【第三部-十】夕立と由良と偵察機 #見つめる時雨

夕立 由良
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夕立視点

とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

一機の偵察機が頭上を通り過ぎる。あれ?でもここ、寮の敷地内なのに。偵察機の訓練でここまで飛ばしているのかな。…誰のだろう。あたしは興味を惹かれ、後を追ってみることにした。あっちの方向は…工廠っぽい?

2014-12-13 21:35:19
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

冬の空を偵察機が飛んでいく。飛んで捕まえてみようかとも思ったけど、ちょっと高過ぎるっぽい。あ、寮の壁伝いに走って飛べば届くかな。そう思って走りそうとした時、偵察機が寮の建物から離れていった。…あれじゃ無理っぽい。

2014-12-13 21:40:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

ここは工廠の裏?こんなところ来たの初めてかも。…あ、偵察機が降りていったっぽい。あそこに誰かいるのかな。…あれは。

2014-12-13 21:45:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「おかえり」 女のひとがいる。そのひとが空に手を掲げると、偵察機がその手に降りた。そしてそのひとは偵察機の中から出てきた妖精さんに敬礼を返すと、指で妖精さんを撫でた。あのひとは…。 「…由良?」

2014-12-13 21:50:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…由良…偵察機…。この光景、見たことがあるっぽい…?いつ?どこで?…んー…思い出せないっぽい。思い出せないけど、何でだろう、なんだか胸が苦しいような…変な感じがする。…どうして?

2014-12-13 21:55:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…誰かいるの?」 あ、見つかっちゃったっぽい!?とっさに壁の陰に隠れる。…って、もう見つかっちゃったんだから意味ないっぽい…?どうしよう。 「…夕立?」 え…何でわかったんだろう。暗くてよく見えないはずなのに。 「マフラー、見えてる」 あっ。

2014-12-13 22:00:47
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「何かご用かしら?」 「…偵察機が飛んでるの見つけたから、後を追いかけてみたの。そしたら、由良がいた。由良はこんなところで何をしてるの?」 「ん?私はね、ひと待ち」 「こんなところで?」 「うん」

2014-12-13 22:05:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

由良は何だか手作り感のあるベンチに座っていた。由良の隣にはひと一人分のスペースが空いている。まるで、そこに座るひとを待っているかのよう。誰だろう。 「…よかったら座る?」 「え?でも」 「まだ来そうにないし。空いてるのも寂しいから」

2014-12-13 22:10:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

由良の隣に座る。冷たい風が夕立に吹き付けた。 「ここ、寒くない?」 「ん…平気」 そう言いながら由良は両手に息を吐いた。…やっぱり寒そう。 「工廠の中に入ればいいのに。中は暖かいよ、きっと」 「今は邪魔したくないから。いいのよ」 …待ってるひとは工廠の中にいるっぽい?

2014-12-13 22:15:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

そういえば、由良は偵察機で何をしていたんだろう。何か探していたとか。 「由良」 「うん?」 「偵察機で何してたの?」 「ああ、これ?…ううん、特に意味はないわ。退屈しのぎ」 「…そうなの?」 変な由良。

2014-12-13 22:20:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「くしゅんっ…」 由良がくしゃみをする。何だか気温が下がってきたっぽい。このままだと由良、風邪引いちゃう。…そうだ。これがあった。 「由良、夕立のマフラー貸してあげる」 「え?」 首からそれを解き、由良に巻いた。

2014-12-13 22:25:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「どう?暖かい?」 「…うん、暖かいよ。ありがとう」 「よかった」 自然と笑みがこみ上げてきた。夕立が笑うと、由良も一緒に微笑んでくれた。ふふ、何だか嬉しい。首元はスースーするけど、温かい。不思議。

2014-12-13 22:30:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

由良の手が伸びてきた。その手は夕立の頭に置かれ、柔らかな感触が伝わってきた。…気持ちいい。由良、撫でるの上手。時雨みたい。…でも、何でだろう。やっぱり少しモヤモヤするっぽい。…原因は由良?夕立、由良のことで何か大切なことを忘れてるような…。

2014-12-13 22:35:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「由良、お待たせ」 工廠の裏口が開き、中から夕張が出てきた。由良が待っていたのって、夕張だったんだ。 「お疲れさま。もう終わったの?」 「うん。寒かったでしょ、ごめんね。…あれ、夕立。どうしたの?」 「私の偵察機が気になって付いてきちゃったの」 「え?偵察機?」

2014-12-13 22:40:19
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「夕立、私はこれで失礼するわね。マフラーありがと。今度お礼するね」 由良はマフラーを夕立の首に巻いてくれた。そしてベンチから立ち上がる。…その瞬間、あたしは由良の手を握った。…あれ?どうして? 「…夕立?」 「あっ…」 あたしは、手を離した。

2014-12-13 22:45:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

一瞬、由良が悲しそうな顔をした。けれどそれは次の瞬間には元に戻っていた。でも、もしかしたら見間違いだったのかもしれない。一瞬だったし、何でそんな顔をするのか夕立には心当たりがないから。 「…じゃあね、夕立。冷えないうちに戻った方がいいよ。…おやすみ」 「…うん、おやすみ」――

2014-12-13 22:50:22