木下闇

twitter上の創作企画「空想の街・灯りの樹の夜」参加作品のまとめです。
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十浦 圭 @ueto_rika

「一列全部?」「そうよう!」眉を潜めた久遠に勢い込んで店主が頷く。「8個よ8個!勘弁してって感じよねえ」「誰が落としたかとかは…」「見てないのよ。見つけたら教えてちょうだいね、ぶちのめしてやるんだから」意気込む彼女に息を吐いて、黙ったままの隣の青年を見る。 #空想の街 #木下闇

2014-12-13 12:55:10
十浦 圭 @ueto_rika

いきり立つ店主を適当に宥めて、二人は店を出た。シズクは何も言わない。何を考えているのかも、いまいちよく分からない。「…何か思いついたんですか?」じろり、と少々険を込めて見れば、ぼんやりと視線がそれに答える。「…一列を一斉にというのは人間にはやや厳しいな」 #空想の街 #木下闇

2014-12-13 12:57:56
十浦 圭 @ueto_rika

「え?」「人間の腕じゃあ、一列全部を一斉に落とすのは無理だろう。やるなら一つずつ順番になる」なるほど。手で落とす仕草をしながら、久遠は納得した。同時に何も考えていないのでは、などと思ったことを少し恥じる。「次のお店はどこですか」「西区だな」「了解」 #空想の街 #木下闇

2014-12-13 13:02:58
十浦 圭 @ueto_rika

二店目、西区の真ん中にあるその店はこじんまりとした、北欧の品の良い店だった。おもちゃのような外観を久遠はいいな、と思った。あまり話すのが得意でないらしい男の店主は二人を前に小さくその時のことを語った。「うちの灯りの実は、陶器なので、全て割れてしまいました」 #空想の街 #木下闇

2014-12-13 13:24:10
十浦 圭 @ueto_rika

「犯人の姿は見ましたか?」久遠の質問に、言葉に詰まりながら彼は姿は見ていない、と時間をかけて説明した。「その代り、その、これが」差し出されたものは小さく、久遠はまじまじと見つめた。細い小さな動物の毛。「なんだろう…?」「猫だ」黙っていたシズクがふいに言った。 #空想の街 #木下闇

2014-12-13 13:56:42
空想の街公式アカウント @humptyhumtpy

雨もすっかり上がりきれいな空になりました。オーナメントコンテストに参加された皆さん、お疲れ様でした。明日は灯りの樹の夜に相応しく、一日ずっと晴天のようです。たくさんのオーナメントが今から楽しみです!(情報窓口:堂坂みかこ) #空想の街

2014-12-13 17:00:50

3日目

空想の街公式アカウント @humptyhumtpy

おはようございます。初霜の朝です。ゆうべの流星群はご覧になりましたか?星が霜を連れてきたみたいですね。本日は1日すっきりした晴れ模様のようです。今夜もさむくなりそうです。夜間お出かけの方は特にあたたかくしてくださいね。それでは、いってらっしゃい。(情報窓口:佐々木類) #空想の街

2014-12-14 08:30:40
十浦 圭 @ueto_rika

二日ぶりの晴天の下、久遠は時計塔広場で立っていた。13時、時計塔をちらりと見上げて時間を確認する。寒さに冷えた指を腕に抱き込む。待ち合わせは苦手だった。じりじりとシズクを待つ久遠の前を、楽し気な雰囲気の人々が歩いていく。ちらり、と時計を再び確認する。 #空想の街 #木下闇

2014-12-18 12:51:05
十浦 圭 @ueto_rika

昨日待ち合わせた時は遅刻するタイプには見えなかったが、何かあったのだろうか。13時5分を過ぎた時計にそわそわと踵を浮かせる。寒い、と溜息をつきかけて、広場の向こうからこちらへ向かってくるキャスケットの少年に久遠は気が付いた。ぱちり、と目が合う。 #空想の街 #木下闇

2014-12-18 12:53:33
十浦 圭 @ueto_rika

「こんにちは!お姉さんが北島久遠さん?」くるっとした目で見上げられて久遠はたじろいだ。小さな子供は密かに苦手だ。「そうだけど…君は?」「僕は悟。孔雀荘の仲居見習いだよ。シズクさんに頼まれて来たんだ!」少し遅れるから喫茶店に案内して欲しいって! #空想の街 #木下闇

2014-12-18 12:56:12
十浦 圭 @ueto_rika

「そうなんだ。ありがとう」頷いて隣を歩き出せば、悟は無邪気に久遠に笑いかけた。「お姉さんは街の住人さん?孔雀荘は来たことないよね」「うん、残念ながら」噂に聞いたことくらいはあるものの、自分の地元の宿屋に泊る機会などない。そうかあ、と残念そうに悟が言う。 #空想の街 #木下闇

2014-12-18 12:59:41
十浦 圭 @ueto_rika

それっきり会話が途絶えてしまって、久遠は焦った。シズクのような無口な人との沈黙は気にならないのに、こうして明るい態度の人が相手になると途端に困ってしまう。「そういえば、」ぐるぐると考えながら一番最初に思い出した単語を久遠は口にした。「孔雀荘は妖怪の宿だって」 #空想の街 #木下闇

2014-12-18 13:04:40
十浦 圭 @ueto_rika

偏見は嫌いだ、けれど、意識すればするほど相手を特別視してしまうことも、久遠は自覚していた。隣の少年が急に得体のしれないものに思えてきて、そう思う自分が嫌で久遠は小さく動揺した。「…心が読めるのは、仲居には便利そう、だね」自分から振った癖にぎこちない返答。 #空想の街 #木下闇

2014-12-18 13:15:41
十浦 圭 @ueto_rika

「うーん」苦笑した悟がこつん、と石畳を蹴る。「心の声が聞こえるのは、そりゃ聞こえないよりは便利だけど、別に全部いいことじゃないよ」小さく俯いてしまった表情は、久遠からは見えなくて、「昨日だって、あの人、悲しがらせちゃったし」けれど落ちた声はしょげていた。 #空想の街 #木下闇

2014-12-18 13:20:09
十浦 圭 @ueto_rika

それが途方にくれた子供のような声で、ぎくりと自分の肩が強張るのを久遠は感じた。「誰も悲しくない世界になればいいのになあ」寂しそうにぼやく声は深刻そうなものではなくて、それでも確かに嘆く響きを持っている。久遠の中にあるものと、そっくり似た嘆き。 #空想の街 #木下闇

2014-12-18 13:22:44
十浦 圭 @ueto_rika

「悟くん、」「人間って難しいね」慰めなければ、と掛けようとした声に被せてぱちぱちと丸い瞳が自分を見上げて、久遠は黙った。澄んだ瞳は深くて、なのに悲壮さはなくて、確かに共感したはずなのに、嘆きの影を見失って戸惑う。「人間にも、人間は難しいよ」 #空想の街 #木下闇

2014-12-18 13:26:38
十浦 圭 @ueto_rika

ぽつりと本音が落ちて、その呟きにさえも、そうかあ、と残念そうな悟に、久遠はなんだかよく分からないような気持ちになる。はぐらかされたようなもやりとした気持ちを持て余しかけて、ふと気が付く。孔雀荘の住人だということは、シズクも人ではないのだろうか。 #空想の街 #木下闇

2014-12-18 13:28:55
十浦 圭 @ueto_rika

「着いたよー」小さな手が前を指さして、久遠ははっと顔を上げた。こじんまりとした雰囲気の落ち着いた喫茶店は、見かけたことはあるものの入ったことはない。「馬頭琴…」「すぐ来るからここで待っててって」「悟くんは?」「僕は仕事があるし!」胸を張る少年は素直に可愛い。 #空想の街 #木下闇

2014-12-18 13:35:00
十浦 圭 @ueto_rika

「案内ありがとう。助かったよ」小さく笑って言えば、悟は嬉しそうに笑った。「ううん、こちらこそ。探偵さん頑張ってね」よければ遊びに来てね、と言いながら元気よく走って行く背中を見送る。宿屋に行くことはないだろうし、まだ少し怖いけれど、彼のことは好きだなと思った。 #空想の街 #木下闇

2014-12-18 13:43:31
十浦 圭 @ueto_rika

扉を押し開けると静かな音楽が耳に滑り込んでくる。店内は木調の落ち着いた雰囲気で、久遠は少し緊張していた気分が上向くのを感じた。喫茶店の多いこの街で、お気に入りの店を見つけるのは実はなかなか大変だ。 #空想の街 #木下闇 #喫茶馬頭琴

2014-12-18 13:50:47
十浦 圭 @ueto_rika

寒い外からあたたかい店内に入ってふう、と息を吐いた久遠に、いらっしゃい、と落ち着いた声がかけられる。どうも、と軽く頭を下げかけて、久遠は硬直した。カウンター内でシェイカーの頭の男?がこちらに向かって?首を傾げていた。 #空想の街 #木下闇 #喫茶馬頭琴

2014-12-18 13:53:18
十浦 圭 @ueto_rika

「初めてのお客さまですね。お好きな席にどうぞ」穏やかな声に促され、茫然としたまま椅子につく。置かれていたメニューを手に取って、久遠は再びカウンターを横目で見た。何度見ても変わらない。シェイカーの硝子面が柔らかな照明にてらりと光っている。 #空想の街 #木下闇 #喫茶馬頭琴

2014-12-18 13:58:48
十浦 圭 @ueto_rika

まじまじと眺めかけて、ハッと視線を戻す。じわりと自己嫌悪が滲んできて、それでも数分後には視線はカウンターへ引き寄せられてしまう。戸惑いや好奇心や、ほんの少しの怖さに、ふいに扉の音が割り込む。3度目を往復しかけた視線がハッとそちらへ向いた。 #空想の街 #木下闇 #喫茶馬頭琴

2014-12-18 14:03:01
十浦 圭 @ueto_rika

「いらっしゃいませ」「…どうも」カウンターに向けて紫紺の髪が揺れる。待ち人の到来に、久遠は隠れるように丸まりかけていた背をハッと伸ばした。「待たせて悪い」「いえ」というか、他に謝ることがある気がするのだが。待ち合わせをここに指定したこととか。 #空想の街 #木下闇 #喫茶馬頭琴

2014-12-18 14:05:10