全ては遠い昔になりました。私は戦いに疲れ、ここに来ています。深海棲艦の墓場。戦いの末に深海棲艦がたどり着く最後の場所。ここでは言葉を交わす物はいません。
2014-05-13 07:57:33静かに私の体は沈み始めました。ああ、日差しが暖かい。戦いで沈んでいった仲間たちの最後はこんなものではなかったはずです。気分も沈みましたが、それも今日で終わりです。
2014-05-13 08:00:02私こそが深海棲艦だったと気付いたのは、最近の事です。黒ずんだ鉄の肌、まがまがしい艤装、凍てつくような視線、残忍なふるまい。まさに私たちが倒さなければならないと誓った存在でした。
2014-05-13 08:07:30そんなことをぼんやり考えながら、海中に沈みました。私がしたことは間違いだったのだろうか。どんどん海底へ。わからない。私はもう眠いよ。…………
2014-05-13 08:18:10次に目覚めたときに、私は鉄の塊になっていました。目ももうありませんが、回りの様子はわかりました。とても静かな海底です。少しして、私の回りに小さな光が集まってきました。妖精です。かつて艦娘だった頃を思い出しました。深海棲艦に妖精は宿りません。
2014-05-13 08:25:22光の粒が問いかけます。あなたは誰かを恨んでいますか?恨んでいません。きっとなるべくしてなった事です。あなたは自分のしたことを悔やんでいますか?生まれて来たことを悔やんでいます。そう、この鉄塊のまま、ずっと。それでいい。
2014-05-13 08:35:39そうですか。あなたは深海棲艦に生まれ変わる事はありません。そうでなければ私たちが近づく事はできませんでした。海底に沈んだ私たちは、あなたたちに着いていく事でしか地上へ戻れません。私の前のご主人様は、深海棲艦になって去っていきました。私を置いて。
2014-05-13 08:44:46それは寂しかったでしょう。私と話し相手になってくれませんか?海底は退屈そうですね。次に上に戻るのがいつかはわかりませんが、一緒に待ちましょう。私はこれまでの全てを妖精に話しました。時間はたっぷりありました。
2014-05-13 08:55:09思えば、こんなに長く誰かと話したのはいつ以来でしょう。おぼろ気ながら思い出しました。きっと艦娘だった頃、艦隊の皆と夜通し話し通した時以来でした。もし1つだけお願いが叶うなら、会いたいなあ。彼女たちは、海底に沈んだ後、どうなったのでしょうか。
2014-05-13 09:18:53潜水艦の艦娘が上の方を通りました。おーい、おーい。声なき声は届きません。深海棲艦の艦隊が海面を覆い尽くしました。気づかれないように、声を立てないように。海底には他になにもありませんでしたが、話し相手がいたので不思議と寂しくありませんでした。
2014-05-13 18:59:20ある日、海面の方で魚雷と砲撃の音が一日中響きました。辺りに深海棲艦の残骸が散らばりました。艦娘の艦隊が勝利したようです。次の日、海底を散策していた潜水艦の艦娘が私を見つけました。久しぶりに日の光を浴びました。
2014-05-13 19:18:54私は鋼材として艤装の製造に使用され、旧式の爆撃機になりました。操縦するのは、海底で出会った妖精です。私の戦場は空になりました。空から見れば、艦娘も深海棲艦も豆粒のようです。
2014-05-13 19:40:26私たちを使うのは、第一艦隊の正規空母でした。私は旧式でしたか、この付近の海域を知り尽くしていたので、危険を察知してうまく立ち回りました。その結果、幸運の艦載機と呼ばれ、重宝されました。
2014-05-13 20:21:47ある晩、私たちを使う空母が聞いてきました。あなたと出撃した戦いは本当に勝利ばかりです。幸運の女神でもついてるんでしょうか?…そんな綺麗なものじゃありません。私は喋れませんが、妖精に頼んで伝えてもらいました。私がかつて艦娘だった、かつて深海棲艦の首領だった、成れの果てであることを。
2014-05-13 20:32:15