アンダー・ザ・ブラック・サン #2

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「邪推だ!」ディプロマットは遮った。「お前は自分がユカノ=サンに下劣な想いを抱いているから、俺の事をそうやって決めつけるだけだ。幼稚なんだ、お前は!」「兄貴づらしやがって。今更思慮深く振舞おうッたって、鼻の下を延ばしたさっきのザマはしっかり見てるんだぞ。ニンジャのみわざ……」23

2014-06-12 23:03:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「貴様」ディプロマットは怒りに顔を紅潮させた。アンバサダーはせせら笑った。「アトモスフィアに任せて、ポエットな求愛ハイクでも詠みかねない勢いだったろ。……いや、ダメか」アンバサダーは真顔になる。残忍な一撃の予備動作めいて。「ずっと庵に閉じこもってた奴に、そんな甲斐性は無いか」24

2014-06-12 23:09:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

次の瞬間、ディプロマットの拳がアンバサダーの頬に叩き込まれた。アンバサダーはうつ伏せに倒れ込んだ。「俺……」ディプロマットは固めた拳を震わせた。「俺はなァ」起き上がろうとするアンバサダーに掴みかかる!ナムサン!「俺だってなァ!」「兄貴ぶりやがって!俺はいつも……」「畜生ッ!」25

2014-06-12 23:15:08
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双子は獣じみてテラスの床を転がり、互いを殴りつけた。それはもはやカラテですらない掴み合いだった。罵倒は言葉にならず、怒りの唸りと叫びにかわった。ユカノは顔をしかめ、長い息を吐き、髪をかきあげ、腕組みした。そして言った。「ソコマデ!」 26

2014-06-12 23:19:49
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凛としたユカノの静止が夜気を震わせた。双子は呆気にとられた。それからふたたび睨み合い、殴り合いを再開しようとした。「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」ユカノはアンバサダーに、ディプロマットに、ケリ・キックを叩き込んだ。双子はそれぞれ別方向に倒れ込んだ。27

2014-06-12 23:28:20
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「正座なさい!」ユカノが苛立たしげに言った。アンバサダーは鼻血を拭って身を起こし、ユカノに何か言おうとした。「正座なさい!」ユカノは繰り返した。彼は逆らわなかった。ディプロマットも言う通りにした。「黙って見ていれば、なんと幼稚な」ユカノは二人の前を行ったり来たりした。28

2014-06-12 23:32:50
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「貴方がたの諍いの原因は何です」ディプロマットとアンバサダーは顔を見合わせた。やがてアンバサダーが言った。「ユカノ=サンに関して、お互い牽制しあうものが」「私のせいだと言いたいのですか」ユカノはアンバサダーを睨んだ。「互いに身勝手に争っておいて、その責任を私に帰するのですか」29

2014-06-12 23:51:37
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「そのようなつもりは決して」ディプロマットが身をよじった。「少なくとも私は」「俺もありません。本当です」アンバサダーがディプロマットを遮った。「……とても不快です」ユカノは言った。「私達は旅の仲間です。お互いを尊重し、目的に向かう。貴方がたは私を個人として尊重していますか?」30

2014-06-13 00:06:37
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双子は黙った。ユカノは続けた。「それとも私はあなた方を誘惑しましたか?諍いを強いましたか。いつ。どのように。言ってごらんなさい」「そんな事は決して……」「あなた方の間に何らかの鬱屈がある事は理解しました。互いに言い出せずに来たのですか?ですが、そこに私を交えないでください」 31

2014-06-13 00:28:18
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もはや双子は意気消沈し、俯くばかりである。「争い事を好むならば、今ここで決闘なさい。カラテかハイクで決着をつけるがいい。私が立ち合いましょう。そうしますか」双子は互いを見た。「いいえ」「いいえ」「では、これで終わりにしましょう」ユカノは手を叩いた。「立ってよい」 32

2014-06-13 00:31:49
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一同が、倒れたテーブルを直し、テラスから屋内へ戻ると、エーリアスが廊下の壁に寄りかかり、待っていた。「戻ってこねえと思って様子を見に来たら、何やってンだ、アンタ達」「よい経験になりました。明日に備えましょう」ユカノは答えた。エーリアスは双子を見た。双子はバツが悪そうに頷いた。33

2014-06-13 00:42:03
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……翌朝は早い!四人は朝靄の中、出張市の行商人テントをまわって、山岳装備を調達した。ユカノが奇妙な生き物の手綱を引いてきた。ラマだ。ラマは口の端しからよだれを垂らし、クチャクチャと何かを噛んでいる。「すげえな」とエーリアス。ディプロマットは手綱の一つを取り、弟に渡した。 34

2014-06-13 00:47:14
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【アンダー・ザ・ブラック・サン】#2 後編

2014-06-14 21:49:59
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……翌朝は早い!四人は朝靄の中、出張市の行商人テントをまわって、山岳装備を調達した。ユカノが奇妙な生き物の手綱を引いてきた。ラマだ。ラマは口の端からよだれを垂らし、クチャクチャと何かを噛んでいる。「すげえな」とエーリアス。ディプロマットは手綱の一つを取り、弟に渡した。 34

2014-06-14 21:50:23
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四人はラマの背にゆられ、朝靄の中を進む。炎天下を車で走り抜けた翌日は、冷えた空気の中、険しい山道だ。過酷な旅程であるが、彼らは皆ニンジャであり、気候の変化には常人よりもよく耐える。移り変わる山間の風景と荘厳なアトモスフィアも癒しとなった。「悪くない旅だ」エーリアスが呟いた。 35

2014-06-14 22:07:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「よほどの峻厳さを覚悟していたが、これならば」ディプロマットは言った。「晴れて来たな。空も青い」とアンバサダー。ユカノは穏やかに彼らの会話を聞いていた。ものの数十分で、起伏ある地面には徐々に刃じみた石片が混じり出し、青々とした苔類は刺々しい茨の類いに姿を変えた。 36

2014-06-14 22:16:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

いつしかピクニックじみた会話はなりを潜め、ユカノ以外の三人は、ラマの足元を不安げに見下ろしたり、急に現れる断崖に息を呑んだりするようになった。特殊な蹄鉄をつけたラマは、マキビシと鉄条網のトラップ地帯じみた険しい山道を、耳を振りながら、事もなげに登ってゆく。37

2014-06-14 22:20:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

悪魔じみたイラクサの狭間から霞めいて立ち上るブヨの類いにも、彼らは大いに閉口した。さいわい、薬草を含んだ山岳スプレーが覿面に効く。「これでどこまで?」エーリアスが尋ねた。「一時間も経っていませんよ」ユカノは答えた。「ここはまだ人の領域。体力はこの後の登攀の為に温存しましょう」38

2014-06-14 22:25:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

実際、ラマの働きは大きかった。ほとんど手綱操作を必要としない程に、よく訓練されている。加えて、乗り手がニンジャであることも関係していようか?平安時代、ニンジャは様々な騎乗用動物を御し、地海空を駆けた。ラマの遺伝子にも、ニンジャ存在に対する畏怖が刻み込まれているのかもしれない。39

2014-06-14 22:31:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やがて空には黒雲が立ち込め、冷たい雨が降り始めた。東から流れてきた雲は重金属成分を含んでいる。この日の四人は昨日のラフな服装とは打って変わり、高山地帯の民族を思わせる意匠と近代的なPVCテックをハイブリッドさせた旅装に身を包んでいた。彼らはフードを被り、陰鬱な雨に備えた。 40

2014-06-14 22:40:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

もはやエーリアスには、打ちつける雨に負けぬ大声を出してまで「あとどのくらいか」を訊く元気もない。体力はラマの上で温存だ。なにしろ、ゴール地点の先にあるのは花畑ではなく、便利なラマすらついてこれぬ、ニンジャの領域であるのだから。双子はそのやや後方を並んで進み、目配せをかわす。41

2014-06-14 22:48:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(ついて来ているか)ディプロマットは弟にテレパスを送った。(よしてくれ)アンバサダーはテレパスを返した。(都会暮らしの俺らには、願ってもないレジャーだろ。兄さんこそ、へばったのか)(……)しばしの沈黙の後に、兄は答えた。(……次はオキナワにしておくか)(違いない)42

2014-06-14 22:59:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

既に山道にはイラクサすらなく、ただ土と砂と石片ばかり、遠方の空では稲妻が脅かすように閃いた。そんな中、三人と同様の厚い旅装に身を包んでなお、先導するユカノは超然と美しかった。その佇まいはただ視界の中にあるだけで三人に希望と余裕をもたらし、ともすれば挫けかける心を揺り戻した。43

2014-06-14 23:12:38