救世主がいた話

とある街に語り継がれる救世主さまの話とその街で暮らす青年の手記から抜粋 (ムゲンWARS_貿の魔王関連資料)
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その昔ここがまだ小さな村だった頃の話。その年は日照りが続き、井戸水は枯れ、穀物もろくろく育たず、動物たちもみんな何処かへと消え失せてしまう様な大飢饉がこの村を襲った。大人も子供もみんな空腹で動くことも出来なくなり誰もがもうダメだと思ったその時だった。我々の救世主さまが現れたのは。

2015-02-09 12:35:50
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それまで嫌なほど明るかった空が突然暗くなり村人たちは雨雲が出てきたのかと顔を上げた。そして自分の目に映ったものを誰もが疑った。そこには村全体を覆うほどの巨大な船が宙に浮いていたのだ。ヤギを模した船首像をつけたその黒く大きな船は白い帆をたたみ次第に速度を落としゆっくりと停止した。

2015-02-09 12:46:39
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戦々恐々とする村人をよそに船から縄ばしごが下され船長と思わしき人物が降りてきた。髪を二つに縛り一見すると女性にも男性にもみえるその人物に「お前たちは何者だ?何が目的で来た?」と村長が尋ねると「私たちは旅の途中のただの行商人です。ここには偶然迷い込んでしまいました。」と丁寧に答えた

2015-02-09 13:09:14
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驚かしてしまって申し訳ないと頭を下げるその人に最初は怯えていた村人たちも次第に恐る恐るといった様子で船の周りに集まりだし、そのうち村の子供が積荷の果物をみつけアレが食べたいと駄々をこね出した。よかったら売りましょうか?と尋ねるその人に村長は悲しそうに首を振って今の村の現状を話した

2015-02-09 13:22:33
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その人は少し考えた後ならこう言うのはどうでしょうと一つの提案をした「私たちの船は今休息を必要としている。なのでしばしこの村の上空に停めさせてほしい。その間の停泊代として食糧をあなた方に差し上げましょう。」村長は目を丸くして驚き本当にいいのかと確認した。その人はただ優しく微笑んだ。

2015-02-09 13:36:23
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それからの行動は早かった。その人は一旦船に戻ると何か指示をしたのか船から次々の積荷が下され船員たちは順番に村人たちに食料を配って回った。それどころか病にかかってる者に薬を与えたりまだ動ける者には日照りでも育つ穀物の種と育て方を教えた。人々は久々の食べ物に喜びそして大いに感謝した。

2015-02-09 13:42:35
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交流は約半月に渡り出航の日には動くこともままならなかった村人たちもすっかり元気になっていた。あなたたちは命の恩人だ、いくら感謝してもしたりないと村長は涙を流し礼を言った。村人たちも同じ気持ちで船員たちとの別れをとても悲しんだ。船員たちを乗せた船は白い帆を張りゆっくりと動き出した。

2015-02-09 14:00:35
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船が幾分か進んだ時だった空に暗雲が立ち込めた。待ち焦がれた雨がやってきたのだ。だがそれはただの雨というには余りに激しく風は吹き荒れ立ってるのがやっとというレベルだった。彼らの船は無事だろうかと雨に打たれながらも必死に顔を上げた村人たちの目に映ったのは見慣れた船員たちではなかった。

2015-02-09 14:09:43
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船員たちの耳は尖り口は裂け鋭い牙をのぞかせていた。あの秀麗な船長でさえも額から船首像の様な捩れた角を生やし柔らかく優しかった目は獲物を狙う獣の如く鋭く研ぎ澄まされ嵐の中でもわかるくらい真っ赤な光を宿していた。その余りにも現実離れした光景に美しさすら覚えるほど恐ろしいものであった。

2015-02-09 16:20:58
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船長が両手を広げると空は大きく裂け船はそこに飲み込まれるかのようにゆっくりと吸い込まれていき二度とその口を開くことはなかった。船がいなくなるとあれほど吹き荒れていた嵐もピタリとおさまり村は元の静かな村に戻ったのだった。あの船はなんだったのか疑問は残るがそれに答えれる者は誰もいない

2015-02-09 16:37:39
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その後この村は彼らにもらった種を蒔き教わった通りに飢饉にも負けない村作りに励んだ。結果ここでしか育たない植物の栽培にも成功し、またそれを売買で村は次第に発展し数十年経った今ではちょっとした街にまで発展した。これもすべては救世主さまのおかげだと当時の村長であった父はよく言っていた。

2015-02-09 16:52:46
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ああ、だが本当にこれでよかったのだろうか?街の人々はみんな救世主さまの話を信じ感謝に救世主さまが下さったこの食べ物を毎日のように食べている。子供も大人も。かく言う俺も生まれてこの方、毎日のように食卓ならぶこれを食べている。何故なら、食べないと俺たちは気が狂って死んでしまうからだ。

2015-02-09 17:00:40
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この街で生まれ育った人間は大半が一生をここで過ごす。出て行った人間も外で伴侶を見つけてはここに戻ってくる。何故ならこの街でしか育たないこの救世主さまがくれた食べ物を食わないと生きていけないからだ。そうしてこの街は発展していった。みんなそれが当たり前だと思ってる疑問に思う人もいない

2015-02-09 17:06:13
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この街は裕福で何も困ることはない。ここにいれば何も気にすることなく安心して一生を暮らせると父は言う。救世主さまのご加護が我々にはついているのだからと。ああ、でも本当にそうなのだろうか?こんなこと考えはいけないとわかっているが俺は思う。そいつは救世主なんかではないと。そいつはきっと

2015-02-09 17:17:42