喫茶店兎虎バディ

うぃろうさんのまとめ
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うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 1 雨は嫌いだ。アイツが好きだった青空を覆い隠してしまう。アイツが死んだ日もバケツをひっくり返したような土砂降りで世界中がアイツの死を悼んでいるようだった。このまま雨に打たれて俺の心臓も止まって欲しいと曇天に叫んでは乞い願うのに頑強な身体は風邪一つ引きはしない

2014-10-13 18:14:57
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 2 ただ、凍りついた心と身体は、俺がヒーローで居ることを望んだアイツの為に、動き続けた。プライベートも何もなく、ただ信念だけが俺を生かす。ヒーロー以外の何もかも置いて、アイツの思いが身体に染み付いてきた頃、『正義の壊し屋』なんて渾名が付いてしまった。

2014-10-13 18:16:14
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 3 賠償金も他人ごとのように増えていく。スポンサー向けの愛想笑いも覚えた。ただ、雨の日だけは、どうしても苦手で、顔の表面から熱が冷めていく。古い仲間からは亡霊のようだ、なんて云われてしまった。食事も喉を通らなくなる、そんな日に。

2014-10-13 18:17:09
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 4 帰宅途中の突然の雷鳴。嵐が来ることは知っていたのにまさか交通全般が止まってしまうなんて。シルバーからブロンズに降りる手段を無くして暗闇をやむなく走っていると、ふと、垣間見える温かな灯り。それがなんだか判断する間も無く、飛び込んでいた。

2014-10-13 18:19:19
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 5 「いらっしゃいませ」一番先に目に入ったのはコポコポ音を立てる実験器具のような硝子の湯沸かし器。レトロな豆曳き機を繊細な指先が回しかけて止まる。珈琲の落ち着いた薫りが上がる呼吸を落ち着かせてくれた。丸太で出来た粗造りの扉を開けた先は、喫茶店のようだった。

2014-10-13 18:23:22
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 6 照明が蝋燭しかない仄明るいカウンターの真ん中。シンプルな白いシャツに黒のエプロンを身に付けた店員らしき青年が此方を見ている。その目は真ん丸で、緑の明るい瞳が零れ落ちそうな位。きれいだ。純粋に見惚れていると目の上の、金細工の眉が見る見る内につり上がっていく

2014-10-13 18:25:28
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 7 「貴方、こんなびしょ濡れの状態で珈琲飲むつもりなんですか!?ウチは椅子も商品なんですよ!?」刺々しい声に我に返って弁明する「えっ、いや、その、俺…」慌てて首を左右に振ると濡れた髪から雫が飛び散って菓子棚を濡らしてしまった「あぁーっ!?」手で拭っても大惨事

2014-10-13 18:28:52
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 8 「あぁもう!」「ごめんなぁ!?直ぐ出てくから!」もうどう挽回すれば良いのか分からなくて慌てて扉から出ようとすれば後ろから温かな何かに包まれる「お客様を追い出したりはしませんよ!ちゃんと料金払って貰うまでは」背中に不吉な言葉を聞いた思えば、突然身体が宙に浮く

2014-10-13 18:31:20
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 9 「わわっ!?ちょっ、お前!」「煩いな、大人しくして下さい床が汚れます!」まるで女の子みたいに横抱きにされて店員専用の扉の奥の階段を上がっていく。流石に暴れるのは危険だと恐る恐る肩にしがみついた。…うへぇ、ヒーローの俺と同じくらいタッパあるんだけど、コイツ

2014-10-13 18:32:51
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 10 「何か?」「いや何でもアリマセン」綺麗な目に睨まれると三倍怖く黙って周囲を見渡すと二階はやたら生活感に溢れていて誰か住んでいることを示していた。タイル張りの部屋に着いた所で俺を抱えたコイツは立ち止まる。重たいだろうに欠片も匂わせずゆっくり足から降ろされた

2014-10-13 18:35:21
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 11 「…断水していますが、バスタブに湯を溜めていますから使って下さい。着替えはお貸しします」「えっ?」態度と裏腹な親切さに度肝を抜かれる。女の子なら下心を疑うレベル。なのに不機嫌な表情が下世話な想像を切り捨てるから感覚が麻痺した俺は促されるまま入ってしまった

2014-10-13 18:40:51
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 12 「っ~美味い!!なんだこれ!俺が今まで飲んでた奴と全然違うんだけど!」「それはそうでしょう。オジサンみたいな寂れた人が一生手を出せないような最高級のブルマンをこの僕が丹誠込めて煎れましたから」「サイコーうめぇお代わり!」「だから味わって飲んで下さいよ!」

2014-10-13 18:42:27
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 13 ハーブの風呂で暖まってリネンのシャツを借りて恐ろしく美味しい珈琲をご馳走になる。外はまだ激しい雨音が続いていて灯りは蝋燭だけ。目の前の青年は神様みたいに綺麗で優しくて何だか現実味がない。二杯目の珈琲カップを両手に持って惚けていると微かに言葉が落ちてくる

2014-10-13 18:44:34
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 14 「泣いていると、味が分からなくなるんです。どんなに美味しい珈琲を煎れても」ハッと顔を上げる「泣いてなかっただろ」「泣いてました」「そりゃ雨だ」「僕には貴方が泣いているように見えました…だから良いんです」此処に来るお客様には美味しい珈琲しか飲ませませんから

2014-10-13 18:47:33
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 15 それからというもの、雨の日だけは許される気がして、その店に通った。最初の日だけはお代を払わせて貰えずに渋ったけれども、頻繁に通うようになったら容赦なく搾り取られる。言うだけあって珈琲は何を頼んでも美味しいが、値段は他の喫茶店の数倍はする

2014-10-13 20:03:57
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 16 コレでは客も来ないだろうと思っていたのに。雨降る休日の昼間に初めて訪れて見れば店内は若い女性でごった返していた「そりゃ、そうか…」店員があんな美形なら女の子は目が無いわな…何となく入り辛くて引き換えそうとすれば目の前の扉が開く

2014-10-13 20:04:54
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 17 飛び込んで来たのは白いワンピースの娘。濡れて透けた布を豊満な胸と尻に張り付けた娘はドアの前に突っ立っていた俺を押し退けて店員である青年に近付く「濡れちゃったの…ねぇ雨宿りさせてくれない?風邪ひいちゃう…」シャツの袖を引く様子に周囲の気温が一気に下がった

2014-10-13 20:07:14
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 18 あの日飛び込んできた俺みたいにアイツはその娘も世話をしてやるんだろうか。そう思うと何故か心がギュッと締め付けられる。見ていたくないのに目が離せなかった。けれど「お客様。タクシーをお呼びしますのでお帰り下さい」その声の冷たさに別の意味で不安になってしまった

2014-10-13 20:09:16
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 19 「いやよ、どうして?」娘は、青年の視線にもメゲず肘に絡んで離れない「僕に触らないで下さい。営業妨害です」その目が、本気で怒りを帯びるのを見て、反射的に割り込む「いや~お嬢ちゃん!此処は美味い珈琲飲むとこだから!オジサンに免じて、勘弁してくれよ!な??」

2014-10-13 20:10:02
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 20 「誰よアンタ」「えぇとそれはな~?」「関係ないんでしょ!?邪魔しないでよ!」「かっ関係はあるぞ!俺はコイツの、なぁ」頑張って考えて見ても客と店員としか出て来ない。真っ白になった頭で助けを求めて見つめると呆れたような溜息一つ「恋人です」とんでもない嘘吐いた

2014-10-13 20:11:37
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 21 「ハァ?そんなわけ無いでしょう!」「どうして僕の事を知らないアナタがそんな風に言えるのですか?」「っだってそいつオッサンじゃない!」「男同士で愛し合ってて悪いですか?」「っ~!嘘よ!愛してるなら証拠にキスして見せてよ!」初めて、青年の表情が揺らぐ

2014-10-13 20:12:26
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 22 緑の揺れる瞳が途方に暮れて此方を見た。唇が戦慄いて、閉じる。そんな顔、すんなよ。そんな顔、似合わない。俺が泣いているのを、助けてくれたのはお前なのに――そう思った瞬間、シャツの襟首を両手で掴んで、くちづけていた「キャーッ!!」という、黄色い嬌声も無視して

2014-10-13 20:13:51
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 23 重ねただけの唇はひんやり冷めていて薄く開かれた目に危惧していた嫌悪は見られない。ゆっくり離れれば今度は此方のネクタイを引っ掴まれた「キスしておいてタダでは返しません…!」雄の眼で喰らいつかれる。入ってきた舌は熱くあの雨の日の珈琲と同じ優しく幸せな味がした

2014-10-13 20:16:59
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 24 背後で陶器の割れる音。振り返ると眉を下げた彼の困り顔と砕け散った珈琲カップ「悪ィ!」「あっ素手で触らないで!」忠告は遅く赤が指先から流れる。その手をそっと引き寄せて口に含んだ「!?」静かになった彼を不思議に思い見上げると皺のある目尻がスッと朱を掃いていた

2014-10-14 12:26:58
うぃろう @maloneye888

#喫茶店兎虎バディ 25 「お前さ…そーゆーの、止めろよ…」目を逸らしたまま彼がいう。普段とはかけ離れた声は雨音に消え入る位震えていて、今にも逃げ出しそうな雰囲気だったからそっと腰に腕を回して閉じ込めた「そーゆーのー、とは…?」「だから…そーゆーの…勘違いしそうになる、だろ…?」

2014-10-14 15:11:17