青葉島鎮守府 第六話
- dairokusendai
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衣笠が会議室に入ると、もう先にたくさんの艦娘が集まっていた。護衛船団と第一艦隊はあわせて25隻近い艦娘が所属しているはずだ。ざっと見渡すと、おそらくもう8割方の艦娘が集まっているのではないだろうか?
2015-03-14 01:53:31しばらく待つと真鍮で出来たドアノブがグルリとまわって、水城司令官が入ってきた。脇に資料の束を抱えて、石造りの床をカツカツと音を立てながら部屋の中央に向かって歩く。艦娘一同が敬礼をすると 「はい、ご苦労様」 そう言って司令自ら手際よく資料を配り始めた。
2015-03-14 02:12:10全員に資料がいきわたると、水城司令官は簡単に前口上を述べ始めた。艦娘たちは、提督を取り囲むようにして聞いている。これでは部活のミーティングじゃないかと、司令の補佐官が文句を言っていたことがあったが、私の声がちゃんと伝わるのならなんでもいいだろうと、ずっとこんな感じできている。
2015-03-14 02:14:58「出撃だ」 司令官はそう短く告げた。この鎮守府では珍しいことだ。ここにいる艦娘は基本的に、最前線要塞であるこの鎮守府の防衛のために投入されている。海域攻略なんかは泊地から派遣されてやってくる艦隊が担当することが多く、この鎮守府の艦娘が出撃することは本当に珍しい事だった。
2015-03-14 02:23:44「青葉島からそんなに遠くないところで、海上を走る敵の装甲列車が確認されたらしい。発見した巡洋艦娘数隻が発砲を試みるも、装甲が固くて大した損害を与えられず、敵の応射も激しくてむしろ返り討ちにされたそうだ。諸君にはこれを撃沈してもらう」
2015-03-14 02:31:33「足柄、20.3㎝列車砲の使用を許可する。こいつで敵装甲列車を破壊しろ。第一艦隊は、護衛する深海棲艦がいれば掃討にあたれ。護衛船団は、対潜および列車の護衛に専念してくれ。あとの詳しい概要は……」
2015-03-14 02:38:38司令官の言葉を聞いて、足柄はパッと顔を輝かせる。これが撃ちたくて護衛船団への転属を願い出たのに、滅多な機会でもないかぎり撃たないのでしょぼくれていたから、余程嬉しかったのだろう。目をキラキラと輝かせて、出撃要項を食い入るように読み進めていっていた。
2015-03-14 02:42:23大まかな作戦の概要の説明が終わると、提督が編成を発表した。 第一艦隊:瑞鶴、陸奥、衣笠、古鷹、由良、秋月 護衛船団:川内、大井、綾波、叢雲、足柄、夕張 これを聞いた瞬間に川内が大げさなリアクションを取りながら瑞鶴と一緒なことを嘆いて、瑞鶴に思いっきり蹴られていた。
2015-03-14 02:47:35解散の号令とともに全力で逃げようとする川内を、瑞鶴が追いかけた。何かを大声で叫んでいるような気がするが、全く聞き取れない。提督は規律を守れよーと申し訳程度にたしなめるが、おそらく彼女達には聞こえていないだろう。
2015-03-14 02:54:19叢雲は、会議が終わってもその場に残って資料を眺めつづけていた。自分の動きは大体わかったが、他の艦娘の動きを……古鷹の動きを把握していなかった。資料のページをあっちこっちめくりながら、目を凝らして古鷹の二文字を探す。後ろで古鷹がピコピコと様子を伺っているのに全く気がついていない。
2015-03-14 03:00:52古鷹が後ろで腕を組んで、黙って叢雲を見つめる。しかし彼女は資料に没頭して全く気が付かない。古鷹は少しはにかんだ顔をするばかりで、叢雲に遠慮をして声をかけない。夕張は面白そうに、眺めている。しばらくして古鷹が、おずおずと声をかけるが、集中している叢雲は気が付かない。
2015-03-14 03:05:55「とぉう!」 痺れを切らした熊野が叢雲にチョップをした。叢雲の頭のあれが、驚いてポーンと飛び上がる。熊野に食って掛かる前に古鷹が目に入った。古鷹の少し困った顔をみて叢雲が気まずそうな顔をする。古鷹は熊野チョップに驚きながら、おずおずと叢雲の様子を伺う。
2015-03-14 03:14:47叢雲が口をもごもごさせて言葉を選んでいると、古鷹の方から話しかけてきた。 「一緒に戦えるね、頑張ろうね」 そう言う彼女の顔は本当に嬉しそうだ。彼女の単純さに叢雲は更に困った顔をする。 「……そうね」 咄嗟にそれだけしか出てこなかった。勘違いされたくなくて慌てて言葉を続ける。
2015-03-14 03:25:28「……護るから」 声が小さかったからだろうか、古鷹が首をかしげる 「私は護衛船団員。普段はあんたの何倍も長い物を護っているわ。だから、あんた一人くらい私が護って見せるから」 手に力が籠りすぎていて、資料がくしゃくしゃになっていることに気が付かなかった。
2015-03-14 03:28:22あっけにとられていた、古鷹がクスリと笑った。 「うん! よろしくね、叢雲!」 「あたりまえよ!」 そういって、叢雲は誇らしげに笑った。
2015-03-14 03:34:21「いいねぇ、若いねぇ」 夕張はニヤニヤと笑いながら二人のことを遠目から見つめていたが、大井にスネを蹴られて素っ頓狂な声をあげた。 「ねぇ、聞く気はあるのかしら?」 大井がにっこりと笑う。夕張は冷や汗をながしながら、何度も何度も謝った。護衛船団の副団長は怒るととてつもなく怖い。
2015-03-14 03:40:11それから、二日後の早朝。12隻の艦娘たちは、鎮守府一階のプラットホームから次々と水上蒸気機関車に乗り込んだ。客車の後ろには、巨大な20.3cm列車砲が連結されていた。 汽車は黒い煙を出し、時々汽笛を鳴らして出発はいまかいまかと待ちわびている。
2015-03-14 03:47:58夕張は、乗り込むとすぐに機関室へと向かった。彼女はここの機関士も兼ねているのだ。川内はいつもの自分の特等席の向かいに瑞鶴が座っていて、自分も座るかどうか真剣に迷っていた。 もう間もなく、汽車は出発する。
2015-03-14 03:59:20