- hoshizorainu
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【現代語訳】 今日は17日、穏やかな雨が降っている日だった。 夕方に、夕飯を作ろうとしていると、小僧がやってきて、なにやら嬉しそうに飯を作る様子を見ていたので、少し照れ臭いように感じた。
2014-07-30 22:39:43超強い妖怪の呪いで虎姿にされたバケモノさんは、右も左も分からないまま人里に降り、そこで案の定あっと言う間に捕まって、その人里の権力者の家にある座敷牢に放り込まれた 打ち殺しにするか、見世物小屋に売るか、処分を決めるまで閉じ込められる その権力者の家にいたのがばけものさん
2014-07-30 22:49:23捕まっていた座敷牢にひょっこりやってきたばけものさんと会話するうち、生まれた時から人間扱いされず、鬼子として扱われていたばけものさんの境遇に、バケモノさんは哀れみと自棄な嘲り混じりでこう告げる 「哀れな童だな」
2014-07-30 22:52:32「あわれ?あわれってなんですかあ?」 「ふん。気に障ったか?」 「いいえ。言われたことがないので、知らないんですよお」 「…………」 「どうしたんですかあ?……僕こそ、怒らせちゃいましたか?」 「可哀想だ、という意味だ」 「かわいそう?──僕、かわいそうですかあ?」 「……ああ」
2014-07-30 22:55:32「──はじめて言われましたあ。僕、かわいそうですか?本当に?……えへへ、ありがとうございますう!」 「…………」 それが最初の会話
2014-07-30 22:57:03その後は毎日ばけものさんがバケモノさんの牢に通って、バケモノさんのためにいろいろ行動する バケモノさんがバケモノにされてすぐ、とにかく自衛をせねばと思って野戦場の死体からかっぱらってきた刀(捕まった際に没収された)をこっそり持ち出してきてバケモノさんにプレゼントしようとしたり
2014-07-30 23:05:25「虎さん虎さん!これ、虎さんの刀ですよね?取ってきましたあ!褒めてください!」 「……もう、俺には要らん」 「あ……迷惑、でしたか?」 「…………やる」 「……僕に、ですかあ?」 「……ああ」 「う──うれしいです!贈り物なんてはじめてです!一生大事にしますねえ!」 「……」
2014-07-30 23:08:30死人から剥いだ刀を抱きしめて、子供は屈託無く笑った。 それが、人と交わした最後の言葉。 「起きろ、化物」 次に目覚めた時に聞こえたのは、人の声ではなかった。 「ここを出れるぞ。出た先は、また別の檻だがな。見世物小屋の」 下卑た笑いが響く。 毛むくじゃらの顔を顰めた。
2014-07-30 23:11:57眼前にいるのは、人の皮を被った外道だ。化物に恐れ惑う癖に、その化物を銭の種にしようとする外道。 外道祓いこそ、己の使命だと言うに。この外道は己のいかなる術でも祓えない。 いや、己も既に化物に身を堕としていたか。全くうんざりさせてくれる。 絶望に、口が吊りあがるのを感じた。
2014-07-30 23:15:54己のその様に、牢越しの男がまた、その喉を動かした。 耳障りだ。聞きたくは── 「ごぶり」 その喉から出てきたのは、虎が思ったような声ではなかった。 湿気った音を立てて喉から突き出た銀色は、ぬらぬらとした光を虎の目に焼きつかせて、出た時と同じくらい唐突に喉の奥へと潜って行った。
2014-07-30 23:19:00次いで出てきたのは、赤黒い飛沫と、錆の匂い。 「あ────え?」 そこまでいってようやく、虎は男の声を聞いた。 ごぼごぼと耳障りな雑音が混じる、間抜けな声だった。 男が喉を抑えて膝をつく。 男の先にいた人間と目が合った。 「──えへへ」
2014-07-30 23:21:00ばけものさんはバケモノさんにもらった刀が宝物で、一番大事にしてるんだけど、特に「この刀でないと殺さない」とかいうこだわりはない
2014-07-31 02:30:32