キャバ峰ちゃん-音羽編①

音羽銀行総頭取、音羽悟偉さんあらわる。
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ツムジモコ @tumuji_moko

【キャバ峰ちゃん】 国内有数の大手金融機関、音羽銀行の頭取が神峰君の勤めるキャバクラを訪れた。その日は運の悪いことに人手がなく、音羽頭取の相手を神峰君がすることに。 音羽頭取は神峰君の野暮ったさに辟易したが、彼のリアクションが面白くて気に入ってしまう、的な。

2014-06-11 11:30:10
ツムジモコ @tumuji_moko

神「頭取って社長のことっスよね?音羽さんオレと殆ど代わらない年なのにスゲェ!カッコイイっス!」 音「カッコイイ?オレは単なる親父の操り人形だ、肩書きのないオレに価値は…」 神「でもついてきてくれる人だっているでしょう?それは間違いなく音羽さんの人望です!」 キャバ峰強し。

2014-06-11 11:40:55
ツムジモコ @tumuji_moko

音「面白い奴だな。(ポケットからスマホを取り出しながら)…おい、携帯を寄越せ」 神「え?携帯?」 戸惑う神峰君の腕を同僚嬢が突つき、耳打ち。 同僚「音羽さんは連絡先を交換したいって言ってるの!早くスマホ出しなよ!」 神「え?あ?…ご、ごめんなさい、オレ携帯持ってなくて…」

2014-06-11 11:56:05
ツムジモコ @tumuji_moko

音羽頭取大爆笑。何故か戦慄するキャバ嬢達。 音「何だお前、そんなに金に困ってるのか」 神「う。いやあの…スミマセン」 音「いい。今回はここまでにしておこうか。携帯がないならまたお前を指名するまでだ」 気に入られました。そして後日、音羽頭取は神峰君に携帯をプレゼント。

2014-06-11 12:03:11
ツムジモコ @tumuji_moko

そしてそして、少し遅れてやってきた刻阪課長。神峰君を指名しようとしたら、かの有名な音羽頭取の隣に座り笑っている彼を目撃してショック。(音羽頭取とは学生時代先輩後輩の仲だった)

2014-06-11 12:08:45
ツムジモコ @tumuji_moko

【キャバ峰ちゃん3】 仕事にもそろそろ慣れてきた時分、神峰君は少しずつ固定客を増やしていった。 そして今日、いつものように接客をこなす彼を指名したのは、年の頃なら40代半ばといった雰囲気の妙に馴れ馴れしい男。どんな客だろうが笑顔で迎えるのが鉄則、と神峰君は男の隣に座った。

2014-06-12 23:36:33
ツムジモコ @tumuji_moko

しかしこの男、馴れ馴れしい所か挙動がおかしい。肩や手に触れるならまだしも、首筋や腰、太股など明らかにスキンシップの域を越えているのだ。 ここは『そういう店』ではないとやんわり伝る神峰君の腰に腕を回し、男はヘラヘラと笑った。すっかり酔いも回ったのか、呂律も怪しくなっている。

2014-06-12 23:48:53
ツムジモコ @tumuji_moko

調子に乗った客をいなすには神峰君はまだ未熟だった。愛想笑いを浮かべながら男の手を払うが、どうにも甘い。 「あの、こういうのは困ります…」 「おいおいカミネちゃん、サービス悪いんじゃないの?」 醜悪な笑みを浮かべて神峰君の胸元に手を伸ばす男。 体が震えた。――「怖い」と。

2014-06-13 00:01:38
ツムジモコ @tumuji_moko

辺りを見回し他の同僚やホールスタッフに助けを求めるが、こんな時に限って店は多忙でこちらを気にかける余裕もない。 「なぁカミネちゃん、仕事は何時に終わる?アフター付き合ってあげるよ」 「へっ!?いや、オレは別に…」 遠慮しなくてもいいから、と男は更に詰め寄ってきた。

2014-06-13 00:15:32
ツムジモコ @tumuji_moko

「やめてくださ――」 「そーゆー態度とっちゃうの?お客様は神様だろ!?」 男の手が神峰君の腰を撫で回す。強引に引き寄せられ、押し退けようとした手まで握られてしまい、神峰君は戦慄した。 肩を震わせ、それでも泣くまいと唇を噛む。この仕事を選んだ以上は我慢しなければならないのか。

2014-06-13 00:43:17
ツムジモコ @tumuji_moko

――助けて。そう願い思い浮かべたるは、あの時「友達みたいに接してほしい」と笑いかけてくれた『彼』の笑顔。 嫌悪しか感じられない手の感触に耐え、ぎゅっと目を瞑る。男の顔が至近に迫ってきた所で。 「――オイ、交代だ。そこを代われ」 その声は神峰君が請うた『彼』のものではなく。

2014-06-13 00:59:44
ツムジモコ @tumuji_moko

黒のスーツに身を包んだ、暗紫色の髪の男。鋭い瞳が神峰を見下ろしていた。 「音羽…さん?」 音羽銀行総頭取、音羽悟偉。冷たくも鋭い瞳が、神峰に絡む男をぎらりとねめつける。男は分かりやすく怯んだ。 「い、いきなり何だよ。アンタには関係ないだろ」 「関係ある。カミネはオレのだ」

2014-06-13 01:18:56
ツムジモコ @tumuji_moko

威厳に満ちた態度に気圧されたか、狼狽する男。 「な、何が『オレの』だ、イカれた事言ってるんじゃねぇぞ!?」 「イカれてるのはそっちだろう。…おい、コイツをつまみ出せ」 音羽頭取は慣れた様子で顎をしゃくった。傍に控えていた厳つい風体のスタッフが二人、男を拘束する。

2014-06-13 01:33:59
ツムジモコ @tumuji_moko

それでも尚喚き散らす男に、音羽頭取のとどめの一声が刺さった。 「暴行罪で訴えられたいのか?」 肉食獣も尻尾を丸めてしまいそうな威圧感を以て、強引に場を収めてしまった。そして再び神峰を見やり、ニヤリと笑って。 「…鳩が豆鉄砲を食らった顔」 「えっ?」 神峰は目を丸くした。

2014-06-13 01:51:05
ツムジモコ @tumuji_moko

――豆鉄砲を食らった顔って、オレが? 明らかに小馬鹿にされているとしか思えない、それなのに神峰に向ける音羽頭取の眼差しと心の様相は無邪気な子供のそれで、だから余計に混乱した。 神峰が呆然としている間にも、音羽頭取の指示を受けたホールスタッフがテーブルを片付けていく。

2014-06-13 21:14:26
ツムジモコ @tumuji_moko

そうこうしているうちにテーブルの上には新しいボトルとグラスの準備がされていて、音羽頭取は神峰の隣に座っていた。 「――酌」 言われてハッとする神峰。今し方の悪口とも軽口とも取れる音羽頭取の言葉の意味と、状況の理解に思考を取られていた。 「スミマセン!今すぐ…」 「ん」

2014-06-13 21:27:31
ツムジモコ @tumuji_moko

何事もなかったかのように振る舞う音羽頭取の様子に面食らいながら、グラスに手を伸ばす。 ――見苦しい所を晒してしまってごめんなさいとか、助けてくれて有難うございますとか…言うべき言葉は沢山あるはずなのに、何故だろう、声が出ない。 グラスと氷を掴むトングを持つ手は震えていた。

2014-06-13 21:37:55
ツムジモコ @tumuji_moko

覚束ない振る舞いに、掴み損ねた氷の一つがテーブルの上を転がった。 「失礼しました!」 「いい。…それを貸せ、オレがやる」 神峰の返事も聞かずにトングを奪う音羽頭取。グラスに氷を落とし、手際よくボトルを開けた。 「ま、待ってください!そんなこと音羽さんにさせるわけには…」

2014-06-13 21:50:57
ツムジモコ @tumuji_moko

音羽頭取は上得意だ。支配人からも丁重に接待すりように念を押されている。そんな大物に自ら酌の準備をさせるなんて。 「あの、音羽さん!それはオレの役目っスから…」 「何度も言わせるな。…オレに指図するな、座ってろ」 「ハイッ!」 威圧感、再び。神峰は硬直してしまった。

2014-06-13 21:59:49
ツムジモコ @tumuji_moko

「飲め」 「あ、あざす」 天下の総頭取に酌をされるなど、何て畏れ多いことか。差し出されたグラスを受け取り、おずおずと口をつける。甘くて苦くて、そして。 「美味いっス」 グラスから香る芳醇な匂いに目眩がしそうだ。 「そうか」 ――ふわ、と。 神峰の頭に温もりが触れた。

2014-06-13 23:22:11
ツムジモコ @tumuji_moko

それが音羽頭取の手で、頭を撫でられている事に気付いた瞬間、目頭が熱くなった。 「あの。オレ、子供じゃないんスけど…」 「知ってる」 「これじゃ飲みにくいじゃないスか」 「そうだな」 「…ッ」 グラスの中に雫が落ちる。一粒、また一粒と。 触れられるままに神峰は俯いた。

2014-06-13 23:50:20
ツムジモコ @tumuji_moko

――怖かった。 押し潰されかけた心が、音羽頭取によって安堵に塗り替えられていく。 「っ、ありがと…ございま、す…」 音羽頭取はただ黙って神峰の頭を撫でるだけで。彼の手から伝わる底抜けの優しさが、胸に広がっていくようだ。 グラスの中の氷が、からん、と音をたてた。

2014-06-14 00:06:03
ツムジモコ @tumuji_moko

「お手を煩わせてしまってスミマセンでした…」 それから十数分。泣き腫らした目を伏せて頭を垂れる神峰に、音羽頭取がひらひらと手を振る。 「いい。あの男の振る舞いは腹を据えかねるものがあったしな。簀巻きにして海に沈めてもいいくらいだ」 「ダ、ダメっスよ!そんなことしちゃ!」

2014-06-14 00:20:38
ツムジモコ @tumuji_moko

「どんな理由があっても、人を傷つけたりするのはダメです!」 小学教諭よろしく人を諭そうとする神峰の姿は音羽頭取の表情を怪訝にさせた。傷つけられた張本人が、他人を心配する側に回っている。良く言えば前向きな人間性なのだろう。 可笑しくてたまらない、と音羽頭取は肩を揺らした。

2014-06-14 00:36:06