襟軍服・ボロボロの潰れケピ帽・垢の付くスカーフはまさに戦場における信頼の証だった。少なくともこの男に付いて行けばある程度は大丈夫なはずだ。ある程度は。

2014-05-01 18:38:16
Ken Keen Chronos @kkc_official

最前部の男が拳を小さく上げる。“止まれ”の合図だ。馬の歩み寄りは一挙にストップし、それまで後ろにいた男が伍長に駆け寄る。「どうした。タウンゼント」「大尉、何か匂いまっせ」大尉は森の道の先を双眼鏡で見渡す。「何も見えんぞ」「いやあ、長年の勘がうずくんです。何かありますよコレ」

2014-05-01 18:38:25
Ken Keen Chronos @kkc_official

「何言ってんだお前」大尉はため息を吐き、斥候隊の一人に声をかける。「リンド!タウンゼントと一緒に前方の偵察に向かえ!」こうして二人の騎兵が夜道を駆けてゆくこととなった。「何があるってんだよ全く。なあエレクトラ」大尉は愛馬にこう話しかける。その馬も見るからに毛並みがよく上質そうだ。

2014-05-01 18:38:33
Ken Keen Chronos @kkc_official

基本的に20世紀の第二次世界大戦までにおいて、大抵の将校というものは頭から爪先まで自腹で装備品を買い揃える。よって軍服が上質になればなるほどその将校の財力を反映する。馬となれば尚更だ。軍人の損耗率が高いこの南北戦争においてでもこの若者に大尉の地位は馬と同様不釣り合いだ。

2014-05-01 18:38:41
Ken Keen Chronos @kkc_official

おそらく、この大尉は連邦議員といった有力者の子息なのだろう。「十分気をつけとけよ!」と二人の部下に声をかける大尉。「あなたがチン毛生やす前から警戒任務は俺たちの十八番ですよ!」と応える伍長。「ケッ、ホザけよ」。漏らす大尉とつぶらな瞳でこのやりとりを眺めるエレクトラ号。

2014-05-01 18:38:49
Ken Keen Chronos @kkc_official

二騎は道を真っ直ぐ駆けてゆく。もうそろそろ双眼鏡で見ないとコイツラも視界から消えそうだと大尉は感じた。と、次の瞬間!「ヌババババァーッ!!」タウンゼント伍長と彼の愛馬が突如人肉馬肉のユッケと化した!片方のもう一騎は反射的にUターンして全速力で戻ってくる!

2014-05-01 18:38:59
Ken Keen Chronos @kkc_official

しかし超ハイレートの曳光弾幕は容赦なく逃げる彼にすぐ追いつく!「ヌババババァーッ!!」片割れ騎兵と彼の愛馬も無慈悲に人肉馬肉のタルタルステーキと化した!「逃げろぉーッ!!撤退だァーッ!!行け!行け!!」この突如の惨劇を観た大尉は反射的に撤収命令!

2014-05-01 18:39:08
Ken Keen Chronos @kkc_official

三騎は全力で逃げる逃げる!駆ける駆ける!この時代における死の代名詞とも言えるガトリング銃にしてはあまりに発射レートが高速すぎるし、そもそも運搬にやたら手が掛かる高級装備である以上、人知れずこの森の中において置けるのはおかしい!何らかの陣地の痕があって然るべきだ!

2014-05-01 18:39:14
Ken Keen Chronos @kkc_official

こういう場面においては手の掛かった高級馬と官給品の駄馬では差が無慈悲かつ如実に現れる!三騎のうち、いつの間にか大尉が残り二人の兵士を差し置いて先頭を走っていた。エレクトラ号の名馬たる所以!「お前たち!俺より先に行けよオイ!殺られちまうぞ!」「もうコレが限界です!大尉!!」

2014-05-01 18:39:22
Ken Keen Chronos @kkc_official

そして、一番後ろを走っていた騎兵が弾幕の餌食となった。「ヌババババァーッ!!」「ピーターズッ!!!」まもなくもう一人の騎兵まで不運に馬が転倒!そしてキョフテにされる!「ヌババババァーッ!!」「ハリソォーンッ!!!」もはや残されたのは大尉とエレクトラ号だけ!!

2014-05-01 18:39:30
Ken Keen Chronos @kkc_official

エレクトラ号は駆ける駆ける!一生分の力を使い果たす勢いで逃げる逃げる!この無慈悲機関銃弾幕とのデスレースの結末やいかに!?二人の騎兵の死から第三者観点で15秒ほど経つと、何故ここまで追跡できるのか一切理解不能の弾幕は突如途切れた。大尉と愛馬はデスレースに勝利した・・・!

2014-05-01 18:39:39
Ken Keen Chronos @kkc_official

デスレースを終えたエレクトラ号は駆けるのを止め、「ヒィ~ンッ」と哀しげな鳴き声を発し、停止した。「どうした。エレクトラ。どうした。オイ」何事か確かめるため、大尉は鞍から降りた。その途端、愛馬はバタッと倒れた。エレクトラ号の尻を見た馬の主は絶句。大きな弾痕の穴が開いていた。

2014-05-01 18:39:49
Ken Keen Chronos @kkc_official

「お、おいエレクトラ・・・エレクトラ・・・エレクトラァーツ!」弾痕から滝のように血が溢れ出る!この馬は致命傷を受けながらも主を守るべく疾走していたのだ!古代神話めいた超越世界とハチ公めいた忠臣ぶりが両立!しかしもうこの馬は助からない。倒れた時にはもう息を引き取っていた・・・

2014-05-01 18:39:57
Ken Keen Chronos @kkc_official

愛馬を失った悲しみと、歴戦の部下や愛馬を死なせておきながら若輩の指揮官である自分だけのうのうと生き残るという不名誉の双方が大尉に襲いかかり、彼の顔は情けない泣き面と化していた。「うぉぉエレクトラエレクトラ」愛馬の名を口にしながら、この泣き男は放心しトボトボ歩き出していた・・・。

2014-05-01 18:40:05
Ken Keen Chronos @kkc_official

洋水硯(ヒロミ・ケン)の住まいは立川にある。正確に言えば昭和記念公園の近くにあり、非常にエコロジカル的。どちらともそろそろ還暦に近づきつつある両親と一緒に暮らしている。

2014-05-01 18:40:20
Ken Keen Chronos @kkc_official

ケンは両親とともに昼食を取っていた。ケンパパはケンに先日の仕事の話をまたも訊き出していた。「ケン。お前中国でどんな仕事してたワケ?」「またその話かよぉ。三回で充分だよぉ」ウンザリ気味のケン。「自分の親父を半殺しにしてやったバカを懲らしめてやった。それ以上は企業秘密」

2014-05-01 18:40:28
Ken Keen Chronos @kkc_official

「ケンは今度アメリカに出張なんでしょ?ホント、テンヤワンヤよねー」とケンママ。「せっかくだし、成田まで送ろうかしらー?」「いいよ母さん。同僚のリッキーってヤツいるじゃん?上野でリッキーと合流してそれから成田行くんだ」「上野ぉ?ちょうど今花見の時期じゃない」「そうだね」

2014-05-01 18:40:37
Ken Keen Chronos @kkc_official

両親との会話からおよそ一時間後、ケンは上野公園を歩いていた。普段の上野公園は大都市の公園らしく憩いの場であるが、桜が咲く時期だけは花見で人混みへと一変する。この薄い桃色をした尊い花の大宇宙を観ながらどんちゃん騒ぎすべく路上を占拠する人間で大盛況だ。

2014-05-01 18:40:45
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