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翌日の夜、友人は開口一番 「鬼が島に上陸してきたわ」 と言ってのけた 「鬼の出没スポットが島に限定されてるわけだから行かないわけにはいかないだろ」
2014-09-07 10:25:19自分が鬼に会えたのかと聞くと彼はさらに大真面目で 「たった一日出会えるわけないだろあれは異次元生命体かもしれないんだから」 などと嘯いた
2014-09-07 10:25:51「いろいろ聞いてまわってたら今あの島はもう誰の土地でもないらしいんだわ。 芸術家が死んだとか何とかで、そいつは天涯孤独で、身元もわかってなくて 引き継ぐ人間もいないらしいんだけど、だから別に乗り込んでもかまわないと思ってさ」
2014-09-07 10:26:46その点は初耳だったので自分が本当に死んだのかと問うと、 「そう言う人も居たわ、昨日会った別の人間は借金抱えた結果仕事探しに都会に 出かけたんじゃないかって言ってたから、事実関係はよく分かんないんだけど」
2014-09-07 10:27:40「まあその辺のところはこれから調べるわ。いずれにせよ今あそこに管理者がいないことに 変わりはないわけだし」 などといい加減なことを言っていた
2014-09-07 10:30:06「それで島にどうしても行きたいってことでキャンプ場周辺に停泊してた漁船とかに頼んでまわったんだけど 偉い怒られたわ。こっちは仕事で船動かしてるのによそ者が舐めてるのかって言ってな」
2014-09-07 10:31:37それで俺は財布から札束を出して見せびらかしたわけよ。いかにも金持ってるように見せかけてな。 本当は俺金なんてないからきつかったんだけどな。それで最初に1万5千円見せて、1万5千円なんていったら日当以上もいいとこなんだけどさ、でもそいつは顔を縦に振らないんだ。
2014-09-07 10:32:32「ほんの1、2キロ程度はなれたところにある島だから、ぜんぜん時間も燃料もかからないはずなんだけどな。 それで俺はしぶしぶ近くのコンビニによってATMでさらに金を下ろして、一気に2万5千円にして見せたわけよ。これでさすがに落ちるだろうなって思ってな」
2014-09-07 10:33:55「そしたらその漁民は見るからに動揺したそぶりを見せて、俺はこれはいけるなって思ったんだ。だからそこにさらに5千円追加して、3万円を目の前につき立ててやった。止めのつもりでな。そしたらそいつ顔を真っ赤に、それこそ赤鬼のように赤く染めて俺を怒鳴りつけやがるんだ。
2014-09-07 10:34:37「もう3キロ四方には聞こえるんじゃないかっていうとんでもない声でな。 『お前は漁師を馬鹿にしてる、みなプライドを持って仕事をしているのになぜここまで 侮辱されなきゃならないんだ。下らん迷信のために仕事の邪魔をされてる場合じゃない餓鬼はさっさと帰れ』とかなんとか」
2014-09-07 10:37:30それで俺はまたとんでもない堅物を引き当てちまったなあってほとほと辟易して、仕方なくまた近くで停泊していた別の漁船の所有者に声をかけたんだ。さっきの怒号が聞こえてた可能性もあるから頼みにくかったんだけどな。
2014-09-07 10:38:15「まあ俺もさっきのでいきなり金ちらつかせたら気分を害されることもわかってたんで、その辺は警戒しつつなるべく低姿勢で頼み込んだんだよ。そしたらそいつなんて俺が二言三言話すうちこそ チラチラ視線をくれたものの、途中から一瞥もよこさなくなってな。以後始終だんまりのし通しさ」
2014-09-07 10:39:44ひょっとしてこいつ耳が聞こえないか、あるいは頭がおかしいかのどっちかなのかとさえ思ったけどな、 でもそうしているうちにほら、大体わかるでしょ、あ、この人意図的に無視してるな、みたいなのはさ。 俺もいい加減面倒くさくなって港を離れたよ。
2014-09-07 10:54:38「そしたら気のせいか時々すれ違う地元の民まで俺のことを白い目で見ているような気がしてくるじゃないか。不愉快になったんで俺はバイクに乗ってその港町はあとにしたよ」
2014-09-07 10:55:43「でももちろんそれで諦めがつくはずもなくて、俺はそこから海沿いを15キロほど走ったところにある別の港でやはり漁民にチャーターを頼んだんだよ。よく考えたら2万も3万も払うならここからでも十分だと思ってな」
2014-09-07 10:57:00「そしたらなんか暇そうな顔をしてた釣り船のオーナーが3万5千だすなら乗っけてくれるって言ってさ。厳しかったんだけど合意したよ。その出費でようやくあの島の地を踏めるかと思うと嬉しくてさ」
2014-09-07 10:58:43「それでその後船中にて俺が元来た漁港でことごとく島への渡航を拒絶された話をすると、釣り船のオーナーは 『あそこの連中は本気で鬼を怖がってるからやめたほうがいい』 ていうんだ。 『あそこの連中は今でも時折鬼が島から出てきては人間をさらっていくって信じる』 ていうんだな」
2014-09-07 11:02:27同時に『俺は都会から移住してきたからそんな迷信相手にしてない』と付け加えてたわ。 それで俺がさすが彼らだって心からそんなことを信じているわけではないでしょうって言うと オーナーは真面目な顔をして
2014-09-07 11:05:25『つい10年前も町で女の子が2人ほど行方不明になって大騒ぎになったことがあった』 ていうんだな。その時もあの漁港の連中はそれを鬼の仕業だと信じてパニックになったんだとさ。
2014-09-07 11:06:17「そういう話をしているうちに船は島に近づいてって、それに伴って芸術家の家の姿かたちもだんだん明らかになってきた。そこでまず驚いたのが、キャンプ場からは地形や木立の影に隠れたりしてよく見えなかったんだけど」
2014-09-07 11:12:24「そいつの家を中心にしてかなり広大な領域に、朽ち果てた鉄材からなる なんとも奇怪ななりの構造物が延々と居並んでいるんだな。外敵から城を守るためのアスレチックみたいな感じでさ」
2014-09-07 11:13:26「鳥っぽかったり怪獣ぽかったりあるいは宇宙船ぽかったり、見方によっては子供心を存分に発揮しただけの無邪気な作品にも感じられたけど、それでもいったい何を考えて芸術家がそんなものを構築していったのかはさっぱりわからなかったわ」
2014-09-07 11:15:50「それでそれらモニュメント群の中でも一番でかいのになると高さが8メートルくらいはあって、そんなものさすがに島に重機でも運び込まないと建造できないんじゃないかって図体でさ」
2014-09-07 11:16:39「『あんなものをたった一人でどうやって作ったんですかね』ってオーナーに聞いたら、 『さあ、それこそ鬼が手を貸してくれたんじゃないですかね』 とかとぼけやがるんだ。
2014-09-07 11:20:01