シー・ワー・リビング・ゼア #1

これは、彼女の地獄だ。
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劉度 @arther456

◇◇◇◇◇◇◇ ←九十一式徹甲弾

2014-10-19 20:50:09
劉度 @arther456

【シー・ワー・リビング・ゼア】#1

2014-10-19 20:51:10
劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss を使用していただけると大変ありがたいです。宜しければ暫くの間、お付き合い下さいませ)

2014-10-19 20:51:55
劉度 @arther456

「対潜レーダーに反応!潜水カ級2隻、ヨ級1隻を確認!」静岡県、下田沖合。演習を終えた原子力巡洋艦『蔵王』は、帰る暇もなく実戦に駆り出されていた。「通報通りか。利根ちゃん、索敵開始!敵の位置を絞り込んでくれ!」『任せよ!』晴嵐が飛び、敵潜の位置を絞り込む。 1

2014-10-19 20:53:06
劉度 @arther456

「響、頼むぞ」『了解、響、出撃する』響改めヴェールヌイが『蔵王』の側面リフトから出撃する。反対側のリフトには、もう一人の対潜駆逐艦、不知火が準備している。『提督、出撃命令を』不知火の声は、通信機からではなく、提督の頭の中に直接響いてきた。 2

2014-10-19 20:56:30
劉度 @arther456

ドリフト・システム。『蔵王』に搭載された指揮補助システムだ。提督と艦娘の五感をリンクさせ、あらゆる電子的・魔術的妨害を受けずに艦娘に指令を与えることができる。欠点は戦闘時の痛みが提督にもフィードバックされることだが、むしろ無理な進軍に対するリミッターとして作用していた。 3

2014-10-19 20:59:47
劉度 @arther456

「……不知火、大丈夫か?」『何か?』「いや、最近元気無いような気がして」『不知火には問題ありません。提督にも伝わっているはずです』確かに、ドリフトが伝える不知火の五感に、不調は全くない。それでも提督は、どこか彼女がおかしいと感じていた。 4

2014-10-19 21:03:01
劉度 @arther456

数日前の演習が終わってから、不知火はぼうっとすることが多くなっていた。元々口数は多い方では無いが、黙っていても常に周囲に目を光らせる、そういう少女だったのに、今は何か悪い考えに取り憑かれているようだった。しかしドリフトではその原因となる感情や記憶までは読み取れない。 5

2014-10-19 21:06:15
劉度 @arther456

『ご命令を。不知火を戦わせて下さい』「……うん、分かった。行ってきて」提督が命じると、不知火はすぐに海上へと躍り出た。爆雷を掴み、ソナーで敵潜の位置を割り出し、海中に向かって投げる。数秒後、海中から水柱が吹き上がった。同時に、敵の魔力反応が一つ消える。 6

2014-10-19 21:09:30
劉度 @arther456

『敵潜撃沈』小声で告げて、不知火は次の潜水艦を探す。「焦るな。ヴェールヌイたちもいる」不知火は返事をしない。やはり、おかしい。対潜攻撃の経過よりも、提督は不知火のことを心配していた。彼女は何かに急かされている。しかし、その何かがわからない。 7

2014-10-19 21:12:46
劉度 @arther456

ソナーに反応。不知火は素早く爆雷を取り出す。動きは本当にいつもと変わらない。心配する要素は無いはずだ。だが、悪い予感は得てして当たるものだった。二度目の爆雷投下の後、潜水艦の反応はまだ残っていた。ぬるり、と海中からヨ級が這い出し、不知火に向けて魚雷を撃つ! 8

2014-10-19 21:16:02
劉度 @arther456

「避けろっ!」言われずとも、不知火は動いていた。魚雷を回避し、逆にヨ級に近づく。急速潜行しようとするヨ級の髪を右手で掴んで、持ち上げる。驚くヨ級の赤い目に、高角砲が突きつけられた。『沈め』至近距離から叩きつけられた砲弾が、ヨ級の頭を容赦なく揺さぶった。 9

2014-10-19 21:19:23
劉度 @arther456

彼女の艤装は、他の不知火の艤装とは違う特別製である。とはいっても性能が劇的に向上しているわけではない。ただ、連装砲を片手で撃てるようにしただけだ。結果、2基の砲は背面アームと左手で操られ、そして右手が開く。余った右手はナイフを握るか、今のように敵を捉えるために使われていた。 10

2014-10-19 21:22:39
劉度 @arther456

『沈め……沈め!沈めッ!』不知火が呟く度に砲弾が撃ち込まれ、ヨ級の顔から装甲が、肉がこそげ落ちる。どう見ても不知火が有利だ。しかし、不知火の戦闘に没頭する姿勢は、提督の不安を募らせるだけだった。「……不知火、魚雷ッ!」そして、予感は当たる。 11

2014-10-19 21:25:52
劉度 @arther456

瀕死のヨ級が、腰の魚雷を構えた。提督の叫びで不知火はそれに気付いたが、もう遅い。不知火の視界が、真っ赤な爆炎で覆い尽くされた。続いて提督を襲ったのは、胴体を引き裂かれるかのような激痛。「あぐ……っ!」余りの痛みに、目を見開き、椅子から転げ落ちた。 12

2014-10-19 21:29:25
劉度 @arther456

「提督!」駆け寄ろうとした大淀を手で制す。「大丈夫……!生きてる!」大丈夫ではない。硬い床の感触が無ければ、死んだと錯覚してしまいそうな激痛だ。「不知火、無事!?」呼びかけるが返事はない。一瞬心臓が凍りついたが、不知火の五感は感じ取れる。彼女はまだ、海上にいる。 13

2014-10-19 21:32:42
劉度 @arther456

「利根ちゃん!不知火を助けて!急いで、早く!」『何ッ!?任せよ!』周辺を警戒していた利根が、不知火の所に駆けつける。不知火の視界にも、すぐに驚いている利根の顔が映った。――驚いている?『不知火、お主、これは』不知火の腕が上がる。砲塔を、利根に向け、引き金を引いた。 14

2014-10-19 21:35:56
劉度 @arther456

『ぐうっ!』利根に砲弾が命中!「不知火!?おい、何してる!?」不知火は答えない。聞こえているはずなのに。「止まれ不知火!止まって!」次発装填。次の一撃を利根に向け、撃った。『ちいっ!』しかし今度は利根も避けた。彼女とて歴戦の艦娘である。そうそう直撃弾は貰わない。 15

2014-10-19 21:39:16
劉度 @arther456

『提督!撃つぞ、よいな!』「え……!?」すぐに返事はできなかった。不知火はまるで止まる様子がない。だけど。『ええい!』不知火が更に砲撃を続ける。いよいよ追い詰められた利根は、提督の返事を待たずに撃ち返した。不知火の右肘から先の感覚が吹き飛んだ。 16

2014-10-19 21:42:34
劉度 @arther456

「ッ!」来るべき激痛を予測して、提督は思わず目を瞑る。だけど痛みは来なかった。代わりに霧散していた感覚が寄り集まり、再び右腕の感覚が戻ってくる。『馬鹿な!?』更に利根が砲弾を撃ち込む。胴体、肩、足、頭。いずれも霧散し、通り抜ける。人とはかけ離れた感覚に、吐き気を覚えた。 17

2014-10-19 21:45:56
劉度 @arther456

「……利根ちゃん、逃げろ!」ようやく、提督は命令を出した。『わ、分かった!』利根も攻撃が効かないと分かったのだろう。不知火の砲撃を避けつつ全速力で逃げ出した。不知火も追うが、機関が損傷しているようだ。スピードが足りない。追うのを諦め、その場に佇んだ。 18

2014-10-19 21:49:22
劉度 @arther456

「不知火……」提督が祈るように呼びかけるが、彼女には届かない。おもむろに、彼女は腰のナイフを抜いた。研ぎ澄まされた刀身に、不知火の顔が写る。提督は息を飲んだ。彼女の顔の半分は、蜃気楼のように燃え、霞がかっている。そしてその瞳は、深海の青い輝きを放っていた。 19

2014-10-19 21:52:36
劉度 @arther456

星明かりが『蔵王』を照らしていた。対潜掃討を終え、日が暮れてもなお、船は港へと戻らない。一人の艦娘が、未だに帰ってこないからだ。「うぬう……」偵察に赴いていた晴嵐の報告を受けた利根は唸る。「利根ちゃん、見えた?」「駄目じゃ。隼鷹、お主は?」「こっちもダメだね」 21

2014-10-19 21:55:59
劉度 @arther456

あの後、不知火の姿は見えなくなってしまった。そこから動いたのではない。ドリフトを続けている提督は、それを感じ取っている。ただ、肉眼では確認できなくなってしまった。体全てが霧になってしまったのか、それとも、その名の通り『不知火』になってしまったのか。 22

2014-10-19 22:00:42