【トワイライト・オブ・ザ・シークレット・リリー・ガーデン】#2
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迷路の果て、鬱蒼としたアーチを潜ると、石畳の空間に出た。ここは庭園の中心。美しい花と人口池に棲むバイオニシキゴイを愛でる為のアズマヤがあり、周囲には照明装置が設置され夜間でもイベントを敢行出来る。そして四つに区切られた薔薇園の中には劇場設立を記念した社長像。その足元に。 20
2014-09-28 22:05:02「…ユリコ=サン」アンナが駆け寄る。「来ないで!」ユリコは膝を抱えたまま叫んだ。俯いた表情は窺えない。「ユリコ=サン、事務所に戻ろ?また一緒に…」「…私は、出来ない」「え?」「私は、みんなみたいに楽しそうにお芝居出来ない。私はこんなに大好きなお話なのに」「それはみんな同じで」21
2014-09-28 22:10:09「違うの!」ユリコは立ち上がって叫んだ。赤く泣き腫らした目。「私はお話が大好きで!大好きな役ももらえたのに!全然魅力的に演じられない!分かってもらえない!」ユリコの胸に抱かれた本が怪しく輝き出す。すると少女達を囲むように庭園にイマジナリー・モンスターが湧き上がり出した。 22
2014-09-28 22:15:04「…ここでなら私は、完璧な私でいられる」ユリコは本を広げた。「アイドルが天に向かってマイクを掲げると、風の戦士が舞い降りステージの暗闇を切り払った…」ユリコの足元から五芒星めいた魔法陣が浮かび、その中から鈍く輝く銀色の騎士甲冑が現れた。「ここは私の世界。邪魔はさせない!」 23
2014-09-28 22:20:09「待って!私達は…」カナの声を遮り怪物達が殺到する。「…シホ=サン、カナ=サン。ユリコ=サンの相手は、アンナにやらせて…」「イヤーッ!…大丈夫なの?」「…うん…絶対連れ戻すから…」アンナは怪物を避けユリコ目掛け駆け出した。シホは了承した。アンナの体力を温存したのはこの為だ。 24
2014-09-28 22:30:11「で、どうしようシホ=サン」正面から押し掛けたミイラ男をケリで撃退したカナが問う。背中を合わせたシホも六連打で怪物を薙ぎ倒し、返答を…「イヤーッ!」「ンアーッ!?」シホは突然カナを突き飛ばし、己はブリッジ回避!その鼻先をロングソードの切っ先が掠める!「私の相手はこれね」 25
2014-09-28 22:35:05シホにアンブッシュを仕掛けたのは銀の騎士!濃密な黄色のオーラ。そのワザマエは周囲の空想怪物を上回ることは明らかだ。剣が振り上げられ、シホとカナに叩き付けられる!如何なアイドルといえど直撃を受ければ実際ネギトロ重点!「「イヤーッ!」」二人はジャンプ回避!だがこれはウカツだった!26
2014-09-28 22:45:04「ハレッ!?」周囲をよく見ずに跳躍した結果、カナは怪物の群れの中心に着地してしまった!モスキート・ダイビング・トゥ・ベイルファイアのコトワザの如く!たちまち怪物達が殺到!「スゥーッ……イイイヤアアア!」カナのウタ・カラテが炸裂!吹き飛ぶ怪物!だが浅い!カラテ不足だ! 27
2014-09-28 22:50:08「アイエ…」カナの眼前でミノタウロスめいた獣人がオノを構えた。「カナ=サン!…くッ!」シホは救援に向かおうとするが、騎士が立ち塞がり剣撃を繰り出す!「ライアールージュ・ジツ!イヤーッ!」シホの姿がブレる!それは視覚を誤魔化す幻影!敵に向かうと見せかけ、シホは脇を抜けようと… 28
2014-09-28 22:55:04「…ンアーッ!?」騎士の裏拳がシホの後頭部を叩く!回避できずもんどりうって倒れるシホ!(((ジツが効かない!?)))困惑しながら身を起こすと、今まさにカナの脳天を叩き潰さんとする獣人が見えた。カナは絶望に囚われ身動きがとれない!勝ち誇った咆哮と共に無慈悲な一撃が下る!その時!29
2014-09-28 23:24:01「GRRRRRR!」上空から何者かが落下!そのアイドルはシャウトを発し、肉食獣めいて張った五指で獣人を脳天から真っ二つに両断した!サツバツ!ギラリと金の眼が輝くと、長いポニーテールが天も地もなく舞い跳ね、取り囲むモンスターを次々と切り裂き雲散霧消させた!なんたるワザマエか! 30
2014-09-28 23:27:16「…ダイジョブ?ヤブキ=サン」カナはその声を庭園より遥かな空で聴いた。額を風が撫でる音がする。力強い羽ばたきと腕の温もり。カナは己を抱えるアイドルを見た。「あ…ああ…!」背中から蒼いカラテ粒子の翼を生やした少女は、穏やかに微笑んで地上に舞い降りた。アイドル達はアイサツした。 31
2014-09-28 23:33:53「ハイサイ!ヒビキ・ガナハだぞ!」「オハヨウゴザイマス。チハヤ・キサラギです」「オ、オハヨウゴザイマス…カナ・ヤブキです」ヒビキの眼は澄んだ海めいた緑に戻り、チハヤの背の羽は消えていたが、アトモスフィアは普段ステージを共にしている時とは大違いだ。これがアーチアイドルの風格か!32
2014-09-28 23:35:08「今回はナナオ=サンね。ハルカが帰って来るまでに収めるわよ」「ハルカは心配症だからなー」二人のアーチアイドルは散歩に出かける様に歩き出した。彼女達は何の苦もなく暴動を鎮圧するだろう。それでいいのだろうか。カナは叫んだ。「待ってください!」先輩が振り返る。「なに?ヤブキ=サン」33
2014-09-28 23:40:09「あの!ユリコ=サンを止めるの!私達にやらせてください!オネガイシマス!」その場でドゲザせんばかりにオジギしたカナを、チハヤが見つめる。「そうね。それが良いと思うわ」「…え?」カナは目を丸くした。てっきり反対されると思っていたのだ。「こういうことも大切だって思うわ。私達には」34
2014-09-28 23:45:08「昔はチハヤも大変だったからなー。ハルカと散々…」「ガナハ=サン!」チハヤが声を上げたのは照れ隠しの為ではない。ヒビキの背後から巨大怪物が襲い掛かったのだ!だが次の瞬間、怪物は何かに全身を喰い抉られて雲散霧消した。ヒビキの肩越しに幾つもの赤い光点が蠢く。「…ナンクルナイサー」35
2014-09-28 23:50:19「少し払うわ」チハヤは両手を広げると、短く息を吸って口を開けた。…そして、世界から音が消えた。「…!?」衝撃波に耐えられなかった怪物達は悉く塵と化し、シホに剣を突き立てんとしていた騎士はハンマーに殴られたかのように吹き飛んだ。しかしアイドル達には何の影響もない。タツジン! 36
2014-09-28 23:55:05「これが…『蒼の歌姫』のウタ・カラテ…」振り向いてシホは呟いた。胸の奥に熱い何かが込み上げてきたのを感じる。「シホ=サン」チハヤが呼ぶ。「やるからには、全力よ」歌声が背中を押す。あのステージと同じ様に。シホのカラテが澄み渡って行く。疲労など風に消えた。 37
2014-09-29 00:00:33「それじゃー自分達の相手はあいつらだな!」言うが否やヒビキはビースト・カラテを構え、怪物の群れに飛び込みネギトログラインダーめいて撒き散らした。「はしゃいじゃって。まったくもう…それじゃ、ヤブキ=サン。久しぶりにレッスンを見てあげるわ。行けるわね?」「ハ、ハイヨロコンデー!」38
2014-09-29 00:05:05鎧騎士が立ち上がる。その頑強な躰は頑ななユリコの心を表しているようだ。「でも、あなたになんて負けない」シホを白い光の粒子が包み込み、純白のアイドル装束を纏った少女が現れた。「ドーモ、ルーントリガーです」夕日を照り返す二挺のリボルバー拳銃を胸の前でクロスさせ、アイサツした。39
2014-09-29 00:10:06