エイプリルフールなので軽率に書かれたたてゆら
「優良、その人、なんて言ってた?」「え、っと」いつもはあんまり見ないセンパイの怖いかおに、つい気圧されてしまう。普段のセンパイは、怒ってても優しそうなのに。こんな顔、滅多に見ない。……大学を卒業する前の、あのときみたいだ。センパイが、あたしを助けてくれた、あのとき。
2015-04-01 01:51:18「あたしが、センパイに、大事にされてるって」「それだけ?」「あと、トイレの消臭剤みたいな、その……香水の匂いが、しました。今朝のセンパイと一緒の」するとセンパイは、一瞬だけ目を見開いて、下を向いてしまう。あ、なにか怒られるようなこと言ったかな、と少し心配になった。
2015-04-01 01:55:22「あの、センパイ、もしかして……香水メーカーの社員さんとか、そういうのですか? 追い返しちゃ、悪かったですか?」あたしの頭は、センパイが望むほどには回らないから、こんなことしか言えない。きっとこれも違うのだろう。センパイは何も返さない。
2015-04-01 01:57:33「あの、センパイ、今日、センパイの好きな秋刀魚なんですけど」「優良、」ようやく口を開いたセンパイは、そしてあたしの肩をつかんだ。今にも泣きだしそうな目が、こっちを見てた。「あの人は、優良と知り合う前の大学の知り合いで、縁はきったつもりだったんだけど、また会わないかって言われて、」
2015-04-01 01:59:37その中にあたしの顔が反射して見えるくらい近くにあるセンパイの両目が、もう今にも子供みたいに泣きじゃくりそうなのが、なんだかおかしかった。「センパイ、そんなに早口で言われても、わかんないんすけど……」
2015-04-01 02:01:43「っていうか、肩、痛いっす……」「あ、ああ。ごめん……」慌てたような声でセンパイはぱっと手を離す。センパイの言うこと、やっぱりよくわからないことがある。センパイは格好良くて、やさしいから、友達だって多いし、別に、会わない、なんて言わなくたっていいのに。
2015-04-01 02:05:50「よくわかんないけど、あの人の言う通り、大事にしてくれてるん……す、よね?」「ああ、うん、そうだ」「じゃあ、謝んなくても、大丈夫です。センパイの考えること、いっつも正しいですから」あたしが大学を卒業できたのだって、そもそもちゃんと大学を出られたのだって、センパイのおかげだ。
2015-04-01 02:09:37あたしはセンパイとくらべて要領だって悪いから、センパイの言うことを聞いてたほうが大抵うまくいく。だから、今だってそう。センパイが大事にしてくれてるんなら、きっとあたしは、それで正しい。
2015-04-01 02:10:34「センパイのこと、信じてますから、大丈夫っすよ」センパイはそれっきり、謝るだけだった。謝らなくてもいいのに、だってセンパイは、よくわかんないけど、あたしのことを思ってくれてるんだから、そんなことしなくたって、いいのに。
2015-04-01 02:20:53