意識の低い就活生花宮のバスケ(下)

木吉と共闘した結果がコレかよ。
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意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

レフェリータイムに周囲が響めく。 「…デコ丸出しにしてっからだ、バァカ」 「まだ頭は回るよ」 「回ってんのは目だ。引っ込んでろ」 ウチは洛山や誠凛のような捨て駒勝法はやってねぇ。このまま勝たせるのもシャクだが、瀬戸を消費してまで勝とうとは思えなかった。 「…木吉、包帯。得意だろ」

2014-12-16 16:40:10

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意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

イラつく。何もかも。灰崎も谷村も。ヘラヘラ笑う木吉も。 SGのパスを呼ぶ声は無視した。さっきお前が入れてればな…! ティアドロップを打っちまった。 しまった、と思った時にはボールは大きく弧を描いていた。リングに当たり無様な音を立てた。が、無事ゴールに収まった。ブザービーターだ。

2014-12-16 16:45:03
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

どういうことだ。“強奪”は敵の得意技を牽制するために流していたただの噂だったのか…? 「入った…だと…?」 当の灰崎もまた困惑の表情を浮かべている。そのセンはなさそうだ。だが、確かに灰崎版ティアドロップには嫌な既視感があった。一体なぜ……そうか!(テコリン!) でかしたぜ、原。

2014-12-16 16:50:12
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

ハーフタイム。2階席に向かって声をかけた。 「原ー! 練習んときのコール、あといくつできる」 「ダテに飲みサー渡り歩いてないよ。50はヨユー!」 「ふはっ、上出来だ。シュートのたびに違うのやれ。オレに聞こえるくらい大声でな!」 原は一瞬ぽかんとした顔をした後、口の端をつり上げた。

2014-12-16 16:55:07
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

強奪のタネは“わずか”にズラしたテンポ。敵が模倣した技のリズムを我流に変えて惑わせてくるなら、ハナから本来のリズムで打たなきゃいい。灰崎がマネたのは原の手拍子に合わせて打ったティアドロップだ。それをさらにアレンジすれば本来のリズムからかけ離れるため、見ても影響が少ない。

2014-12-16 17:00:14
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

38-26(点の入らねぇ試合だ)で迎えた第3Q。強奪回避法が解った今ならひっくり返せる。ガン飛ばす灰崎を煽ってやった。 「技を奪うだったっけ? 嘘だったんだ! 騙されたなぁ」 「ウソじゃねぇ!! いつもはオレのもんなんだよ!」 いーぜ、瀬戸がいない分、その調子で攻撃を単調にしろ。

2014-12-16 17:05:07
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

「いい男!いい男!ホントはどうでもいい男!」「姫に捧げるレフェリータイム!」原のチョイスに毎回イラッとしながらも作戦は概ね成功だ。かなり感覚が麻痺してきたが、あと何発かは保つだろ。 54-44。巣(DF)を解き、武器(OF)ができたことで、試合展開は点の取り合いへと様変わりした。

2014-12-16 17:10:10
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

「技も残ってんのに大したことねぇなァ?」 こうなるとこっちが不利だ。 「ふはっ、そりゃそうだ。オレはとっくにバスケ辞めてんだよ。真面目に頑張ってるお前と違ってな」 4Qで逆転するにはここで死んでもらうぜ! 灰崎の足を踏みつけた。 「実力落ちてないのは何でかなぁ?」 「テメ…!」

2014-12-16 17:15:08
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

踏んでいた灰崎の足がオレの膝裏を蹴り上げた。すかさずサッカーのように大げさに痛がって抗議するが審判は聞き入れない。 「花宮、」 「演技だ。無意味だったがな」 ベンチから立ち上がろうとする瀬戸を制し、谷村へ視線を移した。ドヤ顔ウゼェ。 「成程。部費に余裕あるときオレらもやってたね」

2014-12-16 17:20:22

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意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

コートに戻る間際、瀬戸に呼び止められた。 「もしかしてオレに遠慮してる?」 「…はぁ? 何がだよ」 「違うならいいよ。…切れる札は切るべきだ、ってこと」 オレもお前がいいならいいが。 瀬戸は固めていた髪を雑な手つきで乱した。 「いつも不幸と共にある、それが花宮のバスケだろ」

2014-12-16 17:25:06
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

「もうやめてくれないか」 最後のインターバル。遂に木吉が苦言を呈した。 「灰崎相手に善戦してくれてるのは感謝する。皆は向こうがラフプレーを仕掛けてきたと思ってるが、先にお前が…」 木吉は離れた所にいる部員達を見た。 「オイオイ、偏見で物を言うのは良くないぜ」 「灰崎は危険な男だ」

2014-12-16 17:30:12
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

「さっきのように平気でやり返してくる。これはお前のために言ってるんだ、花宮」 「ふはっ、じゃあお前が止めろよ。出ろ、木吉」 「…オレはマネージャーだぞ?」 「凡人に消費されんの、趣味なんだろ。クリスマスプレゼントに車椅子買ってやるよ。それともアメリカ行きの航空券の方がいいかな?」

2014-12-16 17:35:09
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

わかった、と木吉はオレを見た。 「花宮はオレが守る」 「…ムリすんな、バカ」 「この膝か? 少しくらいなら大丈夫さ。高価な物はもらえないよ」 嫌みの通じない奴め。 「違ぇよ。精神的に、だ。ふはっ、動いてないのに汗すげぇぞ」 「これは武者震いならぬ武者汗だ。…そんなに笑うなよ」

2014-12-16 17:40:11

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意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

とうとう限界か。踏み切るタイミングが、リズムが、ワケわかんねぇ。クソッ、中に使える奴が入って一桁差まで追いついたってときに。 「やっとオレのもんになったか」 「オレのもんとか何とか男相手にキモいんだよ」 一発入れてやろうとしたら木吉に髪を引っ張られた。 「花宮、髪切ったか?」

2014-12-16 17:45:05
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

「切ったんじゃねぇ、伸びてきたのさ!」 離せ。オレがヅラだったらどーしてくれんだよ。 手のデカさは模倣しようがねぇから、後出しの権利は奪われる恐れがない。他の雑魚達は言わずもがな、こん中じゃマシな動きをしてた谷村もバテてきた。インサイド中心に得点を重ね、1ゴール差まで追いすがる。

2014-12-16 17:50:08
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

残り10、9、8…時間がねぇ。そのままドライブで突っ込みジャンプ。ボールを放る。 「そりゃもうオレのもんつったろ! 入んねェよ!」 「ふはっ、だからどうした」 ボールはバックボードに当たって跳ね返った。 「決めろよ、木吉!」 「任せろ!」 木吉の手がボールをゴールに押し込んだ。

2014-12-16 17:55:05
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

同点…! あと1ゴール…! 急げ。4、3… 谷村のパスをスティールしたところで試合終了のブザーが鳴った。時間切れだ。 「クソッ…」 延長か。木吉の膝マジで爆発すんじゃね? 1µmだけ潰したことを後悔した。 「お前この後もつ?」 「勝敗は今までのゴールアベレージで決まる。つまり、」

2014-12-16 18:00:29
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

「引き分けだ」 何ともヌルい幕引きだ。挨拶を終えるとどっと疲れが出た。 ベンチをふり返ると部員達が駆け寄ってきた。「花宮すごすぎ!」「木吉も何でマネやってんだよ!」「全国レベルの試合じゃん」“やっぱ花宮すげぇ!”を示すという当初の目的は果たせたし、まぁいいか。 「ふはっ、当然」

2014-12-16 18:05:06
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

釈然としない表情でガンつけてくる灰崎と目を合わせた。勝負には勝った。上々だろ。んべっ。 「悪役っつーのはもっと楽しく演るもんだぜ、ハイザキ君?」

2014-12-16 18:10:10

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意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

瀬戸の様子を見に医務室に寄ろうとしたところ、木吉に腕を引っ張られた。 「花宮。蹴られたところ、見せてみろ」 「大したことねぇよ。触んな」 「いいから」 無理やり手を引かれ更衣室に連れ戻された。静かな部屋では窓を叩く雨の音が煩い。

2014-12-16 18:25:08
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

オレをベンチに座らせ、木吉はその前に屈んだ。 「お前のバスケは好かん。だけど、」 慣れた手つきでオレの足にテープを巻き付けていく。 「今日は花宮を呼んできて良かったと思ったよ」 オレの左膝を撫でながら木吉は笑った。

2014-12-16 18:30:15