【1】 彼女と並んで歩く帰り道。 他愛のない会話。 話すのはいつも僕の方で。 彼女はやや俯き加減に、それでも前を向いて、ゆっくりと歩きながら時折頷く。 彼女はあまりこちらを見ない。
2014-12-30 22:53:56【3】 いや、眼鏡を否定しているわけではない。ないのだ。 眼鏡はいい。眼鏡。 タイムマシンがあったらコンタクトレンズを開発した奴を殴りに行きたいくらいだ。ビバ眼鏡。
2014-12-30 22:54:41【4】 そんな眼鏡の彼女も勿論サイコーなんだけど、横顔もいいのだ。 横顔でも眼鏡は見えるしな。 それはそれとして、他愛のない会話をする振りをしつつ、僕はかなり緊張していた。
2014-12-30 22:55:08【5】 笑顔で話しながらも視線は狩人のそれ。 狙いはそう、やや大きめのカーディガンから覗く彼女の細い手だ。 付き合い始めてどれくらい経ったってほどの日数は経過してないが、そろそろ手くらい繋ぎたいじゃないですか。
2014-12-30 22:55:48【6】 そんなことを思い始めて数日。 連戦連敗である。 今日こそなんとか手を繋ぎたい。 よし、いまだ。 さりげなく手を繋ごうと僕は手を伸ばす。
2014-12-30 22:56:18【10】 “ヤツ”も攻勢が止んだと思ったに違いない、そんな刹那に最後のトライ! よっしゃ繋げる! と、勝利を確信したその時だった。 彼女の手があり得ない速度で閃き、僕の手を払いのけた。
2014-12-30 22:58:52【11】 「あー、もう!」 僕と彼女の間には越えるべき壁がある。 それが“ヤツ”だった。 『貴様なぞが御嬢様の手に触れられると思うなよ!』
2014-12-30 22:59:31【12】 ソレは彼女の声ではない。 が、明らかに僕に話しかけているその声の主は、 『馬鹿者めが!』 彼女の着ている薄手のカーディガンだった。 意思を持つ喋るカーディガン。
2014-12-30 23:00:06【13】 嘘のようなホントの話である。 まあこれくらいで驚いていては彼女とは付き合えない。 「お前ね、いい加減邪魔するのやめろよ」 『我は御嬢様の守護者である。御嬢様に群がる有象無象を排除するのが我が使命よ』
2014-12-30 23:00:33【15】 「だから避けるなっつーの!」 『避けるわ。汚らわしい』 不思議そうに僕とカーディガンのやりとりを見ている彼女。 カーディガンのガーディアンに護られた僕の彼女は、魔女なのだ。 この見目麗しい魔女とより親密になるには、薄手のくせにやたら分厚い壁を越える必要があるのだった。
2014-12-30 23:02:58