マグロ・サンダーボルト #5
だが…手応え無し!敵は加速すると読んだウィンドブラストは、甘かった。死神は確かに加速した。だがその瞬発力は、彼の想像を超えるスピードを生み出したのだ。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはカラテを振り絞り、スプリント回避!超自然の突風が彼のワン・インチ背後を吹き抜ける。紙一重! 22
2014-05-27 21:56:20だがウィンドブラストには二段構えの作戦があった。敵のいた場所をトビゲリ通過した彼は、着地から勢いを殺さず、そのままハイウェイを時速100キロで斜めにスプリント!道路端の防音フェンスを蹴り、ピンボールめいた角度で跳ね返ると、再びブラスト・トビゲリを撃ったのだ!「イヤーッ!」 23
2014-05-27 22:01:28「イヤーッ!」だが再びニンジャスレイヤーが読み勝つ。極限状態の心理戦を何度も潜り抜けてきたネオサイタマの死神は、次は急減速でこれを回避したのだ!それでも超自然の風圧により僅かによろめくニンジャスレイヤー。ナムサン!直撃していれば間違いなく転倒し、爆発死していたであろう。 24
2014-05-27 22:04:33だが時速計は…果たして大丈夫なのか!?いま彼の胸の赤色LEDは、辛うじて100キロを表示していた。急加速によって稼いだ速度が平均化され、60キロ台の急減速を可能にしたのだ!「イヤーッ!」ウィンドブラストは前転着地。隣の車線を100キロで並走し、一か八かのカラテを挑みかかる! 25
2014-05-27 22:08:51「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」二者は下半身をマラソン・スタイルで固定したまま上半身だけを横に捻り、二脚歩行戦車の戦闘めいて凄まじいカラテ応酬を開始した!高速戦闘を得意とするウィンドブラストは、一歩も退かぬ!「死ね!ニンジャスレイヤー=サン!死ね!」 26
2014-05-27 22:13:03その頃ナンシーを乗せたトレーラーは、ニンジャスレイヤーと合流すべくパンキチ・ハイウェイをひた走っていた。「お願い、応答して……!ここで合流に失敗したらもうチャンスは無いの……!」コンテナ内、最高級ルームランナーの横でIRCを睨みながら、合流地点までのカウントダウンを行う。 27
2014-05-27 22:17:30「まだIRC応答はないのか?」運転席からバリトンボイスの通信音声。運転手のデッドムーンだ。「無いわ」ナンシーが答える。「敵と交戦中なのかもしれない。このコンテナはもちろん、IRC端末での連絡すら、悟られてはならないのよ。この作戦が露見したら……即座に遠隔爆破を起動されるわ」 28
2014-05-27 22:20:30一方、サムライヘルム・オブ・デス・ヤクザクランの事務所では、全員が表情を凍りつかせていた。アマクダリからのIRC通信が入ったからだ。「あと少し…あと少しというところで!」「ウェイダ=サン、どうすンですか」「…一度無視だ。ウィンドブラストにゃ知らせるな。あいつの勝利に賭ける!」29
2014-05-27 22:26:45「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」二人のニンジャは、連続カラテパンチと、円を描くようなジュー・ジツ受け流しを駆使し戦う。だがワザマエは死神が格段に上である。「イヤーッ!」不利と見たウィンドブラストは横から肩をぶつけ、形振り構わぬ走行妨害チャージに出た! 30
2014-05-27 22:31:29「ヌゥーッ……」ニンジャスレイヤーがよろめく。胸のLEDモニタの数字が減り、死のカウントダウンを開始する。彼は両脚にカラテを注ぎ込んで辛くも復帰し、ウィンドブラストに対して勢いよく肩をぶつけた。危険行為だ!「イヤーッ!」「グワーッ!」中央分離帯側によろめくウィンドブラスト! 31
2014-05-27 22:36:18「殺れ!死神を殺せ!転倒させろ!あと少しだ!」ウェイダはサイバネ拳を握り、己の側近へモニタ越しに檄を飛ばした。そこへ無情にも、アマクダリからの緊急IRC着信。もはや無視はできぬ。グレーターヤクザ全員が固唾を呑み、ウェイダの顔を見た。彼は覚悟を決め、銀色卓上マイクの前に座る。 32
2014-05-27 22:40:27不気味なBEEP音とともに、大型モニタにアマクダリ紋が映し出される。その向こうにいるのは、首魁ラオモト・チバだ。ソウカイヤを牛耳っていたラオモト家の世継だ。ウェイダはちらちらと隣のハイウェイ戦闘映像を見ながら、汗を拭った。「ドーモ、ウェイダ=サン」「ドーモ、ラオモト=サン」 33
2014-05-27 22:44:45しばしの沈黙。かつてソウカイヤ傘下にあったウェイダのクランは、今はアマクダリ傘下として上納金を納めてはいるが、自治権を許され、監視ニンジャも派遣される事なくヤクザビジネスを営んできた。だが実際は、電脳麻薬販売など、本来は上に許可を取るべきダーティな案件を多数抱えているのだ。 34
2014-05-27 22:50:17「ウェイダ=サン、僕に何か報告すべき事があるんじゃないのか?」穏やかな、しかしそ威圧的なチバの声。父親譲りの酷薄さを感じ、ウェイダは舌上と喉の奥が一瞬にしてサハラ砂漠のように乾いた。実際はサイバネ化により失われた残響感覚である。「ハイ、スミマセン」ウェイダは咳払いした。 35
2014-05-27 22:55:12「死神の事ですな」ウェイダが言う。「そうだ。奴が3つのディストリクトを移動し、ハイウェイを走行中との情報が入った。どこかのニンジャと交戦しながらな」「そうです、坊ちゃん。あの野郎は……ニンジャスレイヤー=サンは、最早死んだも同然!」会話のペースを掴むべく打って出るウェイダ。 36
2014-05-27 23:02:10「死んだも同然?どういう意味だ」チバが問う。ウェイダはクランの痛くない腹を探られぬよう誠意をもって答えた。死神は死のマラソン爆弾により、マグロめいて走り続けねばならぬ事。その位置やバイタル情報を掴んでいる事。手勢が妨害にあたっている事。報告の余裕がなかった事(これは嘘だ)。 37
2014-05-27 23:09:25チバは事態の把握にやや時間を要した。「つまり、お前たちはニンジャスレイヤーを爆殺できる……?」「ハイ、その通……」ウェイダはちらりと戦闘画面モニタを見て顔をしかめ、サイバネ拳を震わせた。『イヤーッ!』『グワーッ!』死神のキドニーブローがウィンドブラストの背中に命中したのだ! 38
2014-05-27 23:15:20「どうした、何か不都合な事でもあるか?」チバは眉根を寄せる。戦闘映像内でウィンドブラストが反撃のカラテパンチを死神に命中させたのを認めると、ウェイダは重い安堵の息を吐いてから報告した。「滅相もない!ただ、ウチの大切なニンジャがしくじりかけたもんで……ただ、それだけです!」 39
2014-05-27 23:20:34「成る程、そうか……成る程……」チバは司令椅子で葉巻を吹かしながら、ウェイダから送られてきた死のマラソン中継映像を見やり、コマンドグンバイで顔を扇いだ。「その爆弾は、確実に奴を殺せるんだろうな?」「過剰量のプラスチック・バクチクです。重サイバネ野郎でも確実にアノヨ行きです」 40
2014-05-27 23:26:56「ムッハッハッハ……」チバは暴君めいて笑う。「ムハハハハハハ!でかしたぞ、ウェイダ=サン!良くやった!奴はマグロめいて死ぬのか!」「坊ちゃん、アマクダリに貢献でき、光栄の極みです」ウェイダは汗を拭う。「奴が苦しみ、絶望の中で死んでゆく様を、そこからゆっくりとご堪能ください」 41
2014-05-27 23:34:08「……だが、もう余興は十分だ。お前のニンジャが押されているのだろう?ウェイダ=サン、即座に爆破装置を起動しろ。殺せるうちに殺せ。それが僕が奴との戦いから学んだ教訓だ」チバが葉巻を揉み消しながら言った。ニンジャスレイヤー爆殺の瞬間を待ちわび、愉悦に身震いしながら。 42
2014-05-27 23:38:01「いえ、それが」ウェイダは言葉を濁した。死神はまだカラテを続けている。「それが、どうした?ウェイダ=サン」チバはそうした機微を見逃さない。己を裏切ろうとする者や計略に陥れようとする敵意に対し、彼は人一倍敏感なのだ。「遠隔爆破の機能は、備わっていないんです」ウェイダが答えた。 43
2014-05-27 23:43:09「備わっていない?ハッキングでも受けて故障したとでも?」何か臭うな。チバは椅子から身を乗り出し、氷のように冷たい目でモニタを睨んだ。「いえ、ハッキングに対しては完璧な防衛体勢を敷いていますが…」「そもそも何故、こんな装置を取り付けた?取り付ける余裕があるなら、殺せたろう?」 44
2014-05-27 23:46:37ウェイダは唸るような深い呼吸を行った。(((流石はラオモト=サンの息子だ、下手なゴマカシは通じねえ……腹を割るしかねえ)))少しでも対応を誤り不信感を与えれば、たとえニンジャスレイヤー爆殺に成功しようとも、彼のヤクザクランはアマクダリに隷属させられオナーと自由と失うだろう。 45
2014-05-27 23:50:18「ドーモ、スミマセン。これは全て、ニンジャスレイヤーへの憎悪と、キンボシ独占に目がくらんだ、この老いぼれイシイ・ウェイダの責任」彼はドゲザした。事務所の全員が恐れ入った。ウィンドブラストが死闘を続けているのと同様、彼もプライドを捨て、クランを守るべく死力を尽くしているのだ。 46
2014-05-27 23:55:45