バンドパロ　荒北編

紫音 @honey2_honey0

バンドパロ～荒北編～ オレがギターを初めたきっかけは、親父が持っていたレコードだった。 擦り切れかけたレコードでも分かる、圧倒的なサウンドやテクニック。 その音に魅了され、親父のギターを借りて練習を始めた。 小学生になったばかりで手も小さく、弾くのは難しかった。

紫音 @honey2_honey0

弦を抑える指先は、何度も皮がむけた。 それでも、前まで出来なかったことが出来るようになっていくのが楽しかった。 文字通り血の滲むような努力の結果、小学校高学年になる頃には、それなりの実力を手に入れた。 それでも幼い頃に憧れた、かのギタリストの足元にも及ばない。

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だから周りからの評価が高くなろうとも、練習を怠ることはしなかった。 中学に上がり、動画サイトの存在を知った。 多くの人に聴いてもらえば、改善すべきところが見つかるんじゃないかと思い、投稿を始めた。 最初は憧れてやまないかの人の曲や、好きなバンドの曲を弾いていた。

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そのうち、自らで曲を作るようになった。 初めのうちは、既存の曲にアレンジを加えていった。 慣れてきたらオリジナルの曲を作り、弾いた。 オリジナルで作った曲は、動画サイトでそこそこ人気になった。 中学2年の夏、一通のメールが届いた。 それは一緒にバンドを組まないかという誘いだった。

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どうやら、メールの送り主は同い年くらいの男らしかった。 メールを交わすうちに、馬が合いバンドを組んだ。 他のメンバーは、彼が連れてきた。 同じ中学でバンドを組もうとしたが、気に入るギタリストがいなく、そんな時にオレの事を知ったらしい。 いい奴らばかりで、オレは胸を弾ませた。

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メールで話し合い、演奏する曲を決めた。 一人ではなく、皆と演奏するのは気持ちよかった。 自分のギターが、他のメンバーの音と混ざり合う感覚は、オレを虜にした。 メンバーの好みや癖に合わせて曲を作り、演奏した。 オレ達は瞬く間に、ネット上で有名になっていった。

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メンバーと共にそれを喜んだ。 中学生の自分達を認めてくれる人達が大勢いる。 そのことが嬉しかった。 いつしかオレは凄腕ギタリストとして注目されるようになった。 オレをバンドに誘った奴は、そのルックスと歌声で人気になった。 他のメンバーはそのことを、祝福してくれた。

紫音 @honey2_honey0

オレ達はもっともっと、皆に音楽を届けようと誓った。 はずだった。 中学3年の夏くらいから、大手のレコード会社からメジャーデビューしないかと声が掛かった。 オレは反対だった。 いくらネット上で人気があってもしょせんは中学生。 それにオレは高校に行くつもりだった。

紫音 @honey2_honey0

だから断ろうと思っていた。 しかし、彼はそうではなかったらしく、相談もせずにyesの答えを返した。 そこで、オレ達は対立した。 他のメンバーはなんとかそれを収めようとしてくれたが、無理だった。 結局オレはバンドを抜けた。 彼は引き留めもしなかった。

紫音 @honey2_honey0

彼らは新たなメンバーを加えてメジャーデビューした。 オレでなくても良かったのだと思うと、全てのことがどうでもよくなった。 それでも、長いこと小遣いを貯めて買った、空色の相棒を手放すことは出来なかった。 受験を気に、動画の投稿もやめた。 ギターは弾き続けた。

紫音 @honey2_honey0

しかし、もうバンドを組むつもりはなかった。 一人で好きに弾ければ良かったのだ。 でも、あいつらが現れた。 前のバンドの奴らは上手かった。 けれど、彼らには無かったものを、あいつらは持っていた。 引き込まれた。 その感覚は、あのギタリスト憧れた時とよく似ていた。

紫音 @honey2_honey0

だから、オレはあいつらとバンドを組んだ。 些細なことで言い合うこともあったが、それを乗り越えてここまで来た。 ステージの上、歓声が聞こえる。 こいつらとならどこまでも行ける。 その思いを乗せ、ギターを弾く。 まだまだ憧れのギタリストには程遠い。 それでもこいつらと追い続ける。