【亡霊図書館《一》】序章・前日譚

この企画は、『異世界婚礼祭』形式のフェイズ制ルールを使用した、Twitter創作ロール企画です。 【運営・ログまとめ】 満月いおり(@HenatyokoKiller続きを読む
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『亡霊図書館』管理アカウント @PhantomTeller

馬の無い馬車に引かれた、小さなサーカスのようなテント小屋。 その、不思議な移動図書館は、「大人なんてキライ」な子供の前にだけ現れる。 空の上、海の底、地の果て、現在過去未来、或いは世界の壁すら超えて、何処へでも。 pic.twitter.com/yfCRXEoDkg

2015-01-23 18:51:18
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『亡霊図書館』管理アカウント @PhantomTeller

扉を開けた図書館へ、誘われるままに踏み入れれば。 小さなその心を絶望で満たした君を乗せて。 『亡霊図書館』は、音もなく走り出すことだろう。 大人の知らない、子供の国へ。 哀しみの無い、希望の国へ。 不思議な物語を紡ぎ続ける、童話の世界へ。

2015-01-23 18:51:39
『亡霊図書館』管理アカウント @PhantomTeller

やがて馬車は……星空の果て。 星の数ほどの物語で埋め尽くされた、羊皮紙の世界へとたどり着く。 さあ、最初の頁を捲ろうか。 君のために描かれる、特別な童話の、はじまり、はじまり。

2015-01-23 18:58:32

◆赤ずきん《ニーナ》の場合

赤ずきん《ニーナ》 @ver2_17

どろり。 大好きな『狼さん』の胸から、銀色に輝くナイフが生えている。 そして、それを握ったままの、白く幼い指先を伝う、ーー赤。 ぱた。ぱたた。 フローリングの床に、雫が落ちて。 〝ニーナ……どう、して……?〟 『狼さん』の、震える声。

2015-01-21 22:51:04
赤ずきん《ニーナ》 @ver2_17

「……お誕生日……」 囁くような、少女の言葉。 感情の希薄なその声の中に、それでも確かに存在する、『親愛』の響き。 大好きな『狼さん』に、心から、「おめでとう」と……告げる。 ……少女は、狂ってなどいない。

2015-01-21 22:51:22
赤ずきん《ニーナ》 @ver2_17

「……大好きな人に……あげる、プレゼントだから……。……ニーナが、もらって、嬉しいもの……あげようと、思った……」 少女は、はにかむように頬を緩めて。 「……狼さん……嬉しい……?」

2015-01-21 22:51:39
赤ずきん《ニーナ》 @ver2_17

『狼さん』は、ガハ、ガハ、と赤いものを吐き散らしながら、少女を……抱きしめる。 彼は、少女を愛している。 少女もまた、彼を愛している。 〝ごめん……ごめんな、ニーナ……〟

2015-01-21 22:51:56
赤ずきん《ニーナ》 @ver2_17

「……?」 少女には、彼の言葉の意味が理解できなかった。 お誕生日のプレゼントを気に入ってくれたなら、彼は少女に、笑って、ありがとうと言うべきではないのか。 なのに何故、彼は、泣きながら、謝っているのか。

2015-01-21 22:52:10
赤ずきん《ニーナ》 @ver2_17

〝ごめんな、ニーナ……。大丈夫……ニーナは悪くない……悪くないから……。僕たちが……幸せに、なれないのは……〟 ガハ、ガハ、と、赤を吐き。 〝……悪いのは……全部、僕だから……僕みたいな、汚いオトナたちの、せい、だから……〟

2015-01-21 22:52:26
赤ずきん《ニーナ》 @ver2_17

彼は震える指先で、少女の右耳に触れた。 黒く光る、華奢なピアス。 ……その中で、微細な電気信号(シグナル)が、パリパリとさざめいている。 「幸せに……なれない……?」 少女は首を傾げる。 白い髪が、サラリと流れる。

2015-01-21 22:52:39
赤ずきん《ニーナ》 @ver2_17

彼の身体が、力無く床に崩れる。 少女は、呆然と立ち尽くしていた。 「……ニーナの、プレゼント……狼さん……嬉しく、ない……?」 ……なんで?……どうして? 囁くように、少女は問い続ける。 『狼さん』は、応えない。

2015-01-21 22:52:54
赤ずきん《ニーナ》 @ver2_17

「……嘘……嘘だよね……だって、ニーナ……狼さんと、ずっと一緒に……いたかった、けど……狼さん、喜ぶと、思って……ころして……あげたのに……!」

2015-01-21 22:53:09
赤ずきん《ニーナ》 @ver2_17

……少女の囁きは、やがて、悲痛な叫びへと変わりゆく。

2015-01-21 22:53:22
赤ずきん《ニーナ》 @ver2_17

「なんで……なんで、なんでぇ……!なんで、泣くの!!なんで、そんなこと、言うの!!なんで、幸せに、なれない、なんて……!!なんで……!!」

2015-01-21 22:53:33
赤ずきん《ニーナ》 @ver2_17

ーー〝悪いのは、全部、オトナだから〟 「オトナの、せい……?ニーナが、狼さんと、幸せに、なれないのは……全部、全部、オトナのせい……?」 ーー〝そうだよ、ニーナ。ニーナは悪くない。悪いのは、全部、オトナ。全部、オトナのせいさ……〟

2015-01-21 22:53:52
赤ずきん《ニーナ》 @ver2_17

「オトナって、なぁに……?狼さんは、オトナなの……?ニーナは、オトナじゃないの……?わからない……わからないよ……!ねぇ、狼さん……!狼さん……っ!」

2015-01-21 22:54:08
赤ずきん《ニーナ》 @ver2_17

ピキ、パリパリ……。 感情と呼ばれる、微細な電気信号(シグナル)。 『恐怖』は期待へ、『苦痛』は快楽へ。 右耳に接続された『黒いピアス(ペリフェラル)』は、大脳皮質のシナプスより転送されるそれを、正確に、異なる形式へと変換(コンバート)していく。

2015-01-21 22:54:21
赤ずきん《ニーナ》 @ver2_17

しかし……今、少女のシナプスより、ペリフェラルの接続回路を焼き切らんばかりに流れ込む『感情(シグナル)』は、恐怖も苦痛も伴わない……。

2015-01-21 22:54:33
赤ずきん《ニーナ》 @ver2_17

「……オトナ……オトナなんて……キライ……大キライ……ぅ……ぁぁ……ぁぁ……ぅァァああああああァァああああ嗚呼ああァァああああああああああ嗚呼ああアアぁぁああ!!!!!」

2015-01-21 22:54:44
赤ずきん《ニーナ》 @ver2_17

《ーーエモーションシグナルのコンバート中に、深刻なエラーが発生しましたーーー》

2015-01-21 22:54:59
赤ずきん《ニーナ》 @ver2_17

『悲哀』『混乱』『絶望』『憎悪』 少女の細い喉からほとばしるその絶叫が、ピアスの形をとった『ECU(エモーションシグナル・コンバート・ユニット)』による感情制御の、致命的な欠陥を露呈する。

2015-01-21 22:55:12
赤ずきん《ニーナ》 @ver2_17

彼と過ごしたその部屋で、叫び続ける白髪の少女。 彼女の名は『もちもちほっぺの食用少女WHG_ver.2_17(ニーナ)』。

2015-01-21 22:55:27
赤ずきん《ニーナ》 @ver2_17

風が、彼女の悲鳴を遮った。 何故、窓が空いているのだろう。 振り向いた彼女の、涙に濡れた金の瞳が映すのは。

2015-01-21 22:56:07