- sizuoka074
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その日、俺の最初の仕事は大本営あてに抗議の電文を送ることだった。文面は考えるまでもない。『NUTS』だ。これは第二次大戦中、アルデンヌの森で間抜けにも包囲されたクソアメリカ人が送ったものを真似させてもらった。毛唐にしちゃあ肝の据わったやつだが、陸のセイウチ連中のことはまあいい。
2015-01-23 00:18:09重要なのは昨日のことだ。W島攻略作戦。さて、あんた達も見てたはずだが、そこに俺と龍田がいたように見えたか?もちろんそうじゃなかったはずだ。よって俺には脳味噌の代わりにココナッツの汁がたっぷりつまった大本営のファッキンナッツに「クソが!」と言うだけの権利がある。異論はないはずだ。
2015-01-23 00:20:38「天龍が秘書室にいるなんて珍しいっぽい」「ひょっとして仕事ぉー?鬼怒もお手伝いするよぉ?」「わたしを頼っていいんだからね!」「ハラショー。人民による決断的革命」世界水準を遙かに超えたバカ共は執務室でお遊戯にいそしんでいる。俺にはそんな暇はない。優秀さが世界水準だからだ。
2015-01-23 00:24:07しかしそんな俺がいまだアニメでまともに活躍していないのは世界水準で見てもおかしい。繰り返して言うが抗議は妥当だ。古めかしいファックスの操作パネルを叩き、ディオメディア社に先ほどの電文を送りつける。世界水準でできる女は気遣いも忘れない。『いつもお疲れ様だな』と添えてやった。
2015-01-23 00:27:25これで来週あたり、俺が大活躍するのは間違いない。世界水準を遙かに超えたアニメになるはずだ。「電の本気を見るのです!」「ハラショー。ドロフォー」「ドロフォーだクマ」「ドロフォーだニャー」バカ共はまだお遊戯にいそしんでいる。混ざりたい気持ちも少しはあったが、格好良く去ることにした。
2015-01-23 00:30:17「グッモーニン天龍!今日もナイスデイネ!」途中、紅茶野郎とすれ違った。途端に憂鬱さと頭痛がぶり返してくる。先日の次回予告を思い出したのだ。ありゃひどかった。ただでさえ薄い立場が文字通り影も形もなくなってたのも思い出しくない事案だ。唇を舐めたが、食い慣れないボーキの味がする。
2015-01-23 00:33:23黒蜜をかけても食えない味だ。「今日のフィールド・プラクティスはどうするネ?」「出るに決まってるだろ」「オー!一発でK.Oするのが楽しみデース!」「ほざきやがれ。夜戦カットインでラバウルまでケツをすっ飛ばしてやる」「吠えるといいデス、ビーッチ!」
2015-01-23 00:36:40お互いに中指を立て、さっさと別れる。夜戦の許可は出るだろうか。最近は鉄が減ってるし、ここで経験値を稼ごうとか言っておけばなんとかなるかもしれないが、取りあえず提督に釘は刺しておいたほうがいいかもしれない。あの若作りのババアに負けると、後でネチネチ言われるからだ。
2015-01-23 00:41:05鎮守府の中で艦娘がたむろすところはだいたい限られてるもんだ。今日もドックは西部が優勝した後の西友みたいな有様だった。ざっとみて40を超える艦がたいした用もないくせにハンガー付近に集まって、今朝食った飯の話や昨夜見たアニメの話をあれやこれやとしゃべくりながら補給活動に精を出している
2015-01-23 00:48:12「なんや、天龍も補給なん?」「よお天龍。相変わらずええ乳しとるなあ」なんとなくドックを見回してると、黒潮と龍驤に捕まった。彼女達は新鮮な海の幸が含まれた大阪名物を補給しているところだった。「てめぇらと一緒にすんな。改修に出してた俺の魚雷を見に来たんだよ」
2015-01-23 00:52:09「そんなこと言ってうちと補給したがってるんちゃう?」「やらしいなあほんま」ゲラゲラ笑いながら二人は持ち込んだ鉄板で補給物資を増産していた。アニメしか見てない連中がこの様子を見たら悲鳴を上げて卒倒するかもしれないが現実はこんなものだ。
2015-01-23 00:55:25「そんで補給はせぇへんの」「せやせや。今ならおまけしとくで」慣れた手つきで串をあやつり、黒潮が補給物資をひっくり返す。ドック内の換気扇が生み出す風にあおられ、サバ科の大型魚を加熱乾燥させたものの香りが鼻先をくすぐる。嗅いだやつの胃袋を際限なく痛めつける、そんな匂いだ。
2015-01-23 00:59:23俺は欲望に従うことにした。「10個くれ」「ええで。百万円な」「金取るのかよ」「なに言うとるん。うちらは浪速の商人やで」「もうかりまっかーってなやつや」にしし、と歯を見せて二人が笑う。このまま金を出すのは癪に感じた。
2015-01-23 01:03:22「ほらよ、五百万円だ」「まいどありぃ」「ほな、こいつはおまけやで」10個入りの補給物資に、龍驤が串を突っ込む。八腕形上目生物の脚部の切れ端一本分が、こいつらの言うおまけらしい。
2015-01-23 01:06:40「それで、明石はどこなんだよ」補給物資の熱量に悪戦苦闘しながら尋ねると、「明石ならあっち行きよったで」と龍驤。「せや。たこ焼きみせよったら不機嫌な顔して逃げよったんや」と、黒潮。どうやら明石はこいつらとは食の文化が違うらしい。小さな戦争の匂いがした。
2015-01-23 01:10:51「あっちってのはどっちだ」「それなんやけどな、ここだけの話」と龍驤。「ここだけの話、なんだよ」「一昨日のアニメ、うちら全然でぇへんかったやん。それでうちら大本営に『いわすぞ』って電文おくったんやけど、それに返事が返ってきおってな」「せやせや。それが傑作やって」
2015-01-23 01:13:52「もう小屋やったらツカミばっちりって感じやったんやで。なあ龍驤」「せやな。知らんけど」「また言ってるでこいつ!まあうちもほんとは知らんけど」「知らんのかい!」「まあこないなことしててもお客さん帰ってまうからここで話戻さんのやけど」「戻さないんかい!」
2015-01-23 01:15:48二人は俺を無視して芸を磨くことにしたらしい。もはや俺の言葉は7.7mm機銃ほどの防空効果も認められないことは明らかだった。見なかったことにしてその場を立ち去る。なお、補給物資の品質はかなりのもんだったと追記しておく。
2015-01-23 01:18:09「あら、天龍さんも補給ですか?」あっちという漫才コンビの言葉に従い、再びドックをぶらついてると、またぞろ似たような言葉を掛けてくるやつがいた。如月だ。一昨日轟沈したはずなのだが、後ろの建造用ドックには建造中の艦が二つほどぶら下がってるのを見ると、どうやら新造されたらしい。
2015-01-23 01:20:55一応ドックの建造時間を確認すると、30分と22分。30ALLのレシピのはずだ。「絶賛補給中だぜ」世界水準の胸を張ると、如月は微笑んだ。「そうみたいですね。でも本当は私と補給したがってたり?」「俺にも相手を選ぶ権利はあるぞ」「まあひどい!私の気持ちを弄んでたの?」
2015-01-23 01:24:54「っていうかあんた戻ってたのか」俺は無視して口を挟んだ。如月は一昨日の作戦で雷撃を食らって沈んだのだ。睦月はせっかく試みたコミュニケーションが不全に終わったことに対して随分へそを曲げたそうだが、そういうのは別に珍しいことじゃない。
2015-01-23 01:27:46むしろ作戦前にまさかの愛の告白をやらかした睦月に対し、艦娘連中は「縁起が悪いにもほどがある」だの「さっさと毛を生やして分けてやった方がよかった」だのと冷やかしを含んだヤジが飛び交うことになった。育毛剤をプレゼントしたやつまでいる。おかげで睦月は恥を忍び、便所に逃げ込むことになった
2015-01-23 01:31:56「ついさっき戻ってきたばっかりなのよ。やっとレベル40になったのに」「よそ見してたお前のせいだろ」「まあそれもそうなんだけど……でもまあ、出番があっただけよかったのかしら」そう言われるとそんな気もしてきた。なにせ俺はせっかくの出番をふいにされたばかりなのだ。
2015-01-23 01:35:35