廃棄物日誌番外編 島風短編「SeriousSam-TRIAL-」

廃棄物13号@カクヨム連載中 @eibis_splicer

駆逐艦ほど人間の頃の記憶がおぼろげかつ鮮明に残っている。 この島風も例に漏れず、彼女は自らも知らないうちに記憶に苛まれる。

廃棄物13号@カクヨム連載中 @eibis_splicer

まず最初に再生されるのは女性の恐怖と怒りが混在する表情だ。 彼女は自分に向かって棒状のものを振り上げ、何度も殴打してくる。 『どうして皆と同じようにできないの！隣の子はできるのに、何でアタシの子供だけこんな欠陥品なのよ！』 殴られる自分は何も言わず地面を見る。

廃棄物13号@カクヨム連載中 @eibis_splicer

殴打が止み、顔を上げて「言われたように」笑う。 その痣だらけで鼻血を流しながら笑う歪な笑みに女性は恐怖し、そしてヒステリックに叫んで殴打を再開する。 数度目の殴打が、頭部を直撃し記憶が寸断する。 その際、島風になる少女は吹き飛ばされ、椅子に後頭部を打っていた。

廃棄物13号@カクヨム連載中 @eibis_splicer

次に浮かんだ記憶は、激しくノックされるドアの記憶だ。 『開けなさい！』開けなさいと言われたので、鍵を開ける。 直後先程の女性が悲鳴を上げ、自分を抱き締める。 しかし飛び込んできた男女に引き剥がされた。 その時も、自分は笑う。 言われたように笑う。

廃棄物13号@カクヨム連載中 @eibis_splicer

そこから記憶が鮮明なのに何度も途切れる。 トイレの個室で弁当を食べる記憶。 捨て子、キチガイと罵られ数人に暴行を受けた記憶。 その度に、言われたように笑う。 ズタボロになりながら、傷だらけでも。 何故笑わなければならないのかも分からないまま。

廃棄物13号@カクヨム連載中 @eibis_splicer

赤い。手が赤い。 目の前には顔を押さえて泣き叫ぶ子供。 手には真っ赤に染まった石。 恐怖の表情に染まった子供達。 どうすることもできない少女は、いつものように笑った。 光を失って久しい、空洞のような笑顔を作る。 暗転する。『化け物！』という声だけが、反響している。

廃棄物13号@カクヨム連載中 @eibis_splicer

『近づくんじゃねーよ化け物！』『キモいんだよ！』『笑うな』『何なのあの子！』 『うわぁーっ！先生ー！』『早く保健室の先生呼んで！』『なんてことを！』 暗闇の中、罵声と拒絶と悲鳴が何度も何度も聞こえた。 その度に、自分は笑っていて、大抵その直後に暴力がやってきた。

廃棄物13号@カクヨム連載中 @eibis_splicer

「だって、私化け物じゃないもん」 自分は目の前の大人に言う。 しかし顔は黒い靄に覆われていて、どんな顔をしているか分からなかったが、困惑と怒りと恐怖と同情が同居した顔を、していた気がする。

廃棄物13号@カクヨム連載中 @eibis_splicer

大分時間が進んでから、光が入る。 白いハイエースに連れ込まれる自分。 不潔そうな中年男性三人。 中には下品な笑顔を浮かべて自分に手を伸ばす男たちに、少女はやはり言われたように笑った。 そこから先の記憶はない。

廃棄物13号@カクヨム連載中 @eibis_splicer

雨粒が全身を打つ。 股から流れる血と白濁液。 傷だらけ痣だらけの身体が冷える。 全身が軋むように痛い。 自分は死ぬのか、と想像する。 死ぬと天国に行けるのだろうか。 頬を伝う暖かい液体。 笑う。意識が消えた。

廃棄物13号@カクヨム連載中 @eibis_splicer

最後に再生される記憶は、何処かの屋上。 ベンチの上の縫いぐるみに「またね」と言い残して、彼女は屋上から飛び降りた。 風を切る音と共に地面が急速に近づいて、衝撃と同時に目の前はまた暗闇に閉ざされた。

廃棄物13号@カクヨム連載中 @eibis_splicer

「…何してるにゃん？」「おうっ」 山城の目の前に、上層階から飛び降りた島風がケーブルを足に引っかけ逆さ吊りになっている。 「連装砲ちゃんとかけっこしてたの」 「パルクールなら後で教えてやるにゃん」 島風の頭の下で連装砲ちゃんが見上げている。

廃棄物13号@カクヨム連載中 @eibis_splicer

「山城遅いからいい」「艤装外したらお前並には動けるのんよ」 「ホント！？じゃあ後でかけっこしようよ！」 「海上じゃなきゃいいにゃん」 その言葉を聞いた島風は、とても嬉しそうに笑った。

廃棄物13号@カクヨム連載中 @eibis_splicer

Serious Sam -TRIAL- 終わり