#リプきた単語で三題噺 「ふなっしー」「二郎」「海水浴」

3作目
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ネッシー @0ZaALZilA

つーわけで投下。お題は「ふなっしー」「二郎」「海水浴」 #リプきた単語で三題噺

2014-11-04 23:20:20
ネッシー @0ZaALZilA

「余命は…3日ってところでしょうか」 「そんな、何とかならないんですか?」 「これが精一杯です。本当なら明日にでも…」 「うっ、ううっ…」 ☆ 「お父さん…どうしたの?」 「いや、何でもない」 都会から離れた――包み隠さず言えば田舎で――この子を育ててきた。

2014-11-04 23:20:49
ネッシー @0ZaALZilA

本人のためを思ってやってきたのだが。 分かっていたこととはいえ、つらい。 「明日、どこか行こうか」 「え…?」 「行きたいところどこへでも連れて行くし、食べたいもの何でも食べていいぞ!」 私にできることと言えば、これくらいだ。 短くも濃密な時間をくれた、せめてもの恩返しを。

2014-11-04 23:21:15
ネッシー @0ZaALZilA

「ほんと!? じゃあ、僕、海水浴行きたい!」 どちらかと言うと山が近いので、海にはとんと縁がなかった。 まだ、時期的にも海に入って大丈夫なはずだ。 「あと、ふなっしーに会いたい!」

2014-11-04 23:21:53
ネッシー @0ZaALZilA

この子はふなっしーを見たこと自体はないはずだ。テレビも置いてない。妻がファンなので、それで知ったのだろう。確か明日あたりに近くでイベントがあるから、午前中に海水浴をすればそれで何とか―― 「それとねそれとね、二郎食べに行きたい!」 …え?

2014-11-04 23:22:30
ネッシー @0ZaALZilA

「じ…二郎?」 「父さんのお友達?が言ってたよ。とっても美味しい食べ物だって!麺、もやし、チャーシュー…でよかったっけ?」 ☆ …参った。 海水浴、ふなっしー、二郎。 残り時間からしても、距離からしても、この3つをきちんとした形でこなすのは不可能だ。

2014-11-04 23:23:14
ネッシー @0ZaALZilA

ということで、私が考えた苦肉の策。 『海で、ふなっしーの着ぐるみを着た私が、二郎を作る』 笑わば笑え。これしか方法がないのだ。 着ぐるみは、妻のふなっしー好きが高じて、作成されたものだ。サイズがちょっと小さいが、仕方がない。

2014-11-04 23:23:42
ネッシー @0ZaALZilA

二郎は、市販の太麺とスープ、もやし、チャーシューを購入。おそらくこれで二郎になるはずだ。多分、きっと。…正直、二郎を与えるのは気が進まない。だって、あの子は… 「父さん、こっちこっち!」 「ははっ、あんまり遠くへ行っちゃダメだぞ」 幸い、海水浴は楽しんでくれている。

2014-11-04 23:24:11
ネッシー @0ZaALZilA

シーズンを外れているため、ちょっとしたプライベートビーチだ。 「ちょっと待ってろ、父さんな、お前に会わせたい人がいるんだ」 「えっ?もしかして…」 岩陰に隠れ、ささっと着ぐるみを装着する。なんだか、歩きにくいし、前も見えない。 ええい、ままよ。

2014-11-04 23:24:42
ネッシー @0ZaALZilA

元の場所に駆け寄り、喉を痛めんばかりの高音で叫ぶ。 「ふなっしーだなっしー!」 ビリッ 「…」 「…」 ふなっしーの背中から、私の顔が覗いてる。 気まずい沈黙。

2014-11-04 23:25:06
ネッシー @0ZaALZilA

「父さんは…ふなっしーだったんだね!」 そう来たか。 「あ、ああ!そうだとも!ばれちゃあ仕方ないな!はっはっは!じゃあ、最後の約束の二郎だ」 丼になみなみと注がれるスープ、浸る麺、そして山盛りのもやしとチャーシュー。

2014-11-04 23:25:53
ネッシー @0ZaALZilA

基本的に茹でて盛り付けるだけなので、そんなに手間はかからなかった。 「わあ、おいしそう!」 がつがつがつがつ、貪り喰う。 机など準備する余裕がなく、砂浜に直に丼を置く形だが、衆目を気にする必要はない。 ここまで喜んでくれたのだから、私も苦労した甲斐があった。

2014-11-04 23:26:14
ネッシー @0ZaALZilA

彼にとってこれが――最後の晩餐になるだろう、と、ふと我に帰る。 「うっ、うっうっ…」 「父さん、どうしたの?」 罪悪感で、涙があふれ出す。あの子を、真実を伝えないまま送りだすことが、急に怖くなって。 「ごめんな、ごめんな…」 「と、父さん?」

2014-11-04 23:26:36
ネッシー @0ZaALZilA

言ってしまうべきだろうか。全てを教えるべきだろうか。 いや、ダメだ。それは私がつらい思いをしたくないからというエゴに過ぎない。 私のエゴに、この子を巻き込んではいけない。 「父さん、僕、もう長くないんでしょ?」 「し、知ってたのか…?」

2014-11-04 23:27:13
ネッシー @0ZaALZilA

「なんとなく、そんな気がしてたんだ。家族みんなそうだったみたいだし」 「ううう…」 「でも、大丈夫だよ。いつかこんな日が来る気がしてたから」 涙で良く見えなかったけど。 あの子は、最後まで微笑んで見えて。 「ありがとう、お父さん」 ☆

2014-11-04 23:27:37
ネッシー @0ZaALZilA

「本当にいいのかい?」 「ええ、彼も満足そうでした」 「でも、不思議だねえ。飼料に気を配ってないのに最高級ブランドの豚肉になるなんて」 「生まれてから出荷されるまでストレスを感じさせないから、ですよ。私は豚の言葉がわかりますからね。語りかけることもできる」

2014-11-04 23:28:15
ネッシー @0ZaALZilA

「いっつも言うけど、それ本当かねえ。だとしたら、手塩にかけて育てた子供が喰われちまうようなもんだろ?」 「…正直言って、まだ慣れません。でも、逆に、彼らが食べられるしかないのなら、それが運命なら、それまでは全力で生を謳歌してほしいんです」 「ほぉん…。おっと、そろそろ時間だ」

2014-11-04 23:28:43
ネッシー @0ZaALZilA

☆ 「豚の言葉が分かる、ですか」 「ああ、ホントのことか知ったこっちゃないがな」 「で、俺達がお出迎えしたこの最高級豚はどこに行くんです?」 「相当の上物だからな…例えば、銀座の高級料亭のしゃぶしゃぶはこの豚肉だ。何でも、瀬戸内海の塩と昆布の出汁が絶品だとか」 「いいっすねえ」

2014-11-04 23:29:17
ネッシー @0ZaALZilA

「あとは、山梨県のイベントでふなっしーが食べるそうだぞ」 「マジッすか」 「山梨の梨をソースにして、宣伝するんだそうで」 「梨と豚肉、どっちが主役かわかんないっすね」 「全くだ」 「あーあ、一度でいいから食べてみたいっすよ。最高級のブランド肉」

2014-11-04 23:29:39
ネッシー @0ZaALZilA

「俺たち庶民じゃ手が届かねえよ。二郎で我慢しとけ」

2014-11-04 23:29:55