連作小話「ほんとうにやりたいことは…」

土曜日 @doyoubi

#twnovel 俺はスカタン、根性なしやなあ。つくづく思う。アメリカ留学して取得したMBAを勲章に人も羨む某都銀に入行。そこまではよかったが、研修後配属された営業店でセブンイレブン過酷労働。その上、徹底した目標管理で上司に絞られる。三年もたんかったわ。鬱病になってしもたんよ。

土曜日 @doyoubi

#twnovel 辞めてしばらくは鬱病治療。ブラブラしていたら幼なじみから電話。俺が辞めたことを聞いて心配してくれたんや、あいつ。付き合いが再開して男女の中になったら結婚を申し込まれた。しかも、養子婿入り。次男なので支障は無かったが、パーマ屋に婿入りするなんてと親には呆れられた。

土曜日 @doyoubi

#twnovel うちなあ、あんたが昔から好きやったんや、憧れの的。けど、あんたは秀才で人気者、うちは落ちこぼれ。近づきたいと思ても近づかれへん。ところが、思わぬチャンス到来。あんたが病気になって銀行辞めたと聞いてすぐに思い切って電話した。お母ちゃんも後押ししてくれたんよ。

土曜日 @doyoubi

#twnovel 婿がこんなにいい心地だとは思わなんだ。鬱病治療中ということもあるが、姑などは婿殿と言わんばかりよ。上げ膳据え膳、夜は嫁が大歓待、お陰ですっかり回復した。しかし、このまま髪結亭主では苦労して取ったMBAが泣く、俺の自信がプライドが許さぬと再就職活動を開始したが。

土曜日 @doyoubi

#twnovel 三国一の婿が来てくれたと大喜びやぜ、あの二人。女の子が生まれれば美容師にして店を継がせる。昔ほど儲かる商売ではなくなったけど、うちはアパートも何軒か持ってるから気楽に暮らせる。この家では婿は種馬、いい種でなくてはいい子ができぬ。俺も悪い種馬ではなかったぜよ。

土曜日 @doyoubi

#twnovel 婿ほど素敵な商売はない。仕事に縛られず自由な暮らし。朝は未明に起きて音楽と孤独、嫁が作る食事は何でも感謝（フリ）して食べる。昼間は町内会、老人会の世話人、盛り上げ役。夜になれば（適度に）お酒を飲んで団欒のひとときの後、すぐに寝る。こんな暮らしを嫌がるなんてなあ。

土曜日 @doyoubi

#twnovel 何社か応募してNG。不景気もあるけれど履歴書の傷がやっぱり響いている。「Ｓ銀行を一身上の理由により退職」と書いても理由を問われるとなにかしら答えなくてはならぬ。MBAも掃いて捨てるほどいるし、逆にプライドが高いので使いにくいなどと言う奴もいた。畜生、劣等生め。

土曜日 @doyoubi

#twnovel 再就職がままならないので少々イラツキ気味の俺。そんな俺を知ってか知らずか舅が時々将棋を指しに来る。舅の腕はまずまずだが俺には敵わない。妙手で大逆転した時はスカッとするなあ。俺の明晰な頭脳と大胆を実感するのだ。先日、そんな一局の後、舅が微笑しながらポツリと言った。

土曜日 @doyoubi

#twnovel 再就職がままならないので少々イラツキ気味の俺。そんな俺を知ってか知らずか舅が時々将棋を指しに来る。舅の腕はまずまずだが俺には敵わない。妙手で大逆転した時はスカッとするなあ。俺の明晰な頭脳と大胆を実感するのだ。先日、そんな一局の後、舅が微笑しながらポツリと言った。

土曜日 @doyoubi

#twnovel あんた強いなあ。さすがMBAだけのことはあるわ。ところで、将棋で一番大事な駒は知ってるわなあ。王さんや。王が将棋のいのちよ。へぼ将棋王より飛車を大事にしなどと言うけれど、人間、つい、いのちより面子や格好やプライドを大事にするんよなあ。ほんま、いのちが一番やで。

土曜日 @doyoubi

#twnovel そやからプライドなんかにこだわらんと好きなことをするこっちゃ。なんの因果か分らんけれど与えられた命や、好きなことに燃え尽きるのが一番。幸い、食うために働かんでもええ身分や。好きなことが何か判らんままにわいはこんな歳になってもたけど、あんたは若い。やってみなはれ。

土曜日 @doyoubi

#twnovel 俺の好きなことなあ。そんなのが一生の仕事になるなんて思いもせなんだ。好きなことも楽しいことも我慢して一生懸命勉強してええ会社に入ってそいでまた懸命に働く、それが人生やと親から教えられ信じていたもんなあ。そうか、好きなことしてええんや、俺は自由や、髪結亭主やぜよ。

土曜日 @doyoubi

#twnovel 舅の助言に従って再就職を止めた俺。商店街の仕事やアパートの管理をしつつも本当にやりたいことが何かわからぬままに時は過ぎてゆく。ひょっとして作家になることかもと、ツイッターで小説を書き始めたが、こんなぬるま湯で作家になれるやろか。ともかくも、今夜も子作りに励もう。