「ユーレイ・ダンシング・オン・コンクリート・ハカバ」 #1

B・ボンド&P・モーゼズ作。ネオサイタマを舞台としたサイバーパンク・ニンジャ活劇「ニンジャスレイヤー」の私家翻訳物 詳細はこちら http://togetter.com/li/73867
ニンジャスレイヤー
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Ninja Slayer / ニンジャスレイヤー @NJSLYR
「ユーレイ・ダンシング・オン・コンクリート・ハカバ」
Ninja Slayer / ニンジャスレイヤー @NJSLYR
築数十年の十五平米ファミリーマンション、「ロイヤルペガサス・ネオサイタマ」の薄暗く冷たい和室で、合成綿布のフートンに包まった男が呻き声をあげていた。小さな網戸から忍び込んでくる重金属酸性雨の雨音と雨粒が、部屋に不快な湿気をもたらしている。
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部屋の端には、天井まで積み上げられたUNIXサーバーの群が巨大なハカイシのように聳え、赤と緑のランプをホタルのように明滅させていた。その背後には、ウドンじみたケーブル類が束になっている。砂壁には若い男女と小さな子供が写った写真が額縁に入れられて、何枚も飾られていた。
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男は裸だった。その逞しい肉体は一部が焼け焦げて黒ずみ、無数の傷跡ゆえに、まるで肉体がショウギ盤と化したかのような有様だった。男はひときわ大きな呻き声を喉の奥から搾り出し、苦しげに寝返りを打つ。「安らぎ」と毛筆体でプリントされたフートンが、まるで芋虫のように蠢く。
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「フユコ…! トチノキ…!」彼が妻子の名を呼んだその瞬間、男の全身を覆う傷跡から血が滲み出し、その血は一瞬にして微細繊維状に編み上げられ、赤黒いニンジャ装束へと変わった。男の体は、湿っぽいフートンの中で、一瞬にしてニンジャ装束に包まれたのだ。
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「あの時、あの時、何故俺は……!」男はフートンから右手だけを突き出し、空中で繰り返しチョップをくり出した。あまりの速さに衝撃波が生まれ、砂壁にかけられた額縁のひとつに小さなヒビが入った。
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彼のチョップは、戦車の装甲をもひしゃげさせ、ソウカイ・ニンジャの首さえも一撃でへし折る。だが、今彼が戦っている相手は、肉体を持つ敵や鋼鉄のマシーンではない。彼の頭の中にだけ存在する、己の過去の記憶なのだ。
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ヒビの入った額縁がタタミに落ちて転がった。写真の裏には、「フジキド家の宝」と書いてある。かすかな電子音と重金属酸性雨の雨音に塗りつぶされた暗闇の中で、男はかっと目を見開き、妻子の名を再び呟いた。彼こそはフジキド・ケンジ。今の名は、ニンジャを殺す者、ニンジャスレイヤーであった。
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ズンズンズンズズ、ズンズンズンズズ、ズンズンズンズズ、ズンズンズンズズ。非人間的で無機質なインダストリアル・テクノの重低音が、ジンジャ・クラブ「ヤバイ・オオキイ」から深夜のネオサイタマへと漏れ出してくる。
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クラブのカンバンには、ヨウカンのように黒く真四角なサイバー調サングラスをかけたオイランの絵が描かれいる。サングラス部分は電飾仕様になっており、ミステリアスな薄笑いとともに「毎日楽しい」「実際楽しい」「金曜夜はユーレイ・ナイト」などの刹那的なメッセージを発し続けていた。
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ここは、ネオサイタマ有数の富裕層居住地域「カネモチ・ディストリクト」の八番街。通称「カネモチ8」。平安時代には、丘の上に築かれた厳粛な霊場であったが、現在となってはネオ・カブキチョと並ぶいかがわしい繁華街のひとつへと堕している。
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平安時代から続いたこの由緒正しいジンジャ・カテドラルも、今となっては、虚無的なカネモチ・ディストリクトの象徴と化している。ここは今から数年前に、オムラ・インダストリ系列のアミューズメント会社によって神主ごと買収され、サイバーゴス系クラブ「ヤバイ・オオキイ」へと変わったのだ。
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ライオンの顔がプリントされたTシャツを着込み、威圧的に腕組みしたメキシコ系黒人ゴメスが、サイバー調サングラスをかけてクラブのトリイの前に立っていた。今夜は金曜だ。ユーレイ・ナイトに相応しい格好をしてこなかった愚かな客を追い返すのが、時給五百円でゴメスに与えられた仕事なのである。
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実際、カネモチ8エリアにやってくる客の9割9分は、富裕層ではなく、富裕層と近づきになりたいと考えるカチグミ・ワナビー達だ。そういった連中の中には、暴力をもって何かを強制しないといけない無教養で無軌道な若者が、極めて多いのである。
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「カラテ十三段」「殺人のライセンス」「日本語を理解しない」といった戦慄のメッセージが、ゴメスの顔の半分以上を覆うサイバー調サングラスの液晶面を右から左に流れ、彼の仕事を大いにやりやすくしていた。
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トリイの前に新たなキャブが止まり、不健康そうなユーレイ・ゴスガールが姿を現す。ナチョス・ガムをくちゃくちゃと噛みながら、ゴメスは偉そうに頷き、顎をしゃくってクラブへの入場を促した。簡単な仕事だ。
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しかし次の客の対応は、ゴメスに警察犬のような注意深さを求めた。笠をかぶり、ねずみ色のスーツの上にトレンチコートを羽織った50がらみのサラリマンが、手元のメモを見ながらトリイの前で立ち止まったのだ。その男は、トリイの向こうに聳え立つジンジャ・カテドラルを見て忌々しげに舌打ちする。
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どう見てもクラブの客ではない。日本語のわからないゴメスにも、それは即座に判断できた。では、ネオサイタマ・シティコップの放ったマッポだろうか? そんな連絡は受けていない。よく見ると、笠の下に覗くくたびれた顔は、ほのかに赤く染まっていた。成る程、酒に酔ったサラリマンか。
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ゴメスは逞しい胸板を強調してから、哀れなサラリマンに教え諭すように、サイバー調サングラスの液晶面を指差した。「カラテ十三段」「殺人のライセンス」「日本語がわからない」。まともな相手であれば、これを読んだだけで震え上がり、自分の間違いに気付いて立ち去るだろう。
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「イチタロウの馬鹿め……」しかし、くたびれたサラリマンはそ呟きながらゴメスを無視し、この巨漢の横を素通りして、つかつかとトリイをくぐろうと歩き始めたのだ。ゴメスは丸太のような腕を伸ばしてサラリマンの笠をひっつかんで奪い取り、それを車道に向けてフリスビーのように放り投げた。
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サラリマンは不機嫌そうに振り向く。ゴメスは軽い挨拶とばかりに、野太い右腕でサラリマンの顔面めがけてパンチをくり出した。サイバー調サングラスの液晶面には、まるでこの瞬間を待っていたかのように、偶然にも「ナムアミダブツ」の七文字が光る。
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ゴメスの考えによれば、サラリマンは地面に這いつくばり、そのままゴメスに尻を蹴られてトリイの外に放り出されるはずだった。だが、ゴメスの放ったパンチは空を切り、それどころか、サラリマンがくり出した真のカラテ・パンチによって、彼のサイバー調サングラスは粉々に砕かれてしまったのだ。
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「イヤーッ!」そのサラリマンはトレンチコートを威勢よく脱ぎ捨て、ねずみ色の背広をあらわにして、空中に三発ほどパンチと手刀を叩き込む勇ましいカラテの型を見せた。その背広の腰の辺りには、年季の入ったブラックベルトが巻かれており、この男が真のカラテ使いであることを暗示していた。
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「さて、こんな事をしてしまっては、もう後戻りできんなあ」ひととおりカラテの型を終えると、サラリマンは地面に這いつくばるゴメスの巨体を見下ろしながら、悲壮感に満ちた調子で溜息をつく。「だが何としても、俺はイチタロウを連れて帰るぞお。鼻に輪を括り付けてでも連れ帰ってやる」
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コメント

オスツ🍣 @alohakun 2010年12月4日
「ユーレイ・ダンシング・オン・コンクリート・ハカバ」 #2 http://togetter.com/li/75289