《記憶》

まー @marble223

あの事故の瞬間だった。「動画？」「あぁ。おまえに見せられて僕もやっとわかったんだ。」カズが動画の再生ボタンを押した。「あ・・・」そこには自分の姿があった。春の甲子園を目指して練習してた頃の自分だ。『うん　やっぱり好きなんだ・・よね』まるで自分に言い聞かせるみたいに呟く先生の声。

まー @marble223

そうだ。コレに違和感を感じたんだ。 俺にはこの動画に映る自分に見覚えがない。いや、微かな記憶はあるんだが、自分がそこで体験した記憶ではないような気がしてならない。春の甲子園を目指して猛練習をしていた。この頃はしょっちゅう頭痛がして…。すると、記憶が鮮明になってきた。

まー @marble223

俺は不思議な感覚を覚えた。今、俺の脳内に浮かぶこのイメージは俺のではない。恐らくカイのものだ。カイの感情だ。俺の中で、今まで夢だと思っていた出来事や、曖昧だった記憶が一気に雪崩れ込んできた。頭が痛い…。 「おい！顔色悪いぞ」「大丈夫」「ちょっと待ってくれ」

まー @marble223

「大丈夫か？この話はやめた方が…」「 いや。大丈夫」先生が好きだったのは、俺じゃない。カイだったんだ。春の甲子園を目指して猛練習していた、あの日、俺のミスのせいで勝てるはずの試合に負け、もう後がない時だった。自分のミスのせいでチームが負け、高校生活最後の憧れの甲子園が遠のいた事に

まー @marble223

精神的に追い込まれてた時に、恐らくカイが表に出ていたのだろう。俺は弱い。何かあるとすぐに逃げる。そして嫌なことはみんなカイにさせて来たんだ。カイは、ただひたすら俺を守っていた。嫌な事は俺が引き受ける。おまえに嫌な思いはさせない。嫌な事は全て夢だからな。と、そう言い聞かせて。

まー @marble223

そして、カイは気付いてしまった。先生の気持ちに。先生は俺じゃなく、自分が好きなのだと。あの時、窓から見ていて、好きだと言ったのはカイに言ったんだ。だから、俺は違和感を感じたんだ。先生は気付いていた。俺の中に2人の俺がいる事にそして悩んだんだろう。 自分が好きなのは誰なんだろうかと

まー @marble223

。「え？じゃあ。先生は…知ってたのか？自分を襲ったのがカイだと」「中平、おまえは勘違いしてる」「おまえが動画を見て、きっと俺が疑問に感じ、おまえに真実を聞きに来るだろうと思ったからだろう？」いや。だから、僕は話すのを躊躇ったんだ」「中平、あの話には続きがあるんだ」

まー @marble223

「あの話？」カイが先生を襲った後、俺の事好き？って聞いた後、先生は頷いたんだ。カイは先生が自分の存在を知ってる事に、そして自分を好きな事に、その時初めて気付いたんだ。それはカイにとって衝撃的だった。愛された事がないカイは、愛される事がわからなかった。あなたは悲しい眼をしてるのね。

まー @marble223

全てを諦めたような、全てを受け入れるような、悲しい眼だわ。そう言って先生はカイの頭を撫でた。私はあなたが放って置けない。あなたに笑って欲しい。 笑う？笑うのはカズがする事だ。俺じゃない。そして先生は聞いた。どっちがあなたなの？梨田くん。俺は醜いし汚い。だから俺はカズとは違うんだ

まー @marble223

あなたは醜くないし、汚くないわ。 おまえに何がわかる⁉︎あなたは優しいわ。私は知ってる。誰かの為に自分を投げ出して犠牲にするなんて、私には出来ない事よ。 でも、あなたは間違っている。それはあなただけが背負うものではないわ。もう一人の自分にも体験してもらうべきよ。 それは出来ない

まー @marble223

俺はカイであってカズではないからな。全くの別人なんだ。1人から2人に分かれたわけじゃない。生み出された人格なんだ。カイは言った。俺はカズを愛してる。そう、愛された事がなかったカイは、自分の気持ちがわからなかった。 誰かの為に犠牲になる。それはカズにだから出来るのだった。カズを独り

まー @marble223

占めしたい。だからカズを奪われるのが何より怖かった。先生は自分の想いが決して叶わない事に打ちのめされた。俺は見たんだ！この目でハッキリと！カイが先生を押したのを！いや、ここ見ろよほら、カイは先生のお腹に手を当ててるんだよ。押したんじゃない。お腹の子を触ろうとしてたんだ。

まー @marble223

じゃ、なぜ先生は？「コレさ」「虹？」「ダブルレインボーさ」「ダブルレインボー？」「そう、幸せをもたらすとか願いが叶うとか言われてる二重虹。先生は願ったんだ。この子が生まれますようにと」「はぁ？そりゃ待てば生まれるだろう」「違うよ。この動画はたまたまスイッチが入ったんじゃない。

まー @marble223

先生が入れたのさ。いつか、この動画を俺が見ると思って。その時に願いが叶う事を信じて」「は？」「あ、いや。何でもない。もうこんな時間か、帰るか？」「いやいやいや、僕はサッパリわからないままだぞ！」「いや、中平の言う通り、動画は全てを物語ってくれたよ」中平は急に落ち着いた雰囲気の梨田

まー @marble223

梨田に驚いた。すると、クスッと梨田が笑って言った。「イブサンローランのルージュは今でも持ってる」「え？」中平は驚いて梨田を見た。イブサンローランのルージュ。それは先生の好きだったルージュで、先生の誕生日の日の放課後、コッソリ職員室に行き机に入れたのだ。なんでそれを梨田が？？

まー @marble223

クスッと笑いながら、梨田は店を出た。中平はハッとして後ろ姿を見た。先生…⁉︎ 決して叶わない自分の想いを、ダブルレインボーに託した先生。 動画を見たカイは、ダブルレインボーを見た。 その時に新しい人格が生まれた。 私の名前はユウ。そしてこの子はカイ。 彼の中に私達は生きている。完